その1 初期たまご

2003/8/8 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 かわいいくんがにやにやしもってメールしよるので「お父ちゃんさっきからなに笑てんのー」と聞くとなんと「彼女が妊娠したよー」ていう嘘メールを自分のともだちに送って遊んどる。なんていたずらでおひまなことを。と思いもって実家に顔を出して母親と目を合わせた瞬間、真顔で「あんた妊娠しとんちゃう?」言われた。

 生理予定日までまだ三日あるが考えてみればここ最近の体調の悪さ、運転中の気持ち悪さ、異様な眠気、ほでさきほどの出来事。これはこれはと帰りがけに妊娠検査薬を購入して早速おしっこちゃー。

 終了サインより判定サインが先に出るちう驚異のスピードでおめでたが判明いや2秒てわし。

 お父ちゃんとの愛あふるるやりとりは恥ずかしいのでまた後日いうことで堪忍してもろて、あらゆる問題をひとつひとつ片付けるべく前をむいて歩き出すふたりと小さな小さなひとりなのでした。ああ恥ずかしい。

 

 

2003/8/9 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 流産を経験しとるよってにおなかの子が安定期に入るまで友人知人へのお知らせは控えることにした。万が一のことが起きた時、みなに気を遣わせてしまうのも心苦しいいうのが一番の理由。

 お父ちゃんが「たまごクラブ」こうてきた。

 「ほっほぉー」
 「どれどれー?」
 「ちょ暗い見えへんからどいて、うわ、へぇぇー」

 

 読ましてよ。

 

 

2003/8/10 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 ひと晩でわしよりお父ちゃんのほうが妊娠に詳しくなった。

 

 

2003/8/11(生理予定日) - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 仕事の合間に産婦人科へ。案の定妊娠判明が早すぎたらしく赤ちゃんの姿は確認できなかった。

 

 写真中央すこし右寄りに見える黒いものが赤ちゃんがおる袋。次に会う時には心臓の動きが見てとれるらしいので今から楽しみである。ちゃんと子宮内に着床しているようで、今日は正常妊娠とわかっただけでももうけもん。それにしてもお父ちゃん、黒いの見て「わーかわいいなー」てそれただの袋やがな。

 

 

2003/8/12 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 酒は我慢しているがタバコは本数を減らしただけで完全に絶っていない。すぐオエーとなるので半分ぐらいで消すが、起き抜け・食後・運転中・商談や打ち合わせ後・パソコンで作業中は我慢できやんと吸うてしまうてそれ常時やがなてツッコミかた昨日とおんなじやがな。

 お父ちゃんはわしと腹の子に気をつこてベランダで吸うたり、わしよりもうんと本数を減らしてるいうのにわしはちうたらお父ちゃんの目を盗んでそろーと火をつけたり出先のお手洗いで一服したりとどうしようもない。今までいちんち2箱半つまり50本消費しよったし急にやめるとストレスになるから!ていう眠たい言い訳を盾に正当化を続けるのである。まだまだ自分の我ばっかりのお母ちゃんでごめんやで。

 

 

2003/8/13 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 朝から晩まで店番の日。立ちっぱなしの上にお客さんに呼ばれて走ったり休憩できやんかったりする上にアルバイト君が頼りないので不安に思てたらお父ちゃんが仕事を休んでついてきてくれた。レジはもちろん接客から買い出しまでくりくりとよく働いてくれた。無給やのに。無給やのに。

 「お父ちゃん今日はありがとう、おかげで助かりました」
 「ごほうびちょうだい」
 「なにがええ?」
 「フェr
 「フェラチオ以外で」

 

 

2003/8/14 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 あまりにもひどいつわりのおかげで、体力に自信のあるこのわしが何もできやん。掃除はおろかシーツ替えで息切れしたり、料理をこしらえよる途中で脳みそがじーんと痺れて座り込んだりする始末。こんなんでお父ちゃんにしっかり働いてもらおうやなんて気が引けてしゃーない。仕事のアイディーアもまともに浮かばず延ばし延ばしで結局パア。先が思いやられる。

 ほで本日のタバコ、1本。

 

 

2003/8/15 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 調理師学校の同級生が神戸トアウエスト地区のイタリア料理屋はんでシェフに昇格、インターネットのホームページをこさえてくれとの申し入れがあった。早速マネージャーさんやらと打ち合わせ。その時に出してもろた桃のお紅茶がめこめこおいしくて是非ゆずってくれと頭を下げて用意してもろた。

 きもちの悪い時によく効くと聞き、レモンをふたあつ輪切りにしてタッパーに並べ、はちみつをたっぷりかけて冷蔵庫でまるいちんち寝かせたおつゆをグラスにとろんと注ぎ、氷とミネラルウォーターで割ったのを飲んでみた。うまーこれなんちゅうの、れもねーど?言いもって全部飲み干してグラスをたーんと置いたら桃のお紅茶を忘れてきたことを思い出した。

 

 

2003/8/16 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 セックスしたら出血と鈍痛が。お盆休みにも関わらず産婦人科へ電話を入れて診察してもらうことに。お父ちゃんも心配して内診室までついて来ようとしたがそれはちょっとあんたわし股ガー開いとるしやな。

 

 いつもよりうんと長いエコー検査の結果、袋の中に赤ちゃんらしき影が見えた。しかしまだ心拍は確認できへんよってに五日後かならず来て下さいとのこと。つわりが無くなってないとこみると赤ちゃんは生きてるて言うてはったけど不安で不安でパニック寸前である。どうか。どうかかみさまほとけさま。

 

 

2003/8/17 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 タバコを吸わないとあらゆる匂いに敏感になる。お父ちゃんのくちの中にはちっさいおっさんがおる。

 

 

2003/8/20 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 三日間寝込んでしもうた。仕事や身の回りのことはおろかトイレに行こうとベッドから起きあがるだけで貧血寸前まで脳みそが揺れ視界が真っ暗になり、常に嘔吐感に襲われている。我慢してじっとしていれば昼間だろうが夕方だろうが少し眠れるのがまだ救いだった。お父ちゃんにお粥さんを頼んでこさえてもろたが味がせんかった。これて結構やばいんとちゃ

 「あっ味付けすんの忘れた」

 

 おまえか。

 

 

2003/8/21 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 へろんへろんの体で検診のため外出。三日ぶりの外の空気。助手席に乗り込んだ途端モーレツ(あの衣装で)な吐き気におそわれたがそのまま病院まで耐えた。いっそ吐き出してしもた方がなんぼかスッキリして移動できたなと今になって思う。おそいて。

 いつもより長い時間内診を受ける。エコーで初めてわしの子の心拍を確認した。ぱくぱくと動きを刻むそれが心臓なんだかよくわからないがとにかくわしの腹の中でもうひとつのいのちが確実に生きている。それはそれは素晴らしい生命のなんとかである。

 「ここね、どくどくどくどくて、心臓が動いてますね、わかりますか」

 「うおーわかりますわかります!」

 「あっ止まった、あ、こっちの機械ですよ、心臓ちゃいます」

 

 びっくりさすな(するな)

 

 

2003/8/22 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 しゃらー!タバコやめたった!!

 それが良い方向へ働いたのか、つわりの質が少し変わった。起き抜け一番にオエー!となることと、ぐったり寝込むことがなくなった。調子に乗って今までできんかった料理をこさえようと起きあがって奮闘。ガシカーシ。火をつけてコンロのそばに立つやいなや貧血でぶっ倒れるあの瞬間のように黒いものがばばばばばばー!と目の前に出現してあたまが後ろに「わー」て引っ張られ、即座にしゃがみ込まなかったらパーテーションもろともバサー倒れるところだった。

 台所には下ごしらえを終えて火を通すだけの食材がわんさと盛られ今か今かと待っておるいうのにクーラーのきいた部屋で丸くなるしかない初期妊婦に冷たいお茶と氷嚢をセットしてすぐさまゲームに没頭するお父ちゃんなのであった。

 

 あの。どうかおそばに。

 

 

2003/8/24 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 寝込むことが無くなったなどと調子に乗って家事をはじめた途端にこれはホンマにこの世のものかと誰かを恨みたくなるようなあらゆるつわりの症状におそわれ、いちんちで起きている時間は朝のお父ちゃんのお弁当と朝ごはん、ほでお父ちゃんが帰ってくる頃に晩ごはんをこしらえる時のみとなった。火のそばに立つと猛烈な吐き気とめまい、ほで腹部にいやな鈍痛。あぶら汗が出て自分ではもうどうすることもできなくなった。

 病院に電話すると重度の妊娠悪阻いうことで入院をすすめられたが、料理も洗濯も家事一切ができないお父ちゃんをひとり残すわけにはいかず自宅で絶対安静に。

 ほなけどな、しょーみな、安静せい言われんでもな、ふつうに寝込むて。ずっとオエオエいうとるわ目は見えへんわ息切れするわ腰痛いわ子宮ちくちくするわでな、仕事どころかトイレにもよう行かん状態や言よんのにやな、電話だけはほうぼうからじゃんじゃんかかってきてやな、ストレスたまって顔ぶつぶつできるしやな、動きたいのに動けんとイライラするしやな、部屋んなかはどんどん散らかる一方でやな、うんうんうなっとる時にお父ちゃん仕事から帰ってきて「大丈夫か」のひとこともなしに「ごはんは?」て言われてみ。かみのけブアー!逆立つで。

 

 とやっとの思いで書いたのはこれより10日ものちのおはなしで。

 

 

2003/9/6 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 起きあがってもめまいがしなかったので頑張ってシャワーを浴びて必要なもんやら食材を買いにでかけた。今日の体調を逃したら今度はいつになるかわからないので切れそうなものを全て買い込んだのがいけなかった。牛乳やらオリーブオイルやらみりんやらタマネギやら柔軟剤やら液もんが多くて持ち上げるのがおそろしいほどの重さと量 になった。ええスーパーを選んだので車までは店員さんが持ってくれはったが問題は駐車場トゥ玄関アト3階バイ螺旋階段である。数回にわけて静かに且つ休憩をはさみ、決して腹圧がかからないよう充分に注意しもって運び入れたがそのあとの体のえらさ!いうたらもうあんた!「し、しぬ … 」て声に出して言うたもんね!言うたもんね!言うてる場合ちゃうかってんけどな!実際な!実際な!

 晩ごはんの用意もろくにでけやんと横になったまま夜を迎えてお父ちゃんが帰宅し、眉間に皺を寄せてはぁはぁと腹をさするわしを見てさすがに驚いたのかあたまを撫でもって冷たいお茶をいれてくれた。口に含もうと頭を起こした瞬間ぱんつが濡れているのがわかり驚いて部屋着をめくると生理とは全く違うものすごい量 の鮮血が目に飛び込んだ。声も出せずにトイレへ移動し、とにかく拭かなければと尻をおろしたその途端、膣からにゅるるるるると何かが出て全身から血の気が引いた。

 見れん、こわい、何か塊が出た、赤ちゃんが出とったらどうしよう、流産?また?もうあかんの?

 パニックを起こすわしにとにかく電話をしろと携帯をよこすお父ちゃんに従い産婦人科に連絡を入れる。気が動転してうまく話せなかったが、血のついた下着とその「膣から出たもの」を持ってすぐに来てくれとのことだった。ゆっくり血を拭いてからトイレのドアを締め、勇気を振り絞って便器の中を見た。

 なにこれ。

 なにこれ。

 なにこれ。

 ブルーレットで青いはずの水は血と混じってなぜか緑に変色し、その底には消しゴムほどの大きさもあるレバーと見まごう塊が沈んでいた。ためらいなく手を突っ込んでそれをすくい上げて胎児ではないことをまじまじと確認し、下着を替えて病院へ向かった。車の中では何も話せず、ただただつわりの気持ち悪さを確かめ噛みしめ前を見据えていた。流産すると嘘のようにつわりが無くなるからである。

 

 夜中にも関わらず先生が待っていてくれはった。とにかく内診しましょうと連れていかれ、いつもの倍のスピードでぱんつを脱いで内診台に座る。

 「はい超音波で見ますからね、リラックスしてくださいよー」

 「………」

 

 

 

 「あ」

 「あ!」

 「うん、ちゃんと赤ちゃんいますね、とりあえず大丈夫です、心臓も動いてますね、見えますか」

 「…はいぃ」

 

 いつもより丁寧に念入りに診ていただいてひとまず胸を撫でおろした。レバーのような血の塊は子宮と赤ちゃんの袋の間から出血したものが固まったものらしく、自宅で絶対安静にできるのなら帰ってもよろしいと言われそうさせていただいた。またしばらくベッドに根をおろしてしまいそうな毎日が続くと思うとうんざりするが、赤ちゃんがしっかり成長するまではしんぼうせんならん。

 超音波写真に写っている赤ちゃんの足に丸いもの(卵黄嚢ちうお弁当箱の名残)があり、それをみたお父ちゃんが「見てみ、この子あしにローラーついてるで」言うてひとり喜んでいたので、はにわのような顔で見つめることでそれに答えた。

 

 

2003/9/16 - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

 おまえはドラえもんか。

 

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オモテ