pure
礼装用の服に着替え終え、小さなソファーに投げ出すように掛けられていた火影専用のコートを手にする。
白いそれを手にして目線を上げた視界にちょうど窓を捕らえた。あまり意識をせずに外を伺い見る。
火影室の隣にあった書庫を改造して作られた仮眠室のためか、ここには小さな窓1つしかなかった。その小さな窓からでもどんよりとした雲がたれ込めているのがわかるほど空は暗く、天気は下り坂のようだった。
(寒くなりそうだな、今夜は)
そう心の中で呟いて、俺は火影室に続くドアを開いた。
「何故そこまで火影が付き合わなきゃならない」
火影室に戻って散らかったままの机を見て、コートを手にしたまま取りあえず机の上をまあいいかと適当に片づけていると、俺に向けて憮然とした言葉が掛けられた。
火影室の脇にしつらえられた応接セットのソファーには、黒檀の瞳を持つ怜悧で美しい彼がいるだけだ。手にした指令書から目を離すことなくそれきり沈黙する彼――サスケに俺は視線を向けた。
僅かに俯いたような仕草で、静かに手元の書類を見る彼の顔を俺はじっと見つめる。
いつも思ってしまうことだが、たとえ憮然としていようがその美貌は褪せることはなく、目を見はるほど綺麗だ。
しかも美しさだけじゃない。
サスケが座っているソファーの横には暗部の装填具が置かれ、サスケは暗部のアンダー服に身を包みベストを肩から無造作に羽織っている。
普段の忍服ではない暗部のアンダー服を纏っただけの姿は、彼のスタイルの良さをそのまま露わにし、危ないほどの色気を醸し出している。
やっぱりこの格好をさせるのはいろんな意味で危険だと思うけれども、心臓を鷲掴みされるほどの殺気を纏う彼を前にしては、他の者はとてもそんな余裕はないだろう。
まあ俺くらいのものだろう。サスケの恐ろしい殺気を前にして勃ちそうなほどに興奮するのは。
そんな危険な色気を振りまいているサスケの不機嫌の元は俺なのだが、見方を変えれば嫉妬とも取れるその態度にどうしてもにやけそうになる。
俺は片づけてもさほど綺麗にならない机の上に見切りをつけ、出掛ける準備をするために白の装束を羽織りながら答えた。
「招待されているんだから行かないわけにはいかないだろう?それにそういうのにも顔を出したほうがいいって言ったの、補佐官どのじゃなかったっけか?」
と俺は、ソファーに座っているサスケに笑いかけて、わざと役職で呼び意地悪をしてみる。
年末を控え忘年会だクリスマスだと火の国の大名たちのパーティーが盛んで、火影である俺の元へはその招待状がたくさん届いていたのだ。
忙しいのには違いはないが、火の国の中央へも影響力を残すことはもちろん、大名とのパイプをより強固にするためにもこんな「付き合い」でも大切にしなければならない。
来るもの全てに顔を出すわけにはいかなかったが、時間の許す限り出掛けていた。
そしていくつか顔を出すうちに、気付いたことが1つ。
どこに行っても必ずと言っていいほど、女の人を紹介されるのだ。いわゆる適齢期の女性ばかり。
自分の年齢を考えれば回りもそう考えるってことか、と妙に納得してしまった。
「だいたい、奴らの目当ては『火影自身』なんだろう」
確かに表向きは外交でも明らかに別の意図を持った招待ではあったが、いつもクールなサスケから珍しくあからさまに嫉妬を向けられ、俺は「おおっ」と内心喜んでしまう。
俺としては嬉しさしかないが、このサスケらしくない言動の裏にはもう1つ理由がある。
火影である俺の補佐をこなすサスケも、こういった催し物でも当然俺に付き添ってパーティーに出向いていた。
そして何度目かのパーティーで、例によって例のごとくこれがまたいわゆる「お見合い」のためのものだとわかった途端、傍に控えていたサスケが突然「切れた」のだ。
いや「切れた」といっても怒って怒鳴ったりということではない。
何も表情を変えないまま黒いとぐろを巻いたような殺気を放ち、パーティーの会場を一瞬で凍らせたのだ。
まずい、と気付いた俺はサスケを目線だけで正気にさせたのだが、紹介されようと控えていた女の人は目の前で怯えるし、回りは怪奇現象だ!と騒ぎ出すし(確かに窓ガラスがビキィと音を立てた)、俺は騒ぎになりそうなところを何とか取り繕ってその場を収めた。
俺個人としてはサスケの嫉妬は嬉しいことだが、火影が蔑ろにされていると思っての行動と差し引いても、さすがにこれはいただけない。
以降、俺はパーティーにサスケを同行させなかった。理由はサスケもわかっているので何も言わず、大人しく従っている。
そして今日もパーティーに出掛ける俺に同行させることなく、代わりに任務に出すことにしていたのだ。
「パーティーに同行させない上に任務に出すことが不満か?」
コートの襟を直しながら俺は強い視線でサスケを射抜くように見る。
「・・・そんなことを言っているわけじゃない」
俺の発するチャクラで空気が変わったのに気づき、サスケははっと指令書から目を上げ、俺を見る。俺はあえて火影の言葉と意志でもってサスケに厳明する。
「わざわざお前を暗部として任務に出す意味はわかっているだろう?お前にしか任せられない」
俺の言葉に冷静沈着な忍びの顔でもってサスケが応える。
「うちはサスケ」にしか任せられない任務――
国境付近に発生した不可解な結界が、草隠れの里の抜け道へ繋がっているとわかったのだ。
そんなものを放置できるわけがない。
即刻その結界の破壊、そして一帯の集落に潜む敵忍の抹殺と周辺の里人の記憶操作なんて荒技を短時間のうちにこなせるのは写輪眼を持つサスケしかいない。
「今回の任務の情報もせっせとパーティーに出ていたから掴めた情報だ。まんざら無駄になっているわけじゃない」
実際に出向いてみれば大名同士の交流関係や他国の情勢から醜聞まで、いろいろな情報収集に事欠かなかった。すべて同じく同行させていたシカマルにデータとして残すことも命じている。
火影になってまだ1年。
火影としてまだ駆け出しの俺には足りないものだらけだ。行動1つ1つを無駄にしたりはできない。
情報も経験も人としての豊かさも、何もかもがまだまだだ。
だが、たとえ足りなくても守らなければならないものがある。
木ノ葉の里も里の人間も、俺にとっては何にも代え難い家族。
それを守るために俺は、生きていくのだから。
そう、目の前にいるこの美しい彼と共に。
二人の間でぴんと張った空気がしばらく流れた後、俺はふいに相好を崩してまた空気を変えた。
「だから機嫌直して任務に出てくれるか?」
我ながら甘い声で任務を下している、とおかしくなる。
桃色の髪をした今では医療部門のトップにいる旧友が聞いたら、火影としての威厳がないと叱られそうだが、俺がわざと下手にでて言っていることをサスケもわかっている。
だってやっぱり。
嬉しいじゃないか。
あのサスケが嫉妬する自分を持て余すくらい、俺のことを好きだと全身で言っているのだから。
これくらいは大目に見て欲しい。
俺の変わりようにサスケは僅かに驚いた顔を見せ、溜息を吐いたと思ったら脱力している。
なんだ?まだ足りないのか、俺の愛が。
俺は両手を広げて惚れて止まない彼の人の名を呼ぶ。
「サスケ」
まるで何でこんなヤツに惚れたんだろう、と思っているような顔でサスケは俺を見る。
む、俺の愛を信じていないのか?足りないのかこれでも、ふうんと鼻を鳴らすと、サスケが小さく息を1つ吐き、羽織っていたベストを肩から滑らせ、立ち上がった。ぱさりとソファーの上にベストが落ちる。
ゆっくりと俺の傍まで来たサスケの腰を両手で引き寄せる。僅かに下にあるサスケの瞳を俺は覗き込んで目線を合わせる。
濡れているように綺麗な黒の瞳が俺だけを見ていることが嬉しい。ふっと俺が微笑むとサスケがぼそりと呟く。
「情けないくらいに嫉妬に振り回されて、俺は補佐失格だな・・・」
瞳が長い睫毛の奥で揺れ、滅多に見せない弱気な表情からサスケの気持ちが伝わってくる。これは俺だけに見せてくれるサスケだ。途端に愛おしくなって、俺はサスケの唇にキスを落とす。
「俺はサスケの嫉妬に振り回されたいけどな」
ニヤリと笑ってそういうと、サスケの目の縁が赤くなった。サスケはお決まりのセリフを1つ俺の耳元に落とすと、両手を持ち上げて俺の肩へと回す。
まるで甘えられているようで嬉しくて、俺は抱きついてくるサスケをしっかりと受け止める。
いつまでもこうしていたいのだけれど、ふと近づいた気配に気付いたら、俺を呼びに来た暗部が扉の傍に現れ、俺たちを見て面食らっていた。
邪魔するなよ、と俺はしっと指を立て、目だけで合図する。当然サスケも暗部には気付いているのに抱きついてくれているんだから。
わかってるな、と目だけで言うと、戸惑ったままの暗部はそのまま消えた。
「・・降ってきたな」
外の様子に気付いたサスケが漏らした言葉に、俺も窓の外に視線を向ける。火影室の窓の向こうをちらちらと掠める白いものを抱き合ったまま2人で見つめる。
「今日はクリスマス・イブイブって言うんだってさ」
「・・・?何だそれは」
「ん?クリスマスの前の前の日だから、イブイブ」
「・・・・」
あまりイベントに興味のないサスケはわけがわからないと言った顔をしている。
「サスケ、帰ってきたら、クリスマス一緒にしよう」
「クリスマスの日までに帰ってこられるのかわからないのにか?」
「ん?帰ってくるだろ?うちはサスケが任務に出るんだ。とっとと片づけてこい」
「簡単に言ってくれる」
フッと苦笑してサスケは俺に抱きついていた腕を解くと、さっと纏う空気を変えた。
びりと音がしそうな殺気を静かに放出し、同時に危険なほどの色を漂わせる、サスケが暗部の顔になるこの瞬間が、俺は最高に好きだ。
「では火影様、行って参ります」
俺の目の前で片膝をつき、サスケが一礼をする。
「気を付けて、行ってこい」
サスケはもう一度頭を下げると、立ち上がって暗部のベストを羽織り、装填具と共に一瞬で消えた。
ぽつりと残された俺は、ふと溜息を吐いた。
任務に出したのは自分だが、いささか寂しさが付きまとう。火影だって人間だ、と思う俺はまだまだ甘いのだろう。
でも今は――。
窓の外は勢いを増した雪が木ノ葉の里を白く染め始めていた。
これは積もるかもしれないなと心の中で呟くと、後は任務へと旅立った彼の人へと、想いを馳せるだけだった。
「アナログ」のまるさまのこの素敵イラストを見てえっらい萌えてしまい、ご了解を得て話を書かせて
いただきました。
いやもう了解をいただく前に気が付いたら妄想話を書き始めていたんですけどね・・・(汗)
まるさんにそのコクハクをしましたら、「差し上げますvv」と仰っていただき、太っ腹な優しいお言葉に
万々歳しました〜!
そしてその話ができた暁にはまるさんへのプレゼントとさせていただくことになりました。
クリスマスに合わせて手を加えてみたのですが、詰めの甘さがばっちりとわかるシロモノで
こんなのを差し上げて良いものかと思ったのですが、まるさんにもすごく喜んでいただけましたvv
人様のイラストから妄想しての創作はとっても楽しかったです!
まるさん、イラストに話をつけることを快諾していただき、そしてつたない話ですが喜んで受け取ってくださって
ありがとうございました〜。
また素敵な萌えイラストをよろしく〜!