一. ナルト(七実).




なあ。
みんなは愛する人とのイチャパラ生活の中で、シーツってものがどんなに興奮するアイテムか知ってるか?
オレとサスケの愛の生活の中でも、シーツは特別な存在だ。これは、まあそんなオレのこだわりの話なんだってばよ。






「サスケェ!」
オレはサスケの後ろ姿に我慢できなくなって、つい大声で呼んだ。

オレってば火影になって一年経つのに、サスケに関しては相変わらず飽きるってことを知らないから困る。
今もサスケの後ろ姿を見てたら、その腰から尻の滑らかなラインに無駄にコーフンしてきちまって、その場で押し倒してえ、その尻の感触を今すぐ感じてえと真剣に思っちまった。
サスケは全身すげえ綺麗なんだけど、オレがサスケの事を愛してやるようになってから、その腰から尻のラインに関しては、なんだか一段と色気が増した気がするんだってばよ。やっぱ、これはオレの愛の力っていうの?愛すれば愛するほど、サスケはより色気を増してオレをまたコーフンさせるんだ。
オレはその後ろ姿に大興奮してて、もうこの場でサスケとヤりてえ気持ちでパンパンになっちまったんだけど、サスケはなぜかこの火影室でヤるのを嫌がるんで、オレは時々本気でムスコを宥めなきゃなんねえ。そんなときはどうしても逸る気持ちを抑えつけてるんで、こんな大声になっちまうってわけ。
サスケはオレがそんな気持ちだって事、全く分かってねえんだろうな。眉間にしわを寄せたまま、こちらに向かってくる。
もしかしたらサスケは、大問題が起きたんじゃねえか、と思ってるかもしれない。オレはそう考えて、とたんに慌てた。いや、そんな深刻な話じゃねえんだけど…。
サスケの向かってくる様子に、オレは今では本気で後悔してた。サスケってば真面目だから、オレが火影室でサカるだけで睨みつけて来るんだよなー。まあそんな強気な瞳にもイっちまいそうなほどコーフンするんだから、オレもオワッテル。

「どうなさいました、火影様」
サスケが改まって聞く。
いや、そんな風に聞かれるとマジで恐い。
オレってば、早くお前が欲しいんだってばよ。
オレはそう言いたいんだけど、サスケに今それを言う勇気はねえ。サスケのやつ、マジでキレやすいからなあ。

「えーっと」
オレは先ほどとは比べ物にならないくらい小さい声を出した。
「あぁ?」
「あのさ…」
「ああ」
「シーツ」
「はぁ?」
オレは言葉を続ける勇気がなかなか出てこなかった。サスケの奴、目が据わってきてやがる。
「シーツ、今日は黒がいいなあ、なんて…さ…」
その言葉に、サスケの目つきが鋭くなる。あ、怒ってる。でも、その強気な瞳があの黒いシーツの上で潤むのを想像して、オレもオレのムスコも元気を取り戻していく。
「黒、乾いてっかなあ、なんて」
へらりと笑って見せると、サスケはこめかみをピクリとさせた。すんげー恐いってば…。
「まだ乾いてねえ」
サスケはそれだけ言うと、オレにくるりと背を向ける。とりあえずこの場で殴られるのは免れた。オレはホッとしつつ、黒じゃねえなら何色にしようかなー、と妄想を巡らせる。

シーツの色にこだわるようになったのは、この一年ばかりのことだろうか。
火影の家に移るにあたって、黒のシーツを引っ越し祝いにもらったのが始まりだったと思う。
その黒のシーツがすんげえ良くて、オレはそれからシーツの色にこだわるようになったんだ。
だって、考えて欲しいんだってばよ。サスケの白い肌が黒いシーツの上で艶かしく乱れる様を、さ。オレじゃなくたって、すんげえすんげえコーフンしてくるだろ?
初めてそれを目にしたとき、オレってば大コーフンしてサスケにまるで獣みたいに挑みかかった。白い肌がほんのり上気して綺麗なピンク色に染まるのも、黒いシーツだとすんげえ綺麗に見えるんだ。それに、オレやサスケが飛ばした、その、なんだ、体液ってえの?そういう白もすんげえイヤラシくシーツに映えて、オレは明け方まで激しくサスケを求めたんだって。

オレは嬉しくなって、いろんな色のシーツを揃えてみた。赤ってのもすげえいい。赤は黒とはまた違った華やかさがあって、まるでバラの花びらを敷き詰めた中でサスケを抱いてるみてえな、そんなヤラシイ妄想を楽しめるところがいいんだってばよ。サスケの黒い髪が赤いバラの花びらの中に散らばると思ってみろって。もうオレもオレの息子も忽ち臨戦態勢だってばよ。
意外といいな、と思ったのは緑色のヤツ。これはさ、青○っての?まるで草むらの中とかさ、そんな中でサスケを頂いちゃってるみたいな、そんな少しイケナイコーフンが味わえるわけ。実際にはサスケが草むらの中でオレに許してくれたのなんて、二人して上忍で任務がきついことになってて、禁欲の二週間にどうしてもオレが我慢できなくなって、って時一回きりだったんだけど、この緑色のシーツを使えばいつだって草むら気分。青空の中でサスケを頂いてる気分になれるんだ。
もちろん白だってすげえいいんだぜ?白ってやっぱ、純潔の色だろ?だからさ、ちょっと喧嘩した時とか、少し神妙な気持ちの時で、サスケに触るのも、「ちょっとどうかなあ、サスケ、許してくれっかなあ」なんて少しドキドキしながらって時に結構いい。なんて言うの?愛の再確認ってのかな。そういう感じの時なんかはやっぱオレ的には白なんだってばよ。
他にも紺色や青、茶色、ピンクなんかも揃えてみた。それぞれにみんな良さがあるんだけど、オレ的にはやっぱり黒が一番かなあ…。黒は頻繁に使うから、三枚持ってる。そんなわけで、シーツはオレとサスケの大事な愛の小道具なんだってばよ。

だけど、最近雨が続いててさ。シーツの乾きが悪いのが玉に瑕なんだよな。黒は今日はどうやらダメ、と…。
じゃあ赤にすっかなー、とオレは心の中で思って、サスケの後ろ姿を再度眺めた。


* * *


「なあ、先に退出していいか?」
オレはサスケに聞いた。サスケは一瞬怪訝な顔をしたが、オレが目くばせしながら
「今日はお前のために、飯作ってやりてえんだって」
と言うと、納得したようだった。
オレはサスケの頬に軽く口づけると姿を消す。そのまま部屋に戻り、オレはいそいそと支度をはじめた。
飯を作ってやりてえってのは嘘じゃねえ。オレもいい歳になったから、サスケのために飯の用意をすることぐらいできるようになってるんだってばよ。まあ、相変わらずカレーとか鍋とかちょっとした煮物程度だけど、それだってラーメンばっか食べてた頃とは段違いだ。
だけど、その前にやらなきゃなんねえことがある。
黒はまだ乾いてない、と…。オレは室内干ししてあるそれを眺め、ため息をつく。今日は黒の気分だったんだけどな。
オレは頭を振ると気分を変えて、今日はやっぱり赤で行こうと思う。オレは早速赤のシーツをオレ達の愛の交歓場所に敷いてみた。うんうん。これはこれでそそられるってば…。
オレはそれに合わせて花の香りの入浴剤を用意し、サスケのあそこを開くためのオイルだってバラの香りのを揃えてみた。
これでサスケもうっとりしてくれること間違いなしだってばよ。
寝室を眺めて悦に入ってたら、サスケが戻ってくる気配がした。
まずい、まだ飯の支度なんて、全然してねえってば。オレは慌てて玄関に向かった。




二.サスケ(kumi)




「ふぅ、…これで終わり」
最後の書類に書き込みを終えて、オレはひとつ溜息を吐いた。
火影室にはオレ以外はもう誰もいなかった。外を見れば日ももうとっぷりと落ちていた。
机の上をざっと片付けて、オレは火影室を後にした。

帰る道すがら夕飯は…と考えて、ナルトが先に帰って作ると言っていたことを思い出した。
二人で暮らすようになってから、ナルトも少しはメシを作るようになっていた。まあ味はともかくとして、帰ってメシができているのはありがたい。
そう、ありがたいのだが…オレはどうもナルトの様子が気になっていた。
昼間っからそわそわしていたし、ねっとりとオレを見て勝手にサカったりしているのはしょっちゅうだが、メシを作るとかいきなり言い出すのはどうも引っかかるのだ。
絶対に何か企んでいるに違いないんだが、とオレはふと頭を過ぎるものがあった。

シーツ。
何かシーツがどうのこうのと言ってやしなかったろうか。

あれは確か火影邸へ引越しした時だ。
引越しのお祝いに、何と黒いシーツをもらったのだ。祝いの品で黒ってどうなんだ?とオレは不思議で仕方がなかったが、ナルトはいたく気に入って、それ以来シーツマニアかと思うくらいシーツを集め始めたのだ。
それからというもの、この一年くらいで赤だの緑だの、一面花柄だの、ある時にはシルクの白いシーツとか買ってきやがったこともあった。シルクなんて洗えねえだろうが、ウスラトンカチめ!
とにかくナルトはいろんなシーツを買ってきてはうきうきとシーツ掛けにいそしんでいるのだ。

シーツマニアな火影…。
いいんだろうか、こんな火影で。

だいたいシーツなんて、どれも一緒だ。ぱりっとして気持ちよければいい。
それが黒が肌に映えるだの、緑は意外と興奮するだの、まったく訳がわからねえ。
寝る以外はヤるだけなんだし、どうせ汚れるのだから何でもいいじゃねえかと思う。しかもオレたちの場合、汚れ率がハンパじゃねえ。
一晩に何回もシーツを取り替えるなんてしょっちゅうで、真面目に洗濯が大変なのだ。
夕べも溜まっていたシーツを何枚洗ったことか。
黒いシーツなんて、ナルトがしょっちゅう使いたがるから、洗いすぎで一枚は色がもうグレーになりかけてる。黒も昨日全部洗ってやったから乾いていないのだ。

どうせ黒がないならどうしよう、とか真面目に考えているに違いない。
ああ、ウスラトンカチすぎる…。
シーツなんてフツーでいいだろうが、フツーで!
こんなシーツマニアな火影なんて他所の里には知られたくねえかも、とオレはちょっと頭が痛くなった。


* * *


家に帰ると、ナルトが慌てて奥の部屋から出てきた。
キッチンを見れば、夕飯の支度はまだ何もされていなかった。
「は、早かったんだなーサスケ!」
ナルトは着替えすらもしていなかった。何してやがったんだ!
「おい、てめえは夕飯作るために早く帰ってきたんじゃねえのか」
オレはキッチンを見てから視線をナルトへと向けた。
「あ、そ、そう今からやろうと思っていたんだってばよ〜」
「…ウソつけ。どうせシーツを何にしようかとか考えてやがったんだろう」
オレがびしっと言ってやると、ナルトはうわ、何でバレてんの?という顔をしてオレを見る。
てめえの考えていることなんざ、お見通しなんだよ!
「ったく、仕事をほったらかして何をやってるかと思えば…。シーツなんてどうでもいいだろうが。それよりメシどうすんだ」
オレは何だかもう呆れてしまって、つい投げやりにナルトに言っていた。
「どうでもよくなんかねえってばよ!」
するとナルトがオレの言葉に突然火がついたように、訴えてかけてきた。
「サスケ、お前はシーツがオレ達の間でどんなにどんなに重要なものか、ちっともわかってねえ!」
「はぁ?何言ってんだ、シーツなんて別に何でもいいだろうが!」
「ちがーーう!シーツってのがオレとお前のためにどれだけ貢献してくれてると思ってるんだってばよ!」
貢献だぁあ?シーツがオレ達のために「働きます」とか言うっていうのか?ばっかじゃねえのか?
「だいたい黒だの緑だの、落ち着かねえんだよ!フツーに白でいいだろ、白で!」
「いや白もぐっとクルんだけどな…、ってそうじゃなくて!シーツはな、オレとお前のエッチを最高に盛り上げてくれる愛のアイテムなんだってばよ!」

前々からアホだアホだと思っていたが…、いや火影としてのナルトはオレだってもちろん尊敬しているし、だからこそ命掛けで仕えているのだ。
だが、こんなたかがシーツごときで、拳を震わせて熱く語る火影って…。
しかもそんな男に惚れているオレって、ともう脱力したくなる。

オレは目の前で爛々と目を輝かせ、熱くシーツ愛を語り続ける男を見て、深い溜息をついていた。




三.ナルト(七実)




サスケが黙り込んだのを見たオレは、心の中でガッツポーズを決めた。
サスケとのこんな言い争いの時は、黙った方が負けなんだってばよ。特にエッチに関しては、サスケのヤツ、ほんとにオレのこだわりが分からねえみたいだから、どうしてもこんな言い争いになっちまう。だからそんな時は、オレがどれだけサスケとの愛の時間を大切にしてるか、サスケに延々熱く語ることにしてるんだ。そうしねえと、サスケはなかなか分かってくれねえんだってばよ。そういうとこ、サスケってホント、ムードがないヤツなんだ。

ただ、今回はオレもいけない。それは確かだ。「メシの支度をする」って言って、オレはサスケを残して帰ってきたんだもんな…。サスケも腹が減っててちょっぴり心が狭くなってるんだろうと少しだけ申し訳なく思ったオレは、上目遣いでサスケにちょっと甘えてみることにした。
「メシの支度もそりゃ、重要だってばよ?オレだってそんなの分かってるって。だから、真面目に今からやるつもりだったんだってばよ?でもさ、でもさ、オレ達にとっては愛し合うこともメシと同じぐらい大事だろ?そうじゃねえ?なあ、お前はそう思ってねえのかよ」
たたみかけるように訴えかけるオレの様子に、サスケは少し怒りを引っ込めたみてえだった。
サスケの方も少し声を小さくして
「…んなこと言ってねえだろ?だけど、てめえが言ったんじゃねえか、メシ作っとくって」
なんて返してくれる。
どうやらオレを許してくれつつあるらしいサスケが愛しくて、オレはサスケに笑いかけてみた。サスケは脱力したまま、オレを諦めたように一瞥すると、溜息を吐いた。

「ほんとにお前はいつまで経ってもウスラトンカチだな…」
腕組みをして、サスケは嫌そうに言った。だけど、その口調はもう怒ってはいなかった。
「お前の事に関しては、オレってば一生ウスラトンカチって言われても、バカって言われても、全然いいんだって」
オレはにやりと笑って言う。サスケのウスラトンカチって言葉さえ、オレに対する愛の言葉に聞こえるんだから、オレも重症だ。
サスケはオレの言葉に絶句すると、溜息をついてオレに背を向ける。
「しかたねえ…、支度しろ、一楽行くぞ…」
サスケはオレに背を向けたまま、そう言った。
「へ?一楽行くのか?」
「てめえが今から一時間かけて作るまずいもんを食わされる位なら、一楽に行った方が全然いいだろうが…」
振り返ってオレを強気な瞳で見据えるサスケに、オレはぞくりとする。
すげえ色っぽいってば…。
オレはサスケに近寄ると、肩に手を伸ばし、そっと抱き寄せた。
「へへっ、確かにそうだよな」
笑いながら言うと、サスケはにやりと笑った。
「てめえのおごりだ、火影様」
「おうっ!任せとけって」
でも、と言いながらサスケを抱く肩に力を込めて、一層強く抱き寄せた。
「その前に、仲直りのチュウ、な」
目を閉じて、そっとサスケの唇に触れた。
柔らかくて甘い、サスケの唇…。その感触に、体の奥にジワリと火が灯る。サスケが今すぐ欲しい…。
でも、その前に一楽だ。

「じゃ、一楽に出発だってばよ」

オレはサスケを促して外に出る。ドアを閉める時、室内を振り返った。

シーツもちゃんと用意したし、風呂の準備も完璧。
帰ってきたら、今日は赤いシーツの上で乱れるサスケを思う存分堪能させて貰うってば。

オレは、あのバラの花ビラを敷き詰めたみてえな赤いシーツの上で、激しく乱れながらオレを求めるサスケを想像して幸せな気持ちに浸る。
サスケにはさっぱり分からねえみてえだけど、やっぱりオレは当分シーツにこだわるのを止められねえみてえだ。

オレはサスケの綺麗な横顔を盗み見ながら、欲を押し隠してそっとドアを閉めた。






みんなも愛する人とのいちゃいちゃ生活のためには、シーツには気をつけてくれよな!
オレのお勧めは黒だぜっ!