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「ねえ、ソフィー……ソフィーって何もしらないよね」 くるりと振り向いて、楽しそうにハウルは言った。 この瞬間からもしかしたら運命は決まっていたのかもしれない。 LESSON……0 OPENING 〜なりそこねの魔王と魔法使いのキス〜 始めにするべきことは、可愛いおねだりなんだよと、魔法使いは笑った。 ――笑い方が意地悪……なんか企んでる? さすがに敏感になり始めてるソフィーは疑う。 「ソフィーは、ぼくとはキスしたくないのかい?」 けれど、逆に拗ねられるように言われてしまえば「うっ」と言葉につまるしかなくて、 「ほら、したくなってきた?」 「……無茶言ってない?」 「そうかもしれない」 いっそすがすがしく言い切られてしまうともうお手上げだ。 ハウルはそのまま、腰掛けている背後に近づいたソフィーの腕を引っ張って、前かがみにさせると、ぎりぎり届く首筋に小さくキスをした。 「いろいろ、教えてあげよう」 芝居がかっていたのはそこまで。 ハウルの目が禍々しいような、ちらつきを見せたことに、ソフィーは気付かないのだけれど。 * * * * * * * 「んっ、まって……いきなりキスしなくてもっ――」 「こんなのキスのうちに入らないよ?」 ハウルはソフィーの肩を引き寄せて自分に持たれかけさせると、啄ばむように唇を重ねた。何度か角度をかえ、呼吸だけでなく羞恥に何度も目を瞑ってしまったソフィーは、髪の毛の中に手を入れられ、なだめるようにかき回されて身体を硬直させた。 優しくてくすぐったい……。 「ほら、これがキス」 先日教えられたばかりの深い口付けとともに、生ぬるい感触が送られる。 ――やだっ…… いつもどおり思うのはそればかりで、なれずに逃げようとする舌先にわざとらしく軽くゆるゆる熱を与えてくるハウルの舌に抵抗することはできなかった。 静かな刺激に、ろくな反応もできずにいると、ハウルは調子にのって顎を掴み、背けられない角度で中に押し入ってきた。 侵入を拒むソフィーの気を逸らすように、魔法使いの指は髪から首筋を滑り落ち、背中にまわる。やがて服の中に侵入させた手の冷たさにソフィーが跳ねた刹那を見計らって、侵入した舌を絡めてしまう。 「ぁ……」 抵抗ごと声を飲み込んで、口腔を探るように舌を深く差し込む。 「駄目。こういうときはそっちからも応えなきゃならない……」 くすくす笑って、前にまわした指先でドレスを紐解き、鎖骨の辺りから徐々に布をずらしてく。 ――っ……。 「リラックスだ」 「ふぁっ……」 「空気が吸えない?」 ――分かってるならっ 「止めて欲しいのか?」と、ハウルの目は語っていて、それ以上に気になる背中から肋骨を辿る指の動きも牽制できぬまま、ソフィーはまた下唇を甘噛みされていた。 「んっ」 急に押し上げられた膨らみ。 天辺が布に擦れる痺れに、声が漏れる。 ゆっくり円を書き、捏ねるように触られるのに膨れて零れ落ちてしまいそうな、その頂きだけに刺激が足りない。 「もっとソフィー(から)のキスが欲しいんだよ」 「…ン」 無理といおうにも、先ほど飲みそびれた名残が零れた唇を開けばただ厭らしさがまし、ついで艶のある音が突いてでかねない。 ――たすけて…。 何とかできる唯一の人を見れば、真摯な目には偽りなんてなくても……欲望は隣り合わせ。 「普通にっ」 ――キスするだけじゃ駄目なの? なんとか告げる言語の断片で、ハウルはソフィーの言わんとすることなんて当然理解していて……それでも、半分本気できょとんとした表情を作る。 それからここのところお決まりになった台詞。 「いやだ」 自分の我がままに弱いと悟りきった魔法使いの声は、有無を言わせない。 ソフィーが諦める方が結局のところ、いつだって早いのだ――最早パターンは読めつつあったからソフィーも歯向かうことを止める。例えどの道相手の要望を聞かされてしまおうとなんだろうと。 ――絶対きかないんだから。 ソフィーがそうは思っても、ハウルはハウル。「お願いだから」と実力行使も伴った甘い罠を用意してくる。 「ソフィーも、身体、熱くない?」 例えばこんなふうに……。 「や、だって、そんな――」 慌てた一瞬、唇の隙間をぬって舌がちらりと出入りした。 避ける間もなく、だんだん深く……だんだんと丁寧に……。歯の裏までも、どこまでも壁をソレを刺激して…… やがて、肩で呼吸するソフィーが自主的にハウルに寄りかからざるをえないほど、消耗するまで延々と練習は続けられる。 「今日はまだ」と肋骨で指の侵入を止められたところで、わき腹を撫でる指が徐々に温まっているのはきっとソフィーの気のせいではない。 「ちょっと覚ますのには、もっと熱くなるしかない」 キスは温度調整――だから……とハウルは笑っていって、 「お望みとあればもっと熱くしてあげるよ」 ――無理……。 息を整えるソフィーを抱きかかえ、耳元に「今はまだここまででも……」とつけそえた。それから―― 「ほら、最初に覚えて?」 こういうふうにねだって……? 一方の指先は今度は唇を割って入る。 ハウルが頼んでみせても、言葉を覚えさせても本当のところは無意味なもので、男というやつは顔を紅潮させたカノジョが、必死にこちらを見つめるだけで本来十分ぐっときている。 だから、ハウルは自分から我がままをいってみせて…… 「好きなら、きっとこうしたくなるから」 言い聞かせる。 だけれども、キスのおねだりはほんの入り口。 その先のエスカレートするレッスンを、ソフィーはまだまだ知らない。 ただキスを受けて、応えるだけの努力を律儀に、精一杯にしてしまうだけ。 「好きだから……熱に溺れてもいいんじゃない?」 悪びれないなりそこねの魔王の誘い文句に負けて。 レッスンは続く。 次の日、 ――はじめにするべきは、おねだりをどうかわすかだ……。 気付いたソフィーの、対策『レッスン』も……。 |