DESIRE








欲望とは、何と際限のないものなのだろう。

「欲しい」と「望む」この心が、そうさせるのか。


火の意志と不屈の精神で頂点まで登りつめた、眩い輝きを放つ、その存在。
傍らに立ちその身を守ることを許され、同じものを見、共に生きることが己の拠り所であり、望みだ。
だが――
どんなに望んだとしても、里の象徴であるその存在を己だけで独占することは、もはや叶わない。

たとえそうだとしても。
欲情に捕らわれ溺れ、墜ちることは止められない。
いや、そんな憂慮など無意味なのだ。
金を纏う、この男の前では。

むしろ、この男の中へ墜ちていくことが。

己にとっては狂喜でしかないのだから。










枕元に灯された明かりで部屋の中は暖かな色に包まれていた。
だが穏やかな色とは裏腹に、むせ返るほどの熱気が部屋には満ちている。
濃厚で密度の増した空気を震わせる、荒々しい呼吸音と、はしたないほどの喘ぎ声。
揺れる二つの身体に合わせて、ベッドの軋む音が同調している。

繋がってから、どれほどの時間が経ったのだろう。
自分が何回達したのかももうわからない。
いい加減身体は疲弊しているはずなのに、快楽を追う感覚だけは研ぎ澄まされているのだ。
柔らかい光が照らすものをぼやけた瞳で捉える。
揺れている白いものは高く上げられた自分の脚だった。
そして暖色の光を受け、深みを増した黄金色。
触れたい、と望むまま肩に縋り付いていた手を滑らせ、金色を両手でたぐり寄せていた。
そうしてもっと己を魅了して止まない蒼が目に飛び込んでくる。
欲に濡れて獰猛な光を宿す蒼の瞳に、背筋がゾクリと震える。
求められ欲しがられている快感が、繋がった場所だけではなく触れ合っている肌からも生まれて溢れ――
迫り上がってきた己の中の浅ましい欲情と絡み合っていく。

もう際限がなかった。
快楽に溺れるまま、意識ごと奪ってしまって欲しかった。

どこまでも欲しくて欲しくて、苦しささえ感じて肌にピリピリと電流が走っているようだった。
打ち震える肌のまま、食らうように重ねられた唇を自らも吸い上げた。
潜り込んできた舌を捉えると、自分から烈しく絡ませる。角度を変え何度も唇を貪っては離れ、一緒に舌も絡ませ合う。
金色の髪をまさぐっていた手は、触り心地の良い髪を掻き乱しながら、首の後ろを掻き抱いていた。
浮いた唇の隙間から、くちゅ、と漏れる音にさらに煽られる。滑る舌を追いかけ相手の口腔を侵せば、いなされ舌先を吸われてじんと快感が走る。相手の舌技に翻弄されてしまう自分が口惜しい。
口づけに意識を集中させた分、内壁を突き上げる動きは緩やかになっていた。
緩いストロークがかえって受け入れている後ろを疼かせ、焦れるように内部が蠢くのがわかった。
「・・サスケ、今日はすげえな・・・」
自分の分身に絡みつく動きに気付いたのか、口づけを解いた目の前の男が僅かに驚いた表情を見せる。だがすぐに目を細め小さな笑みを浮かべれば、男前に成長した顔が滴るような男の色気を放つ。
心臓がどくん、と跳ねる。
どこまでもこの男は。
大らかさと厳しさを併せ持つ里の長とは別人の顔をして、己の欲をストレートに刺激するのか。
耳元で「エロいサスケは最高」と言っている相手の方がどれだけエロい顔をしているんだ、と言ってやりたいくらいだ。
揺らされていた脚を男の逞しい腰へ絡ませ自らへ引き寄せる。
「・・・もっ・と、動け・・よ、ナルト」
喘ぎすぎで掠れた声しか出ず、それでも唆すように埋め込まれた雄を入り口から引き絞ってやることで目の前の男を煽る。
先ほどのキスで唾液に滑っていた男の唇がセクシーに歪み、うっ、と言葉が漏れる。
してやった、と思ったのもつかの間、瞳に本気の劣情を宿した男に、分身の源となる弱い場所を一気に突かれた。
悲鳴のような嬌声を上げ、身体がびくんと反応をする。
うって変わった速さで、圧倒的な重量感を増した雄をねじ込まれ、犯される。
快感の泉を不規則なリズムで押しつぶされ、追い上げられ――もう翻弄されるだけだった。

誘ったのは自分からだった。
吐精だけでは得られない、後ろに埋め込まれる充溢感が欲しかった。
男である矜持も、もうどうでもいいとすら思ってしまう。
それにもう恥ずかしがる年でも、間柄でもない。
だが言葉で伝えるより無言で挑発する方法をあえて選んだ。
蒼の瞳を見つめ色を乗せれば、すぐに獣の顔を現した男が自分へと墜ちてきて、そのことにほくそ笑むように満足した。

極みへ向けて烈しさを増す動きに自ら腰を揺らめかせ、己へと引き込む。
互いの腹部の間で、己の分身が擦られる。何度もイかされているはずなのに、まだ欲は収まらない。勃ちきっている己の分身からは欲望の涙が溢れ続けていた。
内壁が力強い雄で掻き乱され、髪をシーツに打ち付けて声を上げて身悶える。

奥へ、奥へ。
もっと、もっと。
その先のもっと、奥深くへ。
男の身体だ。その奥に何があるわけでもないのに。
望む場所に、より確かな男の欲望を埋め込まれたかった。

喘ぎ声に切れ切れの声が混じり、いつの間にか言葉が口をついていた。
「あ、・・はっ、・・な、ナル・・トっ、もっ・・くに、ん!ああっ・・!」
「はっ、・・は、・・ぁ、な・・に、っ・・?サス、ケっ・・う、・・くっ・・」
もう自分で何を言っているのかもわからなかった。
眦に溜まった快楽の涙が、すっと流れ落ちていた。
「お・・くに、・・あ、あっ、もっ・・と、おく、・・に、・・うっ」
「はっ、・・おく・・?」
荒い呼吸に混じって囁かれた言葉に、ただガクガクと頷いていた。背中へと回した手で男に縋り付く。
腰が浮いたことで、逞しく育った雄を律動の引くタイミングで内壁が絞り上げていた。
ぐっ、と動きを止めて男の身体が震え快感を訴える。
眉間に皺を寄せ、苦しげに射精を堪えた男に脚を抱え直され、極限まで脚を開かされた。鍛錬をしている柔軟な身体とはいえ、膝ごとシーツに縫いつけられる体勢に身体が軋む。
縋り付いたまま身体を捻れば、限界まで引き抜かれた雄を一気に奥へと突き入れられた。
高い嬌声は、もう叫びに近かった。

待ち望んだ奥を犯される悦び。
脳髄まで突き抜けるこの快楽は、この男からしか得られない。

上からの重い衝撃に何度も突かれて、もう快楽だけを捉えることしか意識がなかった。
烈しい律動に振り落とされまいと、広い背中に爪を立てながらさらに縋り付く。

揺らされ、翻弄され。
意識が欲を連れて、絶頂へと駆け上がっていく――

受け入れた内部がビクビクと動いて雄に絡みつき、目の前の男が堪えきれずに突いた一撃はより深く奥を蹂躙した。 声にならない喘ぎを放つのと、お互いの欲の解放は同時だった。
叩きつけられる男の精を望んだ奥で感じたところで、次第に薄れていった意識はそこで途切れていた。






しばらくして意識が戻った後、二人でシャワーを浴び汗と汚れを洗い流した。
そのまま眠ってしまうにはあまりの有様で、すっきりとしたのは良かったが、指先ひとつ動かせないほど疲れ切っていたのを、簡単に抱き上げられて浴室に運ばれ――自業自得とはいえ居たたまれなかった。
悪態を吐き、抵抗しようにも、力が入らない身体ではどうしようもない。
烈しいセックスのとんだ代償だ。

欲望の名残でどろどろになったシーツを変え、綺麗に整えたベッドに再び潜り込む。
自分を抱き締めていないと眠れないという男のために、いつものように定位置に身体を寄せる。
馴染んだ体温にほっとして静かに目を閉じれば、男の妙な様子に気付く。
不審に思い顔を見上げると、そこにはふやけたツラをしただらしない顔があった。
何だ、と不機嫌に言えば、いやぁだって、とデレデレとした答えが返ってくる。
「サスケがあんなにも欲しがってくれるなんてさぁ。んで、もう滅茶苦茶色っぽくて可愛いくて・・・」
最高に嬉しい!とせっかく男前に育った顔を崩しまくって嬉しがっている。
可愛いは余計だ、と人の上に立つ立場になっても相変わらずのウスラトンカチぶりに溜息が出る。だが身体の熱が引いた今となっては、自分が晒した痴態にだんだんと恥ずかしさが込み上げてくる。誤魔化すように顔を伏せ、不機嫌を装って答えるしかなかった。
「たまたま、だ」
どういう言い分だろうか、と自分でもわけがわからない。素直じゃないのはもう今さら、だ。
「俺はいつでも歓迎だけどな」
まだ湿り気の残っている髪に顔を埋められ、今度はもっと可愛く誘ってよ、とちゅっと口づけを落とされた。
できるか、バカ、と脇腹をこづいてやる。

抱き締められていた身体がいっそう懐深くに引き込まれた。
睦言を終わりにし眠りに就く体勢に、ゆっくりと再び目を閉じた。
すぐに睡魔が襲ってくる。
すう、と意識が飛びかけたところで、小さな囁きが耳に届いた。

「どんなサスケでも、好きだから」

じんわりと染み込むように響くその言葉に、閉じていた目をそっと開く。抱き締められたままじっとしていていると、しばらくして男の健やかな寝息が聞こえてきた。



どれほどこの男を好きなのか。
どんなに欲しているのか。
嫌と言うほどわかっている。
だからこの男を手に入れるためなら、どうなろうと構わないと身体を開き――
里の象徴であること以前に、ひとりの人間として己のものだけにしたい。
求めれば、それ以上に求められているのにもかかわらず。

際限のない欲望と、独占欲。

そして己の中で擡げる烈情に突き動かされるまま抱かれるのだ。



『どんなサスケでも好きだから』



何を思って、そう言ったのか。
恐らく深い意味などないのだろう。

だが感じるまま告げられた、この男の言葉1つで。

どんな姿を晒そうと、
どんなに歪んだ激情を抱こうと、
お前はお前だと――

太陽のような眩さと暖かさを持つこの男が放つ光に、そう導かれているような気がした。


抱き締められた身体が温かな体温と馴染んだ匂いに包まれ、心の中の暗い澱みは差し込んできた「光」に融かされ霧散していく。

ただ、この時間(とき)だけは、自分だけのもの――

今ここに在る安堵と至福を、ただ噛みしめるように。
ゆっくりと目を閉じた。









ものすごく前にあかねさんより本をいただいたことがありまして、
その時に「じゃあお礼に何か書きます!」と言ってから一体どれだけ日にちが経ったのか・・・汗。
とにかく無事お納めできて良かったです〜!
すんごい大仕事を成し遂げた気分です!良かった良かった!!