サスケの様子がおかしい。
見た目はいたって普通なんだけれども・・・けどどこかおかしい。
そう俺の勘というのか「対サスケ用」の本能が言っている。
そして、この「対サスケ用」の俺の本能が訴えることは外れたことがない。
実は俺はそれが自慢だったりもする。
本人には言えないけれども。

俺はそんな惚れて止まない想い人の後ろ姿に視線を向けた。





  
 世界一のシアワセモノ





ソファーに座って、背もたれに腕を伸ばし肘をつく。
俺はくつろぎながらTVを見て、サスケは静かに本を読む。
そしてときには会話をして――2人で過ごす時の変わらない風景。
でも互いに上忍の身で任務に明け暮れる毎日で、こうやって風呂も食事も済ませ、寝る前のゆったりと過ごす時間をそんなに持てない分、ものすごく大切で貴重だ。
ただ一緒にいるだけで、それだけで満たされる。
まあ、「ただ」一緒にいるだけではすまないこともあるけど。
(「風呂」「食事」の前に速攻「サスケ」でベッドへGO!だ)


俺はTVから流れている映像を見つつ、目の前のサスケの後ろ姿も見る。
サスケはソファーには掛けず、床に座ってローテーブルに忍術書を広げている。背筋をピンと伸ばした姿は隙がないのに、目印みたいな相変わらずツンツンと跳ねている髪のせいで何故か愛嬌があるように思えるから不思議だ。 こんなことを思うのは俺だけか?
いつだったかシカマルにそう言ったら『サスケバカは健在だな』と嫌そうな顔をされた。
そういやサクラちゃんにも言ったことがある。
サクラちゃんも嫌そうな顔をして『なに、それは惚気?』と殺気の籠もった目で睨まれた。
ちなみにサクラちゃんには俺たちのことはバレている。
でもその後で『あんたの思うこともわからないでもない』と、ふふふと優しい顔で笑っていた。
さすがサスケを好きだったことがあるなあ、と「サスケフリーク同士」の不思議な繋がりみたいなのを感じて俺は嬉しくなったっけ。


そんなことを思いながら、俺はサスケの様子を探る。

気難しいところがあるのは昔っから変わらねえけど、怒っているようなイライラしているような。
帰ってきて唇に触れた時、チャクラの流れに違和感を感じたこともあるけど、俺にわからねえように平静を装ってる。
今更俺にそんなことをしたって無駄なのに。
俺にはサスケすら知らない「サスケ」を知ってる自信ってものがたっぷりあるんだ。
俺が「サスケバカ」だっての、わかってるだろ?

何か俺に知られたくねえことでもあるのか?

それとも俺に何か怒っているのか?

こういう何かを隠したがってる時のサスケの口を割らせるのは、やっかいだ。
隠し事をされるのも嫌で許せなくて、昔はベッドでさんざん啼かせて吐き出させたこともあった。
けど、今はそんなことをしなくても俺も我慢強くなったというか、まあ大人になった。
無理矢理言わせるのは簡単だ。でも、それじゃ意味がないってことに気づいた。
ちゃんとサスケと向き合って、サスケの気持ちを知りたい。
無理矢理じゃなく、サスケの言葉で聞きたい。
どんなことでも、何があっても。
俺はいつでも、サスケを受け止められる男でありたいから。


「サスケってば、何怒ってんの?」
サスケは俺がじっと見ているのに当然気づいている。気づいているくせに何も言わない。だから、こちらから仕掛けてみる。
「・・・別に怒ってなんかない」
背を向けたまま落ち着いた声が返ってくる。けど、僅かに背中に緊張が走ったのを俺は見逃さなかった。
「じゃ、何イライラしてんの?」
「イライラなんか・・・」
「本。さっきとおんなじところ読んでるってばよ」
パラパラとめくっては読んでいるように見えたけど、さっきから同じところを何度も見ているのに気づいていた。それを言ってやると、サスケの肩がぴくり、と揺れた。
「・・・・・・・」
「それと、その飲んでんの、俺のなんだけど」
俺のカップを手にしていることも指摘すると、サスケはじっとしたまま動かなくなってしまった。
昔なら『何でもねえっつてるだろ!?』『なんだってばよ!人が心配して言ってんのに!』と言い合いになったもんだ。
一緒にいるようになって、サスケのことを何でも知りたくなって。
好きだと自覚してからは、それはより強くなった。そのことだけに一生懸命になっているうちにサスケがどう言ったら言い返せないのかわかるようになってしまった。これも「サスケバカ」で居続けた賜物だ。
サスケが愛おしくて仕方がなくなって、自然に微笑みが浮かんでくる。
「サスケ」
俺は身体を起こし、サスケの腕を取った。ソファーに座るように促すと、サスケはチラと俺の顔をバツの悪そうな顔をして見た。それでもサスケは溜息をひとつ吐くと、素直に引っ張られるまま俺の隣に座った。
俺は俯いたままのサスケの手を取り、身体をサスケの方に向けてその横顔をじっと見つめる。
伏せられた長い睫毛が、白い頬に僅かに影を落としているのがはっとするほど綺麗だった。
普段のクールで隙の無い表情は成りを潜め、その代わりに少し憂いを帯びたようなサスケの瞳が小さく揺れていた。
ますます磨きがかかった美貌に、やっぱり俺はときめいてしまう。俺の前でしか見せないサスケの表情に嬉しさが込み上げ、俺は本当にこいつが好きなんだよなあ、と実感する。
「何か、あった?」
手をきゅっと握ってしばらく無言のまま横顔に見とれた後、ゆっくりサスケの気持ちを解すように問いかけてみた。
するとサスケは眉間に皺を寄せ始め、すごく不機嫌な顔になった。
よっぽど言いたくないことなんだろうか。ここはじっと我慢か、とまた無言でサスケを見つめる。
どれくらいそうしていたのか。
無言に耐えきれなくなったのか、サスケがちらりと俺に視線を寄こす。
「・・・別に、たいしたことじゃ、ねえ」
「たいしたことじゃなくても聞きたいってばよ。もしかして俺に何か関係あること?」
握った手からサスケの動揺が伝わってくる。うーん俺のことか。一体何だろう?
俺ってばサスケが怒って不機嫌になるようなこと何かしたっけ、と考えていると、はぁと大きな溜息を吐いて、観念したようにサスケがぽつりと話し出した。
「・・・今日、お前木の葉茶通りにいただろ」
「え?」
いきなりの話の切り出しに俺の脳みそがフル回転し始め記憶を辿っていく。

今日の俺の任務は大名の護衛だった。
でも待機所に着いた途端、任務が突然キャンセルになったと言われ、なんと俺は任務にあぶれちまったのだ。人手が足りない、といつもなら散々こき使われるはずなのに、今日に限って振り分けられる任務がないときた。
えーなんだってばよそれって、そんなに暇だったのか、この里は!とばあちゃんに文句を言いに行ったら、『忙しいのにそんなことをいちいち言いに来るな!里の巡回でもしてこい!』と煩そうに追い払われたんだった。
任務の始動のタイミングが悪かったんだろうと諦め、結局同じく任務にあぶれた中忍の1人と里の様子を見て回った。そして大した問題もなく巡回も終えて早く帰ってくることができて、こうしてサスケとゆっくりできてるわけだ。普段忙しい分、たまにはいいかとそう滅多にない幸せに俺は嬉しかったりして。
と、暢気な気分で記憶を辿っていたら、サスケが言葉を漏らす。
「・・お、女の人が座りこんでてお前助けてただろ」
言いにくそうにぼそっと話すサスケの言葉に、俺もああ、と思い出した。
木ノ葉茶通りは茶屋や甘味処や並ぶ、アカデミーからも近い賑わいのある通りだ。
日中なら店を利用する人で結構人通りも多い。
今日も角を曲がって木ノ葉茶通りに入ってすぐ、人が多いなあと歩いていた時に、人だかりができているのに気が付いた。
「人が集まってっから行ってみたら、女の人が具合悪そうに蹲っててさ。で、あんまりにも顔色悪かったから、すぐ病院に運んだってばよ、そういえば」
今日は気温も高くて蒸し暑かったから、その女の人は貧血を起こしたらしかった。病院に運んでしばらくしたら落ち着いたみたいで、俺もホッとしてまた巡回に戻った。
けどあん時はサスケの気配しなかったけどなあ。気付かないなんて、俺的になんかすげえ失態だな、うーん。
「サスケってば近くにいたのかぁ、そん時。・・あれ?でもサスケって今日は・・」
サスケは今朝早くに任務に行って1日里にいなかったんじゃなかっただろうか?
俺が不思議に思う前にサスケが先を話し出す。
「・・・お前が木ノ葉茶通りにいた時、いったん里に呼び戻されてまた出る途中だった」
「そうだったんか。だったら声掛けてくれれば良かったのに」
「暗部の格好で話しかけられるか、ウスラトンカチ」
それなら気配に気付かなかったのも仕方がないか、と俺はホッとした。暗部としてのサスケはそりゃあ優秀で、サスケは写輪眼のお陰で今でも時々暗部に駆り出される。いくらサスケの能力が貴重で代わりがないと言っても、ばあちゃんはホント人使いが荒いよな。
そんな感じで少しずつ話をしているうちにサスケの表情も落ち着いてきたみたいだった。
けど俺の中では疑問は残っている。
サスケの様子がおかしい原因はまだわかってないままだ。
俺はサスケの手を両手で包み、口元近くに引き寄せてサスケの瞳を見ながら改めて聞いた。
「俺が木ノ葉茶通りにいたのをサスケが見たのはわかったけど、そんでサスケが怒ってるつーか機嫌が悪いのはどうしてなんだってば?」
決して問いつめるのではなく、やんわりと俺の疑問をぶつけると、サスケがぎくり、とする。
「だから、怒ってるわけじゃねえって、・・」
「俺が何かしたから、機嫌悪いんだろ?」
「・・・・・」
俺のしたことでサスケが不機嫌になっているのはわかっているから、どうしてもそれが何なのか俺は知りたかった。俺が悪ければ謝りたいし、サスケが何か誤解しているのなら、それを解きたい。
でも今日はいつにも増して頑なだってばよ、サスケさん・・・。
さてどうしたものかと思い、こうなったら仕方がないと俺は悪戯心を擡げる。
「言わねえんだったら、俺はベッドの中で無理矢理聞いてもいいんだぜ?」
にやりと笑い、両手で包んでいたサスケの手にキスを落とす。手の甲に指にとゆっくりと唇を滑らせ、視線はサスケの瞳を捉えたまま離さなかった。
俺の言葉の意味することを当然サスケもわかっている。わかっているから、ぐっと力強さを蘇らせた綺麗な黒い瞳で、欲を滲ませた俺の瞳をじっと見返してくる。サスケはふっと力を抜き視線を逸らすと、再びはぁと溜息を吐く。
「・・・っ・・たくなかったんだよ・・・」
「え?なに?」
聞き取れなくて問い返す俺に、空いている手で見られたくないかのように、サスケは顔を隠しながら言った。
「おまえがっ!・・女を抱き上げたりするのを見たくなかったんだよ・・っ!」
「は?」
確かに病院に運ぶ時に動けなくなっている女の人を抱き上げて運んだ。
それをサスケが見ていて、見たくなかったって、それって――
「べ、べつに何でもねえことなのに、俺も同じ立場だったらそうするだろうって思うのに、お前があんなことをするのが・・・。自分がこんなこと思うのも嫌で・・・」
何だかもう言いたくないことを必死に話しているサスケが、いじらしくて仕方がなかった。
俺はたまらなくなって、手を引っ張りサスケの身体を引き寄せた。
体勢を崩したサスケをそのまま自分の胸で受け止め、横抱きにしてぎゅっと抱き締める。
洗い立てのパジャマと風呂上がりのサスケの匂いが俺の胸の奥まで染み込んでくる。俺は黒髪から覗いているうなじに頬を寄せて幸せを噛みしめる。
抱く力を緩めないままそうしていると、サスケの手がそっと俺の腕に触れた。
ゆっくりと身体の緊張を解いたサスケの重みが俺の胸にかかってくる。
サスケの全部が委ねられているみたいな至福に、俺ってばサスケに惚れられてるんだ、と嬉しさしか溢れてこない。
じっと言葉もなく抱き締めていると、何も言わない俺に不安になったのかサスケが言葉を漏らす。
「お前を見ると思い出してムカムカして、これじゃあ嫉妬丸出しで・・・。あまりにも情けねえだろ」
くっつけた肌を通して、サスケの言葉が俺に響いてくる。
サスケにこんなに想われるなんて、この世で俺しかいない。
嬉しくて嬉しくて、もう叫んでしまいそうなくらい。


ああ本当に、とんでもなく好きだ、こいつのことが。


「なんか俺に怒ってるのかと思ったってばよ」
幸せな気持ちのまましばらく抱き締めた後、腕の力を緩めサスケの顔を見て俺は微笑む。
「・・・だから、お前に怒ってるんじゃない。自分に呆れて・・情けなかっただけだ。だからもう離せ・・」
「いやだ」
「・・ナルトっ」
俺はそのままサスケの頬に額にキスを落とし、最後に唇に啄むようなキスをした。
「こーんな嬉しいこと言われて離せるわけないだろ?」
サスケは知られたくなかったことを言ってしまっためか恥ずかしくて仕方がないらしく、どうやら俺の腕から逃れたいらしい。
冗談じゃねえ、離すわけないだろう。
逃げ腰になっているサスケの身体を引き寄せ、くるっと身体を反転させてソファの上にサスケの身体を押し倒した。
俺の肩を押そうとするサスケの手を絡め取り、ソファに押さえつけて唇を塞ぐ。
「・・んっ、・・んぅ・・」
唇を強引に割り、差し入れた舌でサスケの舌を絡め取る。捕らえた舌を自分の方へ引き込んで吸い上げると、サスケの肌がぶるっと震える。粘膜という粘膜を舌で辿って愛撫を繰り返せば、サスケの身体はもう力が抜けきっていた。
たっぷりとサスケの唇を味わって満足した俺は、くったりと力の抜けたサスケの身体を起こし、立ち上がって腕を引っ張る。
「んじゃ、ご希望にお応えして」
そう言ってにやりと俺は笑ってサスケを立たせると、その身体を抱き上げた。
「ナルトっ!てめえ何しやがるっ!?何がご希望だ!希望なんてしてねえ!降ろせっ!」
「うわわっ、暴れるなって!落っこちるだろ?」
キスの余韻なんてこれっぽちもなく暴れるサスケを宥めすかし、何とか寝室に運ぶと、俺たちはそのまま無事にベッドインした。


当然、セックスはあっさりと済むわけがなく。
ベッドで啼かせて吐き出させた過去と変わらないくらいの勢いで、俺はサスケを抱いた。
でもその時と違うのは、啼かせたいからではなくて、サスケを目一杯愛したかったからだ。
烈しい快楽に晒され続けて『もうイヤだ』と嫌がるサスケを『好きだ、俺はお前のものだから』と口説いて何度も身体を開かせてしまった。
最後には涙を散らしながら快感ごと意識を飛ばしたサスケを、決して独りにしたりしない、と誓うように俺は強く強く抱き締めた。

サスケの身体を丁寧に清めてから、そっと抱き寄せて俺ももう一度ベッドに横になった。乱れてしまった黒い髪を梳いて、快楽の涙の跡が残るサスケの目尻をそっと拭い、寝顔を見つめる。
色白の顔はいくらか疲れているようだけれど、安心しきった寝顔に心が満たされる。
や、ダメだ。やっぱり顔がにやける。
だって、当たり前だろう。
普段からサスケを独占したくて仕方がない俺にとって、サスケから向けられる独占欲は嬉しい以外何ものでもないんだから。
幼い頃から追って追って、追いかけ続けてやっとお前を手に入れた、この俺の幸せはお前にも想像がつかないだろう。


サスケ、俺はお前のものだ。


そして、お前は俺の、俺だけのものだ、サスケ。



飽きるほど、いや実際は飽きるなんてことはないけれど、俺はサスケの顔をずっと見続けていた。
気が付けば空が白見始めていた。
結局烈しくイタシてしまったから、起きたらさぞかしサスケの機嫌は超低空飛行だろう。
写輪眼全開、いや千鳥かもしれない・・・。
俺は許して貰えるまで土下座して謝るんだろう。
そんなこともきっと俺は嬉しくて、幸せになる。


俺は世界一の幸せ者なんだから。


サスケの肩まで薄手の布団を引き、身体を俺の胸に引き寄せる。
こて、とサスケの頭が俺の胸に落ちてきたのに思わず笑ってしまう。

ああ、ほら。本当に幸せだろ?俺ってば。

幸せで泣きたくなることって、あるんだな、と腕の中の温かな身体にほっと安堵して、俺は静かに目を閉じた。







一日遅れちゃったよ〜〜!(涙) サスケ!誕生日おめでとう〜!