初めてのキスのことを考えながら物思いに耽っていた俺の前に、コトンとマグカップが置かれる。
「コーヒー、ブラックでいいだろ?」
ぼんやりとしてキッチンテーブルに肘をついていた俺は目線を上げてナルトを見た。見た瞬間、大きな身体を屈めてきたナルトに、すっとキスを掠め取られた。
そんなカッコでいると風邪引くぞ、と苦笑しながらナルトは出掛ける準備を始める。
早朝から任務があるナルトに合わせて起きた俺は薄手のガウンを羽織っただけだった。
身体がだるい。烈しいセックスをした余韻は身体のあちこちにある。
その証拠に唇を掠めただけなのに、身体の熱がぶり返しそうになった。
目の前に置かれたカップに手を伸ばし一口飲み、蘇りそうになった欲を無理矢理押し込める。
カップを手で弄びながら、背中を向け忍服を身につけるナルトを見る。
ぴったりとした黒の忍服が広い肩幅をいっそう浮かび上がらせているように見える。
昔は俺よりチビだったくせに、良く育ったものだ。
背を抜かれたのはいつだったろう。
初めてナルトに抱かれたあの頃だったろうか。
あの頃のお互いの不器用さが懐かしい。
そんなナルトも、今では鍛え上げられた身体で里を守る、木の葉を代表とする立派な上忍だ。
忍びとしての腕も、男としての器の大きさも、本人には言わないがこんなにオトコマエに成長するとは思わなかった。
そして始末の悪いことに、「オトコマエ」に色気を乗せて絶妙のタイミングで仕掛けてきては、俺を煽ることまで覚えやがった。
まったく巧くなったもんだ。キスも、セックスも。あの頃とはえらい違いだ。
「さてと。じゃ、行ってくる。あ、メシは冷蔵庫の中な。サスケは今日は任務?」
「・・・いや、休み」
椅子にだらしなく腰掛けテーブルに肘をついたまま俺が剣呑な視線で見上げると、ナルトはくるっと空色の瞳を楽しそうに和ませる。
「なに?身体、だるい?だったらまだ寝てればよかったのに」
とナルトがくすりと笑う。目が覚めたんだから仕方ねーだろ、と言えば、すっとナルトが俺の目元に手を伸ばし、優しく触れて睫毛の端を掠めるように撫でてくる。
男らしい大きな手が、こんな繊細な動きを見せるのが気に入らない。
それ以上に気に入らないのは、こんな甘ったらしいことを平気でやってのけるナルトがちっとも嫌じゃない、ってことだ。
しかもこんな風に扱われて嬉しいだなんて。まったく相当イカレてる。
触れてくる手が、頬のラインを確かめるように撫でてくる。
チリチリと肌の奥で燻っていた昨夜の余韻が、身体の中で一気に目覚めそうになる。
ナルトのくせに。俺をここまで煽るなんて。
あまりの自分のイカレ具合と呆れのモヤモヤを目の前の相手にぶつけてやる。
俺はじっとナルトを見つめたまま、ぐいと腕を掴んで引き寄せた。
少し驚いたナルトが屈み込んだところを首に手を回し、伸び上がって噛みつくようにキスをしてやった。ナルトが口元だけで笑っているのがわかる。ムキになってキスを深くするとすぐにナルトが応え、舌を絡ませるキスに変えてきた。
キスをしながらナルトに身体を引っ張り上げられ、立ちあがって互いの腕を身体に絡みつかせる。
一頻り口づけたあと、ナルトがにやりと笑いかけてきた。
「そっか、そっか。サスケはあれじゃあ足りなかったか」
俺の腰に回わった両手がいやらしく撫でてくる。
「んなこと言ってねえだろ。サカりすぎだ、バカ」
昨日の夜ので俺は十分だ!てめえが煽るから俺がこんなことに、と心の中で呟きながら撫で回してくる手を引きはがそうとした。
「サスケってば自分から仕掛けておいてそれはねーだろ?」
仕掛けたのはてめえだろ!?と思ったのもつかの間、ナルトがいきなり俺の身体をぐい、と持ち上げた。
「う、わ・・・っ」
そのまま、すとんとテーブルの上に座らされ、ナルトの身体で足を割られた。
ガウンの裾から忍び込んできた手が内股を這うのに気を取られて、そのまま後ろに倒されそうになる。慌てて後ろに手をつき、ナルトの重みのかかる身体を支えた。
振動でテーブルの上のカップから、コーヒーがこぼれてしまっていた。俺は目の前のナルトをぎり、と睨み付ける。
「てめえ・・・、いきなり何しやがる!?」
「台所エッチってのも男のロマンだよな」
無駄にエロい顔して何をバカなことを言っている、こいつは!体重を掛けるな!ウスラトンカチ!
後ろに倒されそうになるのをナルトの肩に手を掛けて堪える。このっ、とぐっと肩に力を入れ引きはがそうとして、ナルトの瞳に欲が散っているのを見てどきりとする。
俺が油断した隙に、ナルトが鼻先を首筋に擦りつけ、器用にガウンの胸元を広げていく。鎖骨や首筋に唇が滑っていくのに、俺の身体がびくりと反応してしまう。
「てめえは!こんなことしてる場合か!とっとと任務に行け!!」
俺の言葉を無視してナルトは愛撫の手を止めようとしない。
内股を這う手や、首筋を辿る唇が、俺の弱いトコロを確実に攻め立ててくる。いいようにナルトに翻弄される自分が情けないが、身体は欲しがって嘘は付けない。
腰を撫でていた手が下へと移り、尻の肉を揉むようにされると、俺の口から声が漏れる。
ついに俺は我慢できなくなって、ナルトの身体に脚を絡ませようとしたその瞬間――
すっと、身体が軽くなった。
え?
「ああ〜もうっ!すっげえ残念!煽られて終わりかよ!俺もう行かなきゃ。続きはまた、な」
突然叫んで喚いた後、にかっと笑ったナルトは、俺にキスを1つしてから荷物を手に忽然と消えやがった。
さすが上忍。消え方も鮮やかだった。
って、感心している場合じゃねえ!
身体に灯った欲が置き去りにされたのだ。はだけた胸元を晒し、テーブルに座っている俺の姿はあまりにも滑稽だ。
ナルトォォォ〜〜!てめえぇっ!!
煽られて終わりかよ、はこっちのセリフだぁっ!!
なぁにが、続きはまたな、だ!!
俺を中途半端に煽りやがってっ!!!
誰がヤらせるか、ウスラトンカチがぁ!
台所エッチだと!?いっぺん死んでこいっ!
今日はナルトを家から閉め出すことを決めた俺は、怒りで血が上った頭と、中途半端に火がついた身体を冷やすべく、浴室に向かった。
怒りにまかせて浴室の扉をバタンっ!と閉める音が、空しく部屋の中に響き渡っていた。
お粗末さまでございました・・・。
これくらいの年の話でバカップルっていうのがとても書きやすいです。
しかし、煽ったのはてめえだろ?と互いに言い合って、ホントに何なんだこの2人。
これからこういう傾向の話が多くなると思われます(汗)