Love perfume








明日の早朝から任務に出るために、リビングの隅に座って荷物の準備をしていた時だった。
一週間ぶりに帰ってきてから風呂場へ直行し、暑い暑いと言っていたナルトが、急にくんくんと鼻を鳴らし匂いを嗅ぎながら俺に近付いてきたのだ。
さらに鼻を鳴らしながら俺の近くまで来ると、今度は俺の匂いを嗅ぎだした。
「お前、何やってんだ」
「何か、匂いがするってばよ」
そう言いながら同じように床に座ってきたかと思ったら、俺の身体に手を回してきて、服から髪からあらゆるところの匂いを嗅いでくる。
帰ってきて風呂に入って身体は洗ったのだし、汗臭くはないはずだ。だが自分の匂いを思いっきり嗅がれるのは、決して気分がいいものではない。
それよりも荷造りの邪魔だ!
「準備ができねぇだろうが!どけ!」
あまりのしつこさに俺が声を荒げて後ろにいるナルトを手で避けようとすると、「あ!ここだ!」と言ってナルトが俺の腕を掴んで叫ぶ。
「ここからだってばよ、匂いがすんの」
「あぁ?」
腕を掴んだまま、ナルトが俺の左の手首のあたりの匂いをくんくんと嗅いでいる。
「何なんだ、お前は!」
「ここ、何かいい匂いがするってばよ」
「はあ?」
俺の肩越しに顔を寄せてきたナルトが、俺の顔を覗き込んでさらに問いかけてくる。
「なあ、何でここいい匂いすんの?」
いい匂いがすると言われても、俺にはコロンみないなのをつける趣味はない。というか、忍がそんなものをつけるわけがない。
俺は腕を掴まれたまま首を捻るしかない。だが、また手首に鼻を寄せて匂いを嗅ぐナルトを見ていたら、ふと思い出したことがあった。
「…手首、湿布したなそういえば」
「湿布?」
任務中に、中忍をかばって危険を回避した時に、手を少し捻ってしまったのだ。たいしたことはなかったのだが、かばってやった中忍が大層気にして、湿布をくれたのだ。
とはいっても、それはもう3日も前のことだ。しかも湿布をしていたのも半日くらいで、まさかそんな匂いなんて、とナルトに掴まれた手を引き寄せて俺も鼻を近づけてみる。僅かではあるが、確かに何か匂いが残っていた。
だがこんな僅かな匂いにナルトは気づくとは、どういう嗅覚してるんだ?と俺は驚きの顔でナルトをまじまじと見る。
「お前、こんなちょっとしか残っていない匂い、よくわかったな」
俺がそう言うと、ナルトは俺の顔を見てにやりと笑う。
「そりゃわかるってばよ、いつもと違う匂いがすれば。サスケの匂いかそうじゃないか、俺がわからないわけないじゃん」
匂いでわかると断言されて、感心するよりも妙な恥ずかしさを感じてしまう。それを隠すために俺は目を逸らして、ナルトに掴まれた手を引っ張って離す。
「…お前マニアックすぎだろ」
「あれ?知らなかった?俺がどんだけサスケマニアかって」
俺の耳元でそう囁きながら、ナルトは両手で俺の腰をぐっと引き寄せてくる。そして手のひらで俺の腕を撫で、匂いの残る俺の左手首をまた掴んできた。ナルトは俺の肩に顎を乗せたまま、俺の手首を引き寄せると今度はキスを落としてくる。匂いをまた嗅ぎながら舌まで這わせられて、俺の身体がぴくりと反応する。
「コレいい匂いだけど、でもサスケの匂いの方が断然そそられるってばよ。知ってるか?お前の匂いもいろいろあるんだってばよ」
「な、に…いって、ふ‥っ」
ナルトのもう一方の手が俺の腰から脚の付根の際を不埒な動きで嬲り始めて、俺は思わず声を漏らしてしまう。
「サスケの匂いはどんなのでもわかるしそそられるんだけど、時々さ、すげえエロい匂いがすることがあるんだってばよ…。知らねえだろサスケ」
さらにマニアックなことを言われて、耳まで舌を這わせられると身体が勝手に反応してしまう。
「エロい…匂いだ‥と‥?」
「そう、甘いような‥何だろう、濃厚な『草いきれ』みたいな匂いっていうのかな。すげえ興奮してくる匂いなんだってばよ」
何だそれは?と突っ込みたくなったが、這い回り出したナルトの手でいいように身体を嬲られ、相変わらず耳元で擽るように囁かれれば、快楽に気を取られ俺の思考は定まらなくなってくる。自分の匂いには鈍感だというが、そんなこと考えてみたこともなかった。
じらすように脚の付根を撫でていたナルトの手が、するりと俺の股間へと伸び、布越しに俺自身にいやらしく触れてくると、腰が揺らめくのを止められなかった。
そんな俺の反応に気をよくしたのか、ナルトは欲を滲ませた低い声を俺の耳へと絡み付かせてくる。
「そのエロい匂いって、どんな時にサスケからするのか知ってるか?」
「……っ‥!」
耳の奥まで犯されそうな、少し掠れ気味なナルトの声に煽られ、俺は声にならない喘ぎを漏らす。喘いだだけで答えない俺を見て、ナルトがくっと笑った気がした。
その瞬間後ろから顎を掴まれ、顔をナルトへと向かせられた。欲に染まった蒼の瞳にそのまま射抜かれる。途端にぞくりとし、俺の身体に震えが走っていた。

「サスケがさ、俺のことをすげえ欲しがってる時」

まったく人のことをエロいだの、好き勝手なことを言ってくれるが、ナルトの方こそどうなのだ、と思う。
こんな無駄にエロい顔をしやがって。
本当にたちが悪いったらないのだ。
もっと始末が悪いのは、俺に欲情したナルトの表情を目の当たりにして、簡単に煽られてしまう自分自身だ。
このまま流されたらいつものパターンだ。明日は朝早くから任務が控えているのだ。身体に完全に火が灯る前に、と無理矢理視線を外し俺は無駄な足掻きをした。
「おい…、やめ‥ろっ、はな…せ‥っ」
何とか声を絞り出して、俺を嬲っているナルトの腕を掴む。
すると、ナルトはいやらしい動きで俺自身の形を確かめるように撫でていた指をぴたりと止める。
「ん?やめていいのか?もうこんなになってるのに」
「てめ‥ぇが、さわる…から‥だろう‥がっ!…ん‥っ!」
離せと言おうとすると、ナルトに顎をぐっと引き上げられ、キスで文句を封じ込められる。すぐにナルトの舌が唇の隙間からするりと潜り込んできた。俺がキスに弱いと知った上で、なし崩しにしようとするナルトの魂胆がわかって、ぐっとナルトの腕を掴んでキスを解こうとしたが、すでに舌を絡み取られてしまっていた。
甘ったるい鼻に掛かった声を漏らし、俺は身体を震わせるしかなく、舌先を吸われると、先端に走ったぴり、とした痛みすらも俺の身体は快感に変えてしまっていた。
ここまで来るともう駄目だった。俺に抵抗する力などもう残ってはいなかった。


巧みなキスで俺を腰砕けにすると、ナルトはゆっくりとキスを解いて俺を見つめてくる。
「俺のこと、もう欲しくなってきた?」
わかっててあえて聞いてくるのが本当に憎らしい。俺の状態を見ればわかるだろうが、と俺も素直には答えてやらない。俺は呼吸を乱しながら口を開く。
「は‥ぁ、欲しく…なってるかどう‥か、てめ‥えは匂いで、わかんだろうが…」
匂いでわかると断言しやがったのだ、コイツは。だから俺はあえてナルトに振ってやった。
「ん?どうかな」
俺の言葉に楽しそうに答えると、ナルトは俺の首筋に鼻を押し付けてくん、と匂いを嗅ぐ。
「うーん、まだ、かな」
真剣に匂いを嗅いで判断するナルトに俺は呆れる。こんなマニアックな男に惚れてしまった自分自身を俺は真面目に問い質したくなった。
「でもまあ」
と、ナルトは言いながら、またエロい顔でにやりと俺に笑いかける。
「ここからは俺の腕の見せ所ってところかな」
そう言って器用に俺を横抱きすると、ナルトは俺の身体を床に倒してきた。荷物の準備は明日するしかないか、と俺は諦めてナルトの背に腕を回した。




次の日の朝は、夕べのセックスのせいでやっぱり身体がだるかった。
この俺が任務でヘマしたらてめえのせいだぞ!と散々ナルトには文句を言って家を出てきた。
集合場所に向かって歩きながら、俺が欲情すると匂いがするなんて、とまったく何を言い出すのか、と深い溜息を吐く。
結局その匂いとやらはしたのかどうかは俺にはわからない。
ナルトにとっては大切なことらしいが、俺にとってはどうでもいい…そう言ったらナルトがえらく怒っていたが。

ふと手首のことを思い出し、少し歩を緩め左手を鼻に寄せる。匂いを嗅いでみるが、昨日まで残っていた湿布の匂いは綺麗に消えていた。
散々キスをされたせいなのだろうか、手首にはナルトの匂いが残っているような気がした。
ナルトは湿布の匂いの代わりに、自分の匂いを残したかったのか。
俺は右手で左手首をそっと握る。しばらく握っていると、心の奥の方がぽおっと温かくなる。

(何をやってるんだか)

俺は苦笑すると、集合場所へ向かう足を速めた。








以前腱鞘炎になったときに、病院でもらった湿布をしばらく貼っていたことがあったんです。
腱鞘炎も良くなって、湿布もすでに貼るのをやめていたのですが、ふと肘を付いていたときに、
何か匂いがしてくるのに気づきましてね。
おしろいみたいな、甘いっていうのか、いい匂いなのですよコレが。
何だ?どこからするのだ?と思ったら、どうやら湿布をしていた手首からだったんですねえ。
湿布を貼るのをやめて数日経っていたのに。
で、そんなときに思いついたネタがコレでした。
もう何でもネタにしてしまう腐女子魂!!
ちなみにこの湿布は「もーらすてーぷ」っていう湿布で、さすが処方箋される湿布薬らしく、
薬の成分は4週間は消えないみたいです。なので匂いも残っていたのかな、と。
と、そんなどうでもいいネタ解説でございました。