時間(とき)を埋めるもの
あー・・・、だりぃ。 
今日は何週間かぶりの休日で。
ずっと任務続きでやっと取れた休みだというのに。
だりぃ。マジだりぃ。
休みの日に思うことがこれか。我ながら嫌になる。
忍たるもの、いつ何が起こっても対処できる心構えはできてはいるが、今は動くことも億劫だ。
俺は部屋にあるだけのクッションを集めて、そこに埋もれるようにしてばったりと寝転がっている。
窓の外に目を向ける。
もう昼が近いみたいだ。陽の光が殊更目に眩しい気がする。
はあ〜・・と俺は深い溜息をついた。
せっかくの休みだってのに。
何もする気が起きない。
いい天気なのに。
掃除だって洗濯だって思いっきりやってしまいたい。
所帯染みた考えとは言わないでくれ。独り暮らしなんだから俺がやるしかねえ。
そう、やることだっていっぱいあるってのに。
(何もできやしねぇんだよ!誰かのせいでなっ!!)
外の爽やかに晴れ上がった空を見て、そこまで思考が辿り着いた俺の眉間には皺が寄っていく。
「・・・なあ、そんなに皺寄せたら綺麗な顔が台無しだってばよ」
さっきからうざいくらいにちらちらと俺の様子を窺っている金色頭がそろっと話しかけてくる。
「・・・何か、言ったか・・・?」
地を這うような低い声で緋色の瞳を向けて、だが唇の端だけで微笑んでやると、ひっ、と声が上がる。
す、すいません、何でもありませんってばよ、と慌てて目を反らすウスラトンカチに、また怒りが腹の底から込み上げてきた。
話しかけるなっ!バカナルトォォッ!!
思わず写輪眼使っちまったじゃねえかっ!
ただでさえ疲れ切ってるのに余計なチャクラを使わせるんじゃねえぇぇっ!
昨日の夜。
長期任務に就いていたナルトが3ヶ月ぶりに帰ってきた。
1ヶ月に満たない短期遠征は今までにもあったが、これだけ長いのは初めてだった。
そんなナルトが無事に帰ってきたとホッとする間もなく、そう「ただいま」「お帰り」すら言わないまま、「サスケ〜〜ッ!!」の叫びと共に俺はナルトに襲いかかられた。
・・・確かに昨日は久々だった。
俺だって最初のうちは、がっついたかもしれねえ。
ナルトだけじゃなく、俺も飢えてどうしようもなく欲しくなることがある。
それに3ヶ月も触れてねえんだ。当然だろうと思う。
けど――
だからってなあぁぁ!!!
ナルトォォォ〜〜、てめえ一体何回ヤりやがったぁっ!?つーか俺を何回イカせやがった!?
てめえみたいな体力バカと一緒にするなっ!
ただでさえ疲れてるのに気絶させるまでヤるな!気絶してからもサカるな!
目が醒めてから見た光景を思い出す。
シーツはぐちゃぐちゃなのはもちろん、毛布までどろどろ。一体どれだけ・・・。
で、俺の身体はヨレヨレだっ!
身体は軋むわ、べたべただわで、ただ気持ち悪くて、欲を吐き出してすっきりした感覚はこれっぽっちもなかった。
はあぁ〜〜っっ・・・・。
俺は深い溜息をついてベッドにそのまま沈み込んだんだった。
・・・・なんかホント、みっともねえ。
そんなことを思い出して、また気が滅入ってくる。
20歳を超えた大人なはずなのに、これじゃガキ同然だ。
コイツとこんな関係になって随分経つのに、どうしてこうガツガツと余裕のないセックスになっちまうんだろう??
いや、俺のせいじゃねえっ、コイツのせいだっ!
有り余る欲望と底なしの精力でやりすぎなんだよ、このウスラトンカチはっ!!
ちったあ俺のことも考えろっ!
「なぁ、サスケ・・・。いい加減機嫌直してくれってばよ・・・」
すっかり成長した大きな体躯を小さくさせて、そろそろと俺の傍にナルトが近寄ってきた。近づくな!と目で威嚇しても、今度は怯むことなく近づいてくる。
おー、上等だ、ナルト。お前はそんなに俺を怒らせたいのか?そうかそうか。
威嚇した目をまた緋色に変えると、びくりとナルトが止まる。そのままナルトは怒られた子供のような顔をしてその場で小さくなる。
「やりすぎたのは謝るってばよ・・・。でもさ、サスケに会いたくて毎日毎日辛くって、やっとサスケに会えて抱きしめたら、もう止まんなくって」
しゅんとして情けないことを言ったってほだされねーからな。
そうそうコイツの手に引っかかってたまるかっ。
「里に帰ればサスケがいるってわかってるけど・・・。だから、サスケがちゃんといてくれて嬉しくって・・・」
そう言ったナルトの顔を見て、俺ははっとした。
嬉しいと笑った顔はちっとも嬉しそうじゃなくて。
不安を感じてしまう自分を隠そうと。
俺がいなくなってしまう――
そんな、消せない不安を必死に堪えている顔。
コイツにこんなトラウマを植え付けちまったのは俺だ。
離れていた3年間のことは、未だに俺たちは治りきらない傷として抱えている。
バカで、ウスラトンカチで、どうしようもないケダモノ野郎でも、こんな顔をさせたいわけじゃない。
過ぎてしまった過去を今更変えることはできない。
でもナルトを必要として、共に生きると決心した「今」が俺のすべてだ。それしか俺にはない。
『もう絶対にお前を離さねえ。どこにも行かせねえ』
血を吐くような悲痛なナルトのこの言葉と想いを――
俺は受け止めると決めたのだから。
「・・・俺は、どこにも行ったりしねえよ・・・」
俺はナルトを見つめていた視線を落とし、ぽつりと呟いた。
それを耳にしたナルトは自分の言葉の失態に気づき、慌てて明るい口調で話し始める。
「あー、なんてーの、3ヶ月もサスケと離ればなれってのは俺にはゴーモンみてーなもんなんだってばよ!サスケ不足で俺枯れちまうんだって!」
寝っ転がっている俺の傍まできて、必死にナルトが訴えてくる。
落とした視線を上げて、ナルトの瞳と向かい合う。
じっと俺を見る空色の瞳は澄んでいてやっぱり綺麗で、そう思っただけであれほど怒っていたのが収まり始める。すうっと俺の瞳の色が元に戻っていく。
結局俺はナルトに甘いんだな、と目を伏せて深い溜息を吐く。でも今更しょうがねえ、本当に。
黙ったままの俺の様子をじっと見た後、ナルトが伺うように顔を覗き込んで来た。
「・・・まだ怒ってる・・・?」
「・・・当然だろ・・」
言葉の割に静かに告げた声に、俺の怒りがだいぶ収まったことが伝わったらしい。
ことっ、と俺の胸に頭を乗せて、ナルトがごめんってばよ、と呟く。
胸の上の慣れたナルトの重みに俺は小さく溜息を吐く。
俺もナルトも黙ったまま、ただ互いの体温を触れ合わせる。
俺の中にナルトの温かさが流れ込んでくる。
目の前でふわふわと揺れる金色の髪が俺の心の奥に日だまりを作る。
どうしても触れたくなってそっと触れ、指を潜らせた。
「・・・3ヶ月の長期任務は初めてだったのはわかるけどな」
そう言って埋めた指でゆっくりと髪を梳く。
「そのたびにこんなのはご免だぞ。俺のこともちょっとは考えろ」
これからだって長期の任務に就いたりするのはいくらだってある。わかってんのか、こら、とナルトの髪をちょっと引っ張ってやる。
「・・・長期の任務の時は、サスケと一緒だったらいいのにな・・・」
俺の胸に顔を埋めたままナルトが呟く。そんな都合の良い任務があるか。つーか、お前、一緒だったとして何か不埒なこと考えてんじゃねえだろうな?そんなことしてみやがれ、教育的指導だっ。
「今度ばあちゃんに頼んでみよっかな・・・」
「バカなこと言ってんじゃねえ」
ウスラトンカチが調子に乗る前に、ナルトの髪を思いっきり引っ張ってやった。
「うぎゃーっ!いてててててっ!」
ううう、サスケ〜ひどいってばよ〜、起きあがって涙目になってナルトが喚く。
うるせえ、ウスラトンカチ。
「おい、俺はまだ許したわけじゃねえぞ」
怒りが落ち着いたとはいっても、身体がだりぃのに変わりはねえ。俺は残っている怒りの分を償わせるべく、びしっと言ってやった。
「てめえのせいでできねえ掃除と洗濯、きっちりやっとけ」
「えええーーーっ!?」
「誰のせいで俺がこんなことになってる?あぁ?それと、夕飯の買い物もてめえがしてこいよ」
サスケ〜〜、と情けない声を出して訴えるナルトに、最後通牒で写輪眼を回してやる。
「・・わ、わかりましたぁっ・・!」
びしっと背筋を伸ばして正座をするナルトに満足して、俺は背を向ける。
「・・・夕飯はしょうがねえから作ってやる」
それまで休ませろ、と言った俺の言葉にナルトがぱあ〜〜っと喜びを溢れさせるのを背中越しに感じた。
「おう、任せろってばよ!」
こうやって俺たちは離ればなれだった時間(とき)を埋めていく。
バカみたいなケンカや、嬉しいこと、辛いことでも、2人で。
少しずつ、ひとつひとつ。
そうやっていけば、いつか全てが埋められることを信じて。
すっかり埋められたら、溢れるほどの時間(とき)をまた作っていくんだ。
コイツと、一緒に。
分不相応にもにゃぎさんに誕生日プレゼントとしてお贈りしてしまいました。
こんな話でもにゃぎさんに喜んでもらっていっていただいて、この話は幸せモノです。
こういうナルサスって需要があるんだろうか?と疑問に思いつつ書いた話でしたが、
にゃぎさんに「ツボです」と仰っていただけて良かったです〜。
不束モノですが、どうぞ貴サイトにて愛でてやってくださいませ。