俺が全身全霊で誓った『愛の告白』をサスケはどう思ってくれたのだろう――



  





 To nearby for a long time −後編−








しばらく互いに見つめ合ったままだった。
言葉よりも眼で語るサスケだ。
目の前の吸い込まれるような綺麗な瞳を見れば、サスケの気持ちはもちろんわかっているつもりでも、俺はやっぱりドキドキしていた。

サスケが合わせていた視線を手元の花へゆっくりと落としていった。
そしてサスケの手が俺の捧げた花束へと触れる動作までを、俺の視線は余すことなく追っていく。俺はサスケの腕の中に花束が収まったのを確認してからそっと手を離す。
僅かに伏せられたサスケの目元が、長い睫に縁取られて本当に綺麗で、俺はうっとりするようにその表情をずっと見続けていた。
すると、サスケの黒い瞳の色がふわりと柔らかくなったのだ。
あまりの綺麗さに、俺はどきりとする。

「…赤い薔薇の、花言葉って知ってるか?」

どんな言葉が返ってくるのかドキドキしていた俺は、予想外な返事にサスケの顔をじっと見てしまった。
「花言葉って、サスケそんなことまで知ってんのか」
俺とは違い、サスケは聡明で本当に物知りだ。だから俺はいつも頭が上がらない。もちろん頭が上がらないのはそれだけじゃないが、何しろ俺はサスケの存在自体にイカレている『サスケバカ』なのだから仕方がない。
素で訊ねる俺にサスケはちらりと視線を向け、小さな笑みを浮かべた。その表情も本当に綺麗で、俺の瞳は釘付けになってしまう。
「俺の母さん…母親が花が好きで、俺に教えてくれたのを覚えているだけだ…」
花言葉なんてまったく知らない俺は、赤い薔薇にどんな意味があるのかなんて考えてもいなかった。
花に意味があることも意外だったけれど、サスケが自分の母親のことを語るなんて滅多にないことで、俺はそのことに驚いていた。
サスケにとって赤い薔薇に母親との特別な思い出があるのだろうか。
そうと思うと、赤い薔薇の花言葉も、サスケがあえて言葉にしたその意味も、俺はものすごく知りたくなった。
「赤い薔薇って、どんな意味なんだ?」
俺が逸る気持ちを抑えて訊ねると、サスケは薔薇に視線を落としたまま静かに答えてくれた。

「『美しさ』『情熱』、そして…」

とそこで言葉を切ったサスケが、すっと目線を上げて俺の瞳をじっと見返して言った。



「『あなたを愛します』」


―――――――



サスケのその言葉を聞いた瞬間、俺は嬉しさよりも涙が出そうだった。
サスケの瞳の優しさも言葉の穏やかさも、俺の想いに十分に応えてくれていて嬉しさでいっぱいだった。
でもそれだけではなく、俺の告白に対しての自分の気持ちを、花言葉に乗せてサスケは俺に返してくれたのだ。

なかなか言葉にしてくれない素直じゃないサスケの、精一杯の愛の言葉。
それが俺には心が震えるほどの感動だったのだ。


俺は目の前のサスケの肩を引き寄せると、花束を無視して強引にサスケを抱きしめた。二人の間でガサガサと花束が悲鳴を上げているが、俺はそんなことにはお構いなしだった。
「おい…、せっかくの花が潰れるだろうが」
とサスケが引き寄せる俺の胸を押してくる。サスケの言葉に俺は少しだけ腕の力を緩めたが、花束は俺達の間で窮屈そうなままだった。

サスケの肩口に顔を埋めて、俺はただ無言だった。
嬉しいという感情では片付けられなくて、ただ何も言葉にすることができなかったのだ。
サスケの片方の腕が俺の肩へと回され、柔らかく抱きしめられる。何も話さない俺に代わって、サスケが話をしてくれる。
「毎年チョコをくれとうるさいのに、そういえば今年はどうしたんだ?と気にはなっていたが…。それがバレンタインデー当日になったら本気で仕事を抜け出すんだから、どこに行ったのかと思ってたぞ。暗部も火影がどこにもいないって泣きついて来るし、…でもまさかいつもと逆のことを考えていたとはな…」
僅かに笑いを含めながら話すサスケの言葉と手の感触が、すごく温かくて気持ちがよかった。温もりを感じながら、サスケが少しは驚いてくれたんだと思って、俺はようやくぽつりと呟いた。
「…少しはびっくりした?」
俺の言葉にサスケは顔を伏せたままの俺へ顔を向けて答える。
「まあな…。薔薇にはマジで驚いた」
くすりと笑って言うサスケにつられて俺も笑うと、やっと昂ぶっていた感情が落ち着いてきた。
「散々探し回ってもなかなかなくて…。サスケにプレゼント渡して告白するんだって思ってたのにできないかもしんねぇ、って諦めかけてたんだってばよ…。そしたら花屋の前で『バレンタインデーに花を贈りませんか?』って書いてあるのを見てさ、もうコレだ!って思ったんだってばよ。だから…」
感情は落ち着いたのに、堰を切ったように言葉が止まらなかった。
サスケの肩に顔を埋めながら、俺は子供みたいにプレゼントにかけた自分の想いを伝えようと必死だったのかもしれない。そうか、と宥めるように優しくサスケが俺の頭に触れるから、俺はまたきゅっとサスケを抱きしめる。
まさかサスケに贈った赤い薔薇の花が、俺にこんな幸せをもたらしてくれるなんて、本当に思ってもみなかった。
いや、バレンタインデーの魔法かな?と夢みたいな気分で浮かれすぎている自分に笑いが込み上げてくる。


「ナルト」
無言でしばらく抱き合って幸せな気持ちに浸っていると、サスケが俺の名を呼んだ。
俺は肩を抱いたままゆっくりと顔を上げて、サスケを見つめる。
「お前にはこれをもらったが…、俺は何も用意してない」
サスケの言葉に、そういえば毎年ねだってきたチョコのことなんてすっかり忘れていた、と改めて気づいた。
今年は俺からサスケにバレンタインデーに贈りたかっただけだったから、サスケからチョコが欲しいとか、そんなことは何も期待していなかったのだ。
というより、毎年うるさいくらいにねだってももらえなかったのだから、サスケが何も用意していないのは当然だろうと思えた。
「今年は俺が贈るんだって思ってたから、サスケからもらいたいとか、全然そんなこと頭になかったってばよ」
俺が贈ったからなのだろうか、気にしてくれるサスケの気持ちが嬉しくて俺はサスケに笑いかけた。
するとサスケが信じられないような言葉を返してきたのだ。

「どうやらバレンタインデーのお返しは1ヶ月後らしいが…。どうする?ナルト」

どうする?と聞かれ何を?と疑問を持つことよりも、お返しをくれるらしいサスケの言葉に俺が驚いていると、サスケの瞳が急に色を乗せたのに気づいて俺の心臓がどくんと跳ねる。

「今すぐ欲しいって言うのなら、やれるものがあるぞ」

俺の瞳を見返してくるサスケを俺はじっと見つめる。
全身で感じるサスケの視線がさらに欲の色を増し、例えようのない色気を滲ませてくるのを見て、俺はサスケの言葉の意味がわかった。
そして間近にあるサスケの顔が俺に近付いてきたと思ったときには、俺の唇はサスケに塞がれていた。
触れただけのキスが唇を離れる瞬間に、サスケの舌が俺の唇を掠めていく。
キスで灯った欲を互いに瞳に潜ませて、俺とサスケはまた見つめ合っていた。


今すぐ欲しいならやれるものがある。
己自身なら今すぐやれる、と――


サスケの潔くてそれでいて健気な気持ちに俺は参ってしまう。
それ以上に、こんな風に誘われれば、サスケのせいでいつも形無しになる俺の理性は、崩壊寸前だ。
いや、こんな申し出を断るなんて、俺にできるわけがない。

「1ヶ月も待てないから、今もらう」

にやりと余裕を見せて笑って言ったが、きっと俺は欲望丸出しの顔をしていたに違いない。
俺の表情を見ながら、満足したようにうっすらと微笑むサスケを引き寄せる。
そのまま俺は下腹のあたりから滾ってくる勢いに任せて、サスケの唇を荒々しく塞いだ。
俺達の間に挟まれた花束がまたガサガサと悲鳴を上げている。
俺の口付けに応えながら、抱えた花束をサスケが避難させようとしていた。片手を伸ばし脇にあったテーブルへ花束を置こうとしたが、あと少しのところでバサリと落としてしまう。
俺に幸せをもたらしてくれた赤い薔薇には悪いが、もう気にしている場合じゃなかった。
宙に浮いてしまったサスケの片手を俺はぐっと掴む。もう俺に集中しろと気持ちが伝わったのか、掴んだ手を俺の肩へと回させると、いきなりサスケが火影コートに手を掛けてきた。
キスを絡ませながら襟を掴まれ、肩からコートを剥ぎ取られて、俺は手助けするように腕を動かす。
サスケの手ですっかり脱がされたコートが床へと落とされると、俺達は互いの身体に手を回してぶつかり合うように抱き合っていた。











うっすらと汗を乗せた白い肌が、目の前で誘うように揺れていた。


無駄のない綺麗な筋肉がのった背中。
その滑らかな背中から細く引き締まった腰へと続くライン――

目に映るすべてにそそられて、俺は夢中でサスケの身体を揺すり上げていた。

今揺らしているのは俺のはずなのに、目の前のサスケの背中が後ろからの俺の揺さぶりに合わせて別の動きをしているようにも見えた。
手足をついて仰け反るサスケの美しい背中が、俺の突き上げに反応して艶かしく動く。
もう見ているだけでぞくぞくとして、俺の興奮は収まらない。
視覚でも散々煽られて、サスケの中に埋め込んでいる俺のものはさらに欲を膨らませていき、俺はもう早く爆発させたくてたまらくなっていた。

でもまだ、だ。もっと――

サスケの乱れた姿を見たい。



口付けを絡ませ合った後、俺達は互いに服を剥いでその場で倒れこむようにして求め合っていた。
床のあちこちに俺とサスケの服が散らばっている。
昔はベッドまで我慢できずに、欲情したその場でサカったものだった。
その頃のような余裕のないセックスみたいだ、と散らばった服から俺は当時のことを思い起こしていた。


二人とも任務に出ていた頃は、それこそすれ違いも多くて、一緒にいられる時間が本当に少なかった。その反動で帰って来れば欲望剥き出しで絡み合って、そのまま玄関で押し倒したこともあった。
特にサスケが暗部で俺が上忍の頃がひどかった。
任務も違えば、拘束される期間もまるで違っていたから、会えない日々が続くと俺はよくサスケ不足で死にそうになっていた。やっとの思いで会えて抱きしめれば、サスケを怒らせるほど抱き尽くして、はっきり言ってケダモノそのものだった。

会えなくて触れられなかった時を埋めるために、貪るように抱き合って、やっと満足して眠る。
そして切ない気持ちを抱えながらまた任務へと出る。
その繰り返しだったように思う。


ところが俺が火影になり、生活ががらりと変わった。
俺の補佐として常にサスケが傍にいる生活は、たとえ仕事が忙しくても満たされていて、飢えを感じることはなくなっていた。

求めればすぐ傍にいる幸せに慣れてしまったのだろうか。
いや、違う。
飢えを満たすことを優先していたあの頃とは違い、今は触れて、互いを感じて、もっと愛し合うために抱き合うことを知っている。

俺の想いにサスケが素直な気持ちを返してくれたことが嬉しかった。
サスケも俺の言葉と想いが嬉しかったのだと、触れた肌から伝わってくる。

今のこの時を、全力で求め、愛して愛されて…。
二人で満たされたい、ただそれだけ――
だから決して昔のような、欲しくて貪り合う余裕のないセックスではないのだ。



「…なる、と‥っ、…もう、…い‥っ、あ…、あ‥ぁ!」
サスケの限界を訴える喘ぎ声に、俺は後ろから烈しく揺さぶっていたペースを落とす。
突き上げながら俺の手で扱いていたサスケのものもはちきれそうになっていた。

――もっと乱れさせたい。もっと。

まだイかせたくなくて、俺は手の中にあるサスケのものをぐっと掴む。
「うっ‥、あ…っ」
「まだ…っ、イかせねぇ‥ってばよ‥っ!」
俺はサスケのものを強く掴んだまま、人差し指で先端をぐるりと撫でて欲を吐き出す出口を塞いでやった。
「…んっ!あ‥っ‥!!」
特に敏感な部分に触れたことで、サスケが身体をびくん、と震わせ、ひと際高い声を上げる。と同時に、俺の身体にも衝撃が走っていた。
「…う‥っ、くっ…!」
まだ足りなくてイカせないようにしたつもりが、かえってサスケの受け入れている箇所に締め上げられる形になってしまったのだ。じっと俺は耐えたが、奥に引き擦り込まれ、すべてを持っていかれそうになって、思わず声を漏らしてしまう。

やられっぱなしは性に合わない、と無意識に訴えてくるのだ、この身体は。
何度抱いても変わらない、これがサスケ、だ。

煽られたまま俺も大人しくしているわけにはいかない。
沸々と俺の中でオスとしての獰猛な感情が湧き上がってくる。
俺は片手でサスケの細い腰を掴み直して引き寄せた。
強く引き寄せたせいで、突っ張るようにしていたサスケの腕が崩れ、がくんと身体を落とす。それが自然に尻を突き出すような形になり、サスケは肘をついて必死に快楽に堪えるように頭を振っている。
その状態にまたしても俺は煽られ、かっと身体が熱くなる。
本当になんていやらしく誘ってくれるのだろうと思ってしまう。
普段のサスケを知っている者からは、こんなサスケはまったく想像できないだろう。

――俺だけがこんなサスケを知っている。
そんな優越感と興奮でさらに昂ぶってくる。

また視覚でも散々に煽られまくった俺は、ぎりぎりまでサスケの中から自分の猛りを引くと、角度を変えてサスケの感じる箇所を目掛けて思いっきり突き入れていた。
「あああぁ…!!」
突き入れた衝撃で、サスケが喉を嗄らしながら嬌声を上げて足から崩れ落ちてしまった。当然繋がっていた俺は、完全に崩れてしまったサスケの身体に覆いかぶさるような形になる。
そして再び襲ってきた猛りへの締め付けに俺はイきそうになる。サスケの分身を強く握り込んでイカせないようにしている俺が先に果てるわけにはいかなかった。
俺はぐっと歯を食いしばり、イキそうになるのを必死に耐えていた。

「…あ‥」
俺の渾身の突きで身体を崩れさせてしまったサスケから、ぽつりと小さな声が聞こえた。
締め付けに耐えて閉じていた目を開け、俺はサスケを見る。
声のトーンから明らかに様子が変わったサスケをどうしたんだと伺えば、突き入れた衝撃で、床に落としてしまった薔薇の花をサスケは思わず掴んでいたのだ。
呼吸を乱しながらサスケが手のひらをそっと開き、毟り取ってしまった花びらを見つめている。開いた手の中には薔薇の花びらが数枚あり、床にも花びらが散ってしまっていた。
サスケの瞳が薔薇の花びらを見て、切なく揺れているのがわかった。
せっかくもらった花が…と俺が贈ったものだから大切に思ってくれているのだろうか。
だが俺は薔薇にサスケがそんな瞳を向けたことがものすごく気に入らなかった。
俺に幸せをもたらしてくれた薔薇なのに、ただ嫉妬心だけが沸き上がってくるなんて、俺も相当イカレている。
今はもう余裕すらなくて、サスケが俺のことだけに目を向けていないのが許せなくなっていた。

俺だけを見て欲しくて、心の中に湧き上がった苛立ちの感情のまま、俺はサスケの中に埋め込んでいた猛りを一気に引き抜いていた。
「ああぁ‥っ!!」
そして叫び声を上げるサスケに構わず、サスケの分身を掴んだまま俺は乱暴に身体を仰向けに引っくり返していた。
すぐ俺はもう一度猛りを突き入れようとして、サスケの脚を思い切り開く。
サスケの脚を抱え込むと、今まで俺を受け入れていた箇所が目に留まりどきりとする。
俺が散々苛め抜いた箇所が、まだ閉じきらずに紅くひくついているのを目の当たりにしてしまったのだ。俺はあまりのエロさに埋め込む前に暴発しそうになる。
「…く‥っ!」
「あああああぁ‥っ!!」
俺はサスケのそこが閉じきる前に、何とか自分のものをサスケの中へと埋め込んだ。抵抗もなく受け入れられ完全に収め切ると、俺は肩で大きく息をしていた。
サスケも喘ぐように呼吸を乱していて、片手で顔を覆っている。
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返し、俺は呼吸を整えながらサスケの身体を見つめる。


仰向けになったサスケの身体には、俺がつけた赤い痕がいたるところに散っていた。
先ほどまで身体の隅々にまで唇を這わせて、自分の所有印を残しながら思う存分肌を貪っていたのだ。
呼吸に合わせてサスケの胸が上下するのを見ていると、赤い痕がまるで白い肌に咲く、赤い花びらのように見えた。
そう思いながらふと俺は、床に散っていた赤に視線を移していた。気がつけば俺は手を伸ばしていて、サスケが散らしてしまった薔薇の花びらを手に取っていた。
赤い薔薇の花びらを上からサスケの肌にはらはらと落としていく。

大きさも色も、質も違う、白い肌に咲く2つの異なる赤。

俺のつけた赤い痕が、花びらに負けるものかとより赤く色を放っている様にも見えた。
果てそうなのを必死に我慢しているというのに、我ながらおかしなことをしていると思う。でも無性に見てみたかったのだ。
思った通り白い肌に映える様が信じられないくらいに綺麗で、俺は2つの赤が見せる美しさにじっと魅入っていた。


「…お‥い、なに‥してん‥だ、てめぇ‥は…」
すっかりと動きを止めてしまった俺に、サスケが声を掛けてくる。
かざした腕の下の黒い瞳は、過ぎる快楽で潤んだままだった。だが、俺の妙な行動に疑問を持ちながら、その瞳は快楽を途切れさせた明らかな不満を俺に訴えていた。
相変わらず瞳でものを言う、と俺は口元をほころばせた。
「綺麗だなぁ…と思って」
俺の付けた痕と花びらが散る肌に、俺は手で触れそっと這わせる。
白い肌は汗でしっとりとしていたが、決して不快なんかじゃない。むしろうっとりとして滑らかな肌を味わう。快感で敏感になっているせいで、ただ触れただけでもサスケの身体がぴくりと反応を返してくるのだから、俺まで快感が乗り移ってくるようだった。
「なに…くだらねぇ‥こと、‥言ってやが‥る…。も、い‥い加減、に…、イカせ‥ろ、よ…っ」
整わない呼吸でそれだけを言うと、サスケはぷいと顔を横に向けてしまった。
大人気ない、いやサスケらしくない仕草を見て、俺はふっ、と笑ってしまう。
身体の中に溜まった快感が行き場がなくて、まるで拗ねて怒っているようで、そんなサスケがもうやけに可愛く思えてしまって仕方がなかった。
『めんどくせー』が口癖の切れ者参謀がいつも呆れて言うように、俺は本当におめでたいヤツなんだと思う。


――おめでたいヤツで結構。
サスケが好きすぎて言われることは、俺にとっては勲章みたいなものだ。



忍としては超一流。
凛とした美しさの下には、烈火の魂が宿っていて。
冷静沈着と人は言うけれど、俺に対しては全然そうじゃなくて。
バカな俺の本気に、同じように本気で挑んでくる。
綺麗だと言えば、くだらないことを言うなと決まって返してきて、自分ことをまるでわかってなくて。
一見冷たいように見えるが、本当は優しい。
ただ感情の表し方が不器用なだけで。
任務も仕事も何でも器用にこなすくせに、そこだけ損な性分なところが俺は大好きだ。
その優しいところを誰よりも俺が一番知っている。

そして、壮絶な宿命に命を懸けて立ち向かい生き抜いてきたその生き様が、泣きたくなるほど美しくて愛おしいのだ――

そんなサスケが今日、俺に返してくれた言葉を俺は一生忘れないだろう。



ずっと握り込んでいたサスケのものから俺はそっと手を離す。
サスケが短い声を上げて身体を震わすと、欲を塞き止められていたサスケのものも、ひくんと頭を振る。
俺はサスケの両脚を抱えて身体を倒すと、横を向いてしまったサスケの顔を覗き込むように顔の両脇に手をつく。
「‥もう、限界?」
サスケは相変わらず横を向いたまま返事をしてくれない。
意地悪しすぎたか、と俺はごめんの意味を込めてサスケの頬にキスを落とす。ちょっとは俺の気持ちが伝わったのか、やっとサスケが俺の方を見てくれた。
サスケの綺麗な黒い瞳が揺れている。
嬉しくなって俺はサスケの黒い瞳を見つめながら笑いかける。
愛しくて仕方がない想いがどんどんと胸の中に溢れてきて、この気持ちをどうやって言葉にしたら伝わるのだろうと想いを馳せる。

「サスケ…俺はお前がいてくれればいい。…ずっと俺の傍にいてくれるか?」

頭の中ではいろいろ考えていたのに、結局出てきた言葉はさっきの告白とあまり変わりがなかった。
だが、これが今俺が一番サスケに伝えたい言葉なのだろう。
真剣な面持ちでサスケの言葉を待っていると、サスケが返事の代わりに俺の首へ手を回してきた。
素直に言葉で伝えずに相変わらず身体で、の直球なのか、と思っていると、サスケが俺を見つめながら瞳を和らげた。
「…お前が一生、俺の傍に‥いるんだろ?」
自分じゃなくお前がと言うあたりがサスケらしい。しかも「一生」と言葉もつけられてしまった。
そんな強気な言葉とは反対に、サスケは胸がきゅっとくるほどの綺麗な笑みを見せてくれたのだ。
この笑顔は俺だけのものだ。俺の胸に刻みつけて絶対に忘れない。

「お前が嫌だと言っても、傍にいるってばよ…一生な」
俺はありったけの想いを込めて言葉を返すと、サスケの唇を塞いだ。キスを絡めていけば烈しさを増してきて、サスケの両手と両脚が強く俺にしがみついてきた。
俺は再びサスケの身体を揺らし始めると、互いの喘ぐ声が次第に空間を満たしていく。


もうお互いの欲望を止める必要はなかった。
ただ欲しいまま、感じるままに。
二人で一緒に果て、快楽の海へと落ちて漂うだけだった。











「ちょっと待て!何か増えてねぇか、これ!」

バレンタインの夜を最高に幸せな気分で過ごして、翌朝ご満悦で火影室にやって来た俺は、いきなり机の上を見て叫んでいた。
昨日はサスケとの特別な日を過ごすために仕事を放り出してしまったが、随分片付けたと思っていた決裁の書類が目に見えて増えていたのだ。
どう見ても片付ける前くらいの量になってねえか?いやそれよりも増えてるじゃねぇか…と机の上に再び積まれている書類を改めて見て、俺はがっくりとした。

「まだ見てもらいたいものがあるって言ったのに、昨日火影様が早く帰ってしまったからじゃないですか。それに任務報告書も上がってくるんですから増えていて当然です!」
さっそく俺を待ち構えていた部屋付きの中忍が、俺の文句をばっさりとやり返してくる。
昨日のことを出されると何も言い訳ができないが、もっともなことを言われて文句も引っ込ませるしかない。
ちょうどそこへ俺にコーヒーを入れてくれたサスケが、執務机の上にマグカップを置いたので、助けを求めるように俺はサスケを見た。
目が合うとサスケは、まあ、そういうことだ、と言うように目線だけで簡単に俺をあしらうと、すたすたと中忍のところへ行き、今日の予定の確認をし始めた。

(つ、冷たいってばよ、サスケ…)

半分くらいはサスケにも責任があると思うのに、と相変わらずのつれなさに俺は真面目に寂しくなってきた。
そんな気分のまま目の前の書類を見ると、余計に溜息が出る。
だがやるしかないか、と俺ははあ‥と横の書類を手に取ったが、中忍と話をしているサスケを切ない想いで見る。
じっと見ていると昨日の夜の幸せな夜を思い出してしまって、自分の口元に笑みが浮かぶのがわかった。



昨日は散々交わった後、ようやく風呂に入って腹ごなしをしたのだが、それからベッドで眠るつもりがやっぱりまたサスケが欲しくなってしまったのだ。さらに攻め尽くして疲れさせてしまったはずなのに、目の前の姿は隙のないいつものサスケとまったく変わりがないように見えた。
でもいくらか顔色がよくない気がする。遅い時間まで眠らせてやらなかったのだから、当然かもな、と少し心配になる。
だが、心配しつつサスケの顔をじっと見ていると、夕べの悩ましいサスケが浮かんできてしまった。サスケを見ながら、どうやら俺の顔はデレデレと緩んでいたようで、気づいたサスケが目だけで怒っていた。


だってなあ、この隙のない綺麗な顔と身体がいったん欲が灯ると…。

(あ〜んなことになるんだってばよ?)


俺はどうやらめくるめく妄想の世界へ飛んでいたらしい。


「ぜんぜん進んでいないようですが、火影様」
気がついたら目の前に怖いくらいに無表情なサスケが俺を見下ろすように立っていた。
「や、やってるってばよ!」
俺は心の中でひっ!となるが、慌てて書類に目を落としてやっているフリをした。
「ひと言申し上げておきますが…。この書類の山、午前中に半分は片付けてください」
「な、なんだってばよ、それ!そこまでしなきゃなんねぇのか?」
確かに昨日仕事をほっぽり出したから溜まっているのはわかっているが、あまりにも厳しすぎやしないか、と半分甘えるように俺が訴える。


「…そうじゃなきゃ終わらないから言ってんだろうが」


地を這うような低い声で、まるで写輪眼を出す勢いで睨まれて俺はさらに心の中で悲鳴を上げる。

こ、怖えぇぇ…!


「…は、はい。ちゃんとやります…」
ここは素直に返事をするしかない。
もう火影の威厳なんてないも同然だ。



俺は今度こそ真面目に書類に目を通し始めると、サスケはどこかへ出かけるようで中忍に声を掛けていた。
俺が書類から目を離してサスケを見ると、サスケが目の前までやってきた。
「医療班に呼ばれているので行って来ます。昼には戻りますが…それまでには」
「わかってるってばよ…」
「では」
頭を下げてサスケがくるりと背を向ける。すると、扉を開けて出て行こうとするサスケが何かを思い出したように振り返ったので、気づいた俺はサスケを見る。
「昼までに終わっていたら、久しぶりに今日の昼は一楽に付き合ってやるぞ」
「ホントか!サスケ!」
一楽にはここのところずっと行っていない。いや忙しくて行けなかったというのが正しいのか。
一楽のラーメンが食べられるのは嬉しいが、それ以上にサスケが付き合うと言ってくれたことが嬉しかった。
俺はサスケを見ながら、気持ちがそのまま思いっきりの笑顔になる。
俺の顔を見てサスケは一瞬ふっと笑うと、短く俺に返事をして部屋から出て行った。


こういうところが本当に敵わないと思う。
俺はどうしても書類を読むのが苦手で遅い。
こんな書類であっても決裁を下すのはもちろん、里の意思決定を火影である俺自身がやらなければならないことで、サスケが代わりにできるものでもない。
そのかわり、サスケはきちんと支えてくれる。
今だって俺が俄然やる気になるように、一楽の話をしてちゃんとフォローをしてくれたのだ。
まあ怖くて厳しい火影補佐サマなんだけどな。


「今日は何だかサスケさん機嫌がいいですよね」
サスケが出て行ってしばらくして、俺達のやり取りを見ていた中忍が俺に問いかけてきた。
俺が火影になって以来、サスケの下について仕事をこなしてきたこの中忍も、サスケの僅かな変化に気づくようになったのか。
ふむ、俺的には何だかおもしろくないぞ、と思うが、書類から目を離さずに
「そうか?」
と返事をすると、どこがってはっきりとは言えないですけど、と中忍が答えてくる。


普段より機嫌のいいサスケ。
いつも隙のなさを見せるサスケが、隠しておけないほどの感情を滲ませている。
俺はその理由を知りすぎるほど知っている。


「何かいいことでもあったんですかね?」
机の上の書類をまとめながら、中忍が俺に笑顔を向ける。
サスケを慕っているコイツには悪いが、理由は俺だけがわかっていればいい。

バレンタインデーの幸せは、恋人同士の上に降り注ぐ特別なものなのだから。



「よっしゃー!頑張って終わらせて、一楽でラーメンだってばよ!」
俺は気合いを入れ直し、書類と格闘を始める。
すると俺の言葉を聞いた中忍が嬉しそうな声を上げる。
「本気を出していただけて、嬉しいです火影様!それが終わったらまだこれもあるので」
そう言って中忍がまた書類の束を抱えて俺の元へ小走りで近付いてきた。

「ぎゃー!もう勘弁しろって!」







今日は2月14日。バレンタインデー。
バレンタインデーなんて、いったいどこの誰が考えたことなんだろうか。

でも本当にいいものだと思う。

今年のバレンタインデーは、俺に最高の幸せを運んできてくれた。
また来年も『愛の告白』をするのもいい。
どんなバレンタインデーになるだろうか。
大切なのは、また幸せをひとつ積み上げる喜びを二人で感じることなのだ。

来年はチョコくれないかな?とふと俺は考える。
おねだりしたらサスケは聞いてくれるだろうか。
今度はきっとサスケは難しい顔をするに違いない。
そんな顔が浮かんで笑いが込みあげると、薔薇の花を見ていたサスケの顔がすっと意識に浮かんできた。
胸にどんどんと何かが溢れてくる。
愛しさと恋しさと切なさと。
そして――


俺に幸せをくれてありがとう、サスケ。
俺はそれ以上の幸せを、俺のすべてをかけてお前に捧げる。



『ずっと俺のそばにいてくれ』


俺の言葉に応えてくれたサスケに、俺は心の中でもう一度ありがとう、と呟いた。





              嬉し恥ずかしの後書き(まるさんのイラストをお楽しみくださいvv)