『来年はヒメハジメも初日の出も両方出来るようにするってば』
『約束だぞ』
『OKだってば♪』


そう約束をしたのはいつの日のことだったか。
言われた本人はすっかりそんなことは忘れていた。




  ヒメハジメ in ten years




時は流れ流れて幾歳月。


今年、火の国の隠れ里、木の葉では新しい火影が就任した。
腹に九尾を宿していることはもちろんのこと、年若くして火影が勤まるのか、早すぎる、など様々な非難や意見が飛び交っていたが、回りの雑音を実力で一蹴してしまった新しい火影の誕生に、木の葉の里は穏やかに年の暮れを迎えていた。

「おい、どういうことだ?これは」
「どういうことって、休暇?」
横に立つ自分より背の高い美丈夫をサスケは睨み付けるように見上げる。もう相手が自分より目上の立場であることもすっかり忘れている。
「休暇?じゃねえ!なんでこんなところに来たんだと言ってんだよ!」
「ええっ、だってサスケと正月にのんびりしたくってさあ」
ここのところお互い全然休んでないだろ?といたずらっ子のような、それでいて優しい笑顔をサスケに向ける。

火の国の視察に行くと言って火影に従い連れてこられたのは、火の国きっての温泉場だった。


休む暇もないほど忙しいのは当然のことだ。
火影が代替わりするということは、新体制に移り変わるということで、事実年若い火影を支える里の中枢には同じく火影と戦場を共にした同年代の者が就くことになったのだ。新しい体制が落ち着くまでには時間もかかるが、何より盤石でないうちに他国に攻め入られる隙を与えてはならない。
幸いにも火の国も他国も目立った争いは起こっておらず平穏が続いてはいたが、火影に就任して日も浅い。付け入る隙を与えるような行動は避けなければならない。
たとえいくら他の忍びが正月で休暇を取ったとしても、火影に休暇などは事実上あってないようなものなのだ。
ただでさえ異例の火影就任で里内外から注目されている中、どう思われるのか。
それは火影の補佐と護衛を担うサスケにとっては常に気を遣うところだ。様々な憂いごとから火影を守る立場にいなければならない。
そんな自分が火影と一緒にこんなところにいては、何の説得力もない。
暢気に答える火影に、サスケのこめかみがピキピキと音を立てる。
「正月返上で働いているヤツもいるのに、こんなところでのんびりとなんてできるか。それに何かあったらどうするんだ」
「それは大丈夫だって。シカマルに任せてきたし、いざとなったら俺とサスケなら半日で戻れる」
半日いないくらいで揺らぐような木の葉じゃねえよ、と蒼い瞳に力強い輝きを宿らせ、サスケを見つめる。
自信に満ちた男らしい表情に、サスケはとくん、と心臓が跳ねるのがわかる。
それに、と付け加えた火影の手が、サスケの細い腰にすっと回される。
「サスケ最近働き過ぎだ。痩せただろ?お前」
「・・・それは、火影だって同じだ」
顔を覗き込むようにそう言われ、サスケは火影から視線を外し瞳を伏せる。
補佐である自分は火影に付いて働いているのだから、当然火影も苛酷な執務で休みなど取っていない。
同じように働いているはずが、まるで疲れを見せない火影に、体力の差を見せつけられるようでサスケはおもしろくなかった。
だが、火影の気遣いにサスケの怒りも徐々に収まってくる。
何より火影であるこの男の意識が自分に向けられていることが誇らしくさえ感じてくる。
言い返す言葉を無くしたままサスケが黙っていると、腰に回された手が妙な動きを始めていた。
「あんまり痩せるとさあ、抱き心地が悪くなるし」
腰を這い回っていた手が尻までいやらしい動きで撫で始める。
「・・・外でベタベタするなと言ってるだろ・・・」
音がしそうな程ギロリと火影を見上げたサスケの瞳には殺意が浮かんでいた。あともう少しで写輪眼が発動というところで、火影の手が引っ込む。
「まあ、せっかく来たんだし、休暇を楽しもうぜ」
里の誰をも魅了する笑顔で微笑んだ後、サスケの手を引いて目の前の旅館に火影は足を進めた。


火影が取ったというその宿は、火の国でも指折りの、いわゆる老舗の高級旅館だった。
数寄屋造りの重厚な佇まいの建物は歴史の古さを感じさせてはいたが、荘厳な雰囲気を押しつけることもなく、落ち着いた居心地の良さに包まれていた。
館内には見ただけで値の張るものだとわかる品々が所々に置かれている。高級な品が、全く嫌味を感じさせない配置で館内に見事に調和している様は、感嘆してしまうほどだった。
予約するにはかなり大変なことはサスケも人伝で聞いている旅館だった。
何かコネを使ったのか、かなり無理をしたのではないか。
まあ火影なら、簡単に取れるのかもしれないが。
そんなことを考えながらサスケは火影と連れだって係の者に案内されながら進んでいくと、少し離れた母屋のような部屋に通された。
十二畳以上はある二間続きの部屋には、館内と同じように値の張る調度品で彩られていた。主な部屋の前面を開け放つと、窓いっぱいに湖を従え頂きに雪を冠した壮麗な山が広がっていた。
そのメインの部屋の脇には控えの間があり、控えの間からは部屋付きの露天風呂に続いている。
この旅館の中でもかなり値段の高い部屋であることがサスケにも十分に伺えた。
もてなしの茶菓子を準備して旅館の係の者がごゆっくり、と声を掛けて出て行く。
2人きりになりしばし部屋から見える壮大な景色に魅入っていた。
自然の美しさを前にして、サスケも仕事から解放された気分になってくる。幾分か緊張を解いたサスケの口からぽつりと言葉が漏れる。
「・・・綺麗だな」
「ああ。なんたってこの旅館で一番眺めのいい部屋だからさ」
だからサスケを連れてきたかった、と火影がサスケの肩に手を回す。
景色に魅入るサスケの横顔がことのほか綺麗で、火影は隣の愛しい恋人に慈しみの眼差しを向ける。肩に置いた手に少し力を入れ引き寄せても、今度はサスケは嫌がらなかった。
「・・・普段倹約家のくせしてこんなところで贅沢しやがって」
「サスケ〜、そりゃねぇってばよ〜〜」
最近ではあまり言わなくなった口癖で、がくりと火影が項垂れる。
俺ってば、すげえ頑張ったのに、と落ち込む火影を見て、サスケの口元に笑みが浮かぶ。
火影であること以前に、自分の想い人が自分のためを思ってしてくれたことなのだ。「仕事の鬼」と最近では評されるサスケとはいえ、何よりもこの男からの心を尽くした気遣いに嬉しくないはずがなかった。
「せっかくの火影様のご厚意ですから、有り難くお受け致します」
火影に向き直り、にこやかな顔を向けてわざとかしこまった口調でサスケが礼を口にする。
「おうっ、火影に思いっきりもてなされろ」
互いに顔を見合わせて、笑い合う。
今ではこんなゆったりと時を過ごすこともできなくなっている。
限られた時間を2人で楽しむことだけを考えよう。
しばし仕事のことは忘れ、2人はゆったりと時間に流されることにした。





「・・・あ・・・っ・・・」
体内に受け入れた欲望が感じる場所を擦り上げ、甘い声が漏れる。
声が出るたびに、火影の手で高められた情感がサスケの中でまた深くなっていく。
揺すり上げられ、絶頂へと追いつめられ、サスケは呼吸すらもままならなくなってくる。

正月に休暇、と決めてしまえば後はくつろぐことを考えるだけだ。
さっそくとばかりに部屋付きの露天風呂を堪能したあと、ここでしか味わえない珍味や最高級の食材で作られた料理に舌鼓を打ち、酒を酌み交わした。
火影は常に上機嫌で、サスケも珍しく饒舌になり、ひとときの2人だけの宴を存分に楽しんだ。
互いに程よく酔いが回ったまま、引かれ合うように布団に縺れ込んで抱き合った。
口づけを交わし、熱い身体をぶつけ合えば、久しぶりの情交に互いが互いに酔っていった。

サスケが火影の逞しい腰へ回した脚で無意識に自らへ引き寄せると、汗を滴らせた火影が男らしい顔にうっすらと微笑みを乗せ、サスケの唇にキスを落とす。
「・・サスケ、すげえ感じてる・・?」
低く掠れた声にサスケは閉じていた目をゆっくりと開ける。
快感で潤んだ瞳には欲の焔がゆらゆらと揺れている。
「・・聞く、な、・・あ・・っ!」
一度火影の口で愛されたサスケの欲望は、再び頭を擡げている。
「もっ・・と、ヨクしてやる。・・しっかり、しがみついてろ」
「あぁ、ナル・・ト・・っ・・!」
火影はサスケの両手を背に回させると、烈しく腰を打ち付ける。手はサスケの欲望を掴み、極みへとサスケを追いつめる。
喉を枯らしながら喘ぐ声が止められない。
壊れるのではないかと思うほどの火影の動きに合わせて、サスケの腰も淫らに揺れる。
喘ぐ呼吸ごと唇を貪られ、火影の背に回した手が爪を立てる。唇が離れ、瞳に水を湛えて快感を訴えるサスケが火影を見つめる。その壮絶な美しさに、サスケの中の火影の欲望がさらに育つ。
「・・サスケ、すげえ綺麗だ」
背に走る痛みなど感じていないかようにうっとりと呟く火影の声も、サスケには届いていない。
互いが互いに煽られ、貪り、相手を身の内に取り込もうと益々動きが烈しくなっていく。悲鳴のような叫びを上げ、サスケの身体がびくん、と震える。
達したサスケの内部の締めつけと、サスケの震える肌が、火影の吐精を導く。
火影は身体を震わせながら最後の突きをすると、サスケの内部へと欲を叩きつけた。

互いの呼吸が落ち着くのを待って、火影がサスケの唇に小さく口づけ身体を離した。互いの残滓を拭ったあと、火影がサスケの身体をすっぽりと腕の中に収める。
いつもならこれだけでは済まないはずなのに、とサスケが火影を見上げれば、くすりと微笑んだ火影がサスケの顔を覗き込む。
「休むのが目的なのにサスケを疲れさせちゃったらダメだろ?」
鼻でサスケの汗に濡れた額の髪を掻き分け、ちゅっとキスを落とす。
いつからこんな大人になったのだろうか。もの凄い違和感にサスケは腑に落ちないまま言葉を漏らす。
「・・・いいのか、お前」
「ああ、このまま寝よう」
とても満足しているとは思えないが、いやサスケ本人もわずかな物足りなさを感じていた。
だが適度な疲労と達した快感が、サスケの身体に睡眠を促していた。
このまま眠ってしまうのもいい。
サスケはゆっくりと瞳を閉じると、愛しい男の匂いのする胸に顔を埋めた。
眠りに落ちようとするサスケの耳元で火影がそっと囁く。
「・・・明日の朝」
「・・・ん・・」
「早く起きて初日の出を見よう」
「・・・初日の、出・・?」
ゆっくりと落ちてくる睡魔に、サスケの意識は遠のき始める。
「露天風呂から見る初日の出は最高だってさ」
「・・・いいな・・、それも」
「綺麗だろうな、きっと」
火影のその言葉を聞き届けてサスケは眠りへと落ちていった。
安らかな寝息を立て始めたサスケを、火影はいっそう腕の中深くへと閉じこめるように抱き締めた。



翌朝。
厳かな新年の幕開けの朝には似つかわしくない、喘ぐ声が露天風呂から漏れていた。

「・・・ナルトっ、おまえ・・っ、最初、からっ、あ、こ・・のつもりだった、な・・!?」
動きに合わせて温泉の湯が波打ち、溢れた湯が流れ落ちる。
だから昨日の夜はあんなにあっさりとした情交だったのだ。少しでも大人になったと思った自分の甘さに、サスケは悔しさが滲んでくる。
「あ!サスケ、ほら日が昇る」
まるでサスケの言葉など聞いていない火影は後ろからサスケの身体を抱え上げ、下から突き上げる。
『露天風呂から初日の出を見よう』とそう言われた。
いいな、とも確かにサスケも言った。
だが温泉でヤるなんて一言もいいなんて言ってねぇ!!と心の中でサスケが叫ぶ。
翌朝起きて露天風呂に入った途端、火影が後ろから抱きついてきたのだ。
抵抗する間もなく、湯の中でいいようにされて。
結局火影の欲望を埋め込まれ、喘がされている。
「昔、ヒメハジメも初日の出も、・・両方できるように、しようって言った約束、・・覚えてる?」
「・・はっ、あ、・・んなやくそ、く、覚えてな・・・あ・・・!」
腰の動きは止むことはなく火影の手で欲望を宥められ、腰に震えが走る。
「ええっ!?俺ってば10年越しの約束を果たすためにこうして頑張ったのに覚えてねえの?サスケ」
驚きながらも火影の様子はご満悦で、さらにサスケを揺すり上げる。
確かにそんなことを昔言っていたような、ないような、と快感でかき混ぜられた頭では思考もままならない。
「・・約束、したとしても、・・は、ん・・っ」
「何?」
「ヒメハジメしながらっ、初日の出見るなんてっ、だぁれが約束するかぁーっ!・・・あぁっ・・!」
腰を限界まで引き上げられ、ずんと欲望に貫かれる。
「サスケ〜、初日の出だ。綺麗だってばよ〜」
サスケの叫びなど聞いてはいない火影が脳天気な声を上げて上機嫌で初日の出を見つめる。
しばし動きを止めた火影にホッとして、サスケは乱れた呼吸を整える。
快感で涙目になったサスケも目の前に広がる光景を瞳に映す。
「・・・・・・・」
「どう?綺麗だろ?」
濃紺から茜色のグラデーションを奏でた空から、神々しい光を覗かせ人間の命の源が顔を出し始めている。
瞳いっぱいに映る愛しい男の髪の色に似た太陽は、本当に綺麗だった。
だが、素直に綺麗だと。
言いたいが、言いたくない。
ましてや今のこの状態で素直になれというのが、サスケにとっては無理なことだった。
「・・は、・・やくっ・・」
「ん?」
「・・早く、終わらせろっ!このウスラトンカチがぁ!」
ゆっくり初日の出が見られねえだろうが、と背後の火影を睨み付けて言うと、火影がへらっと笑って腰を揺する。
「え?このまま見ててもいいんじゃ・・・」
ガスッとサスケの肘鉄が火影の頭部にヒットする。
ううう、と肘鉄を食らった場所を押さえて火影が呻いている。
「抜くのか、イくのか、さっさとしろっ!!」
湯の中で受け入れさせられ、ただでさえ苦しいのだ。とにかくサスケは早く解放して欲しかった。
サスケの可愛気のない言動に、ふーん、と火影は意地の悪い表情を浮かべると、サスケの腰を大きな手で掴み直し、下からの突き上げをよりいっそう烈しくした。
「んじゃ、サスケの『中』で抜いて、イかせてもらうってばよ」
そういうことを言ってるんじゃねえ!
サスケの叫びは空しく響き、与えられる快感の波へと飲み込まれていくのだった。



歴代の火影の中でも最強と謳われ、若くして頂点に立った六代目火影と、火影が誰よりも信頼し大切にしている補佐が迎えた初めての正月は、馬鹿らしくも平和に過ぎていった。








まずは来子さん、勝手に妄想してほんっと申し訳ない!!(平謝り)
だって、「ヒメハジメも初日の出も両方できるようにする」って言ったらもうっ!!
「コレしかないじゃん」1粒で2度オイシイ図式が脳内にどどどど〜と浮かんだ正月三が日真っ直中。
話を書く環境も整っちゃいないっていうのに、↑を書いてしまいました・・・。
萌えってすごい。勢いってすごい。とマジで思いましたよ。
こんなヘタレな妄想を笑って許して、さらにすごくすごく喜んでくれて、快く受け取って下さった来子さんに
感謝します!!!
来子さんのお話がなければ生まれなかったわけなので、抱きついてハグしまくりたい勢いですvv
萌えリレーできて嬉しかったー!(いや勝手にしちゃったんですが)
来子さん、本当にありがとうございました〜〜!