AMBER

 

 

 

 

 知ってる人の名前って、無意識でも目に止まったりすることって、よくあることかも知れないけど。

 もし、それが好きな人の名前だったりしたら―――。

 

 なおさら余計。

 

 

 

 ちょっと大きめのデパートまで母親と買い物に来たときだった。

 今日の目的は、母親が従兄弟の結婚式に出るために、服を新調してもらうって事で。

 デパートは嫌いじゃないから、せっかくだし…と千尋は母親にくっついてきた。

 

 そのとき、ふと千尋の目に入ってきた催し物案内の欄にあった文字。

 『神秘のこはく展』

 たったそれだけなのに、千尋はどきどきしてしまう。

 

「ねぇ、お母さん――――――」

「なぁに?」

「服の採寸って、どのくらい時間かかる?」

 エレベータへと向かいながら、千尋は母親に、もうとっくにわかってる答えを求めた。

「そうね…空いていれば30分くらいでしょうけど…日曜日だから、それはないでしょうね」

「いつもみたいに2時間くらい?」

「…判ってるじゃない。なによ、時間かかっても良いって言ったの千尋でしょ?」

 どうやら母親は、千尋が長い時間待つのを嫌がるように聞こえたらしい。

 そうしているうちにエレベータが着き、二人とも乗り込む。

 いつものお店は8F。

「うん、時間は良いんだけど…1時間くらいでいつものお店行くから、ちょっと違うところ見てきてもいい?」

「いいけど…迷わないでよ?」

「大丈夫!何度来てると思ってるの?」

 千尋はそう言って迷わず7Fのボタンを押した。

 エレベータはそのとき5F。

 なんとか間に合ったらしく、すぐに チン と7Fに到着した音がした。

「じゃ、後で行くから!」

「千尋っ」

 小走りでフロアに向かっていく娘の背を見ながら、催し物専門のフロアに何があるのかしら…と、母親はひとりごちた。

 

 

 

 全然ね。ハクとは関係ないってわかってても。

 なんとなく気になっちゃうんだもの。

 

 『コハク―――琥珀』

 前に辞書で見つけたときは、大昔の樹液が固まったものって書いてあった。

 

 

 あった。

 

 フロアの隅寄りのところに、いかにもな特設っぽいブースがある。

 意外と人が多くてびっくりした。

 ―――なんでかおばさんばっかりだけど。

 とりあえず人の少なそうなショーケースにたどり着く。

 そこにはベッコウアメのようなアンバーがたくさん飾られていた。

 

「お嬢ちゃん。こはくに興味があるのかい?」

 じーっとケースの中を眺めていると、店員の一人だと思うおじさんに声をかけられた。

「は、はい…」

 …動機は不純だけど。

 

「その若さでこはくの魅力がわかっているとは!うれしいねぇ。

 どーも色が地味なせいか若い子で好きな人は少ないから」

「ふーん…」

 千尋はおじさんの話を聞きながら、ショーケースの中を物色していく。

 すると、奥にあったひとつだけ。

 異色を放ったペンダントが目に止まる。

 

「おじさん、これもコハク?」

「お、これに目をつけるとは…」

 そう言って出されたペンダントには、ビー玉より少しだけ小さな丸いアンバーがついていて。

 ……他と違うのは―――――…若草色をしているところ。

「珍しいだろう?ほら」

 ショーケースから出されて手渡されたペンダントはすごく軽くて。

「軽い!」

 ビー玉くらいの重さを想像していた千尋は、あまりの軽さに目を丸くする。

「触るのは初めてかい?」

 千尋はこくんと頷く。

 するとおじさんは色々とコハクについて説明をしてくれた。

 

「最近は技術も進歩したせいか、ニセモノが増えてね…主にプラスチックなんかで作られているんだが―――…

 簡単に見分けるには、塩水に入れてみることだ」

「…溶けないの?」

「大丈夫。溶けやしないさ。もう化石だからね。

 で、本物だったら塩水より軽いから塩水に浮く。逆にニセモノだったら沈んじまう」

 おじさんは千尋が手にしているペンダントを指差して、にこやかに笑う。

 ―――こはくについて語っているおじさんはすごく楽しそうだった。

 ホントに好きなんだなぁって思う。

 

「ううん、ホンモノだと思うからいい」

 そして千尋は、手の中のペンダントをじっと見る。

 それは透き通っていて、とてもキレイで。

 

「―――気に入ったのかい?

 ただそれは、色は珍しくてもこはくとしてはあまり価値がなくてね。

 本来こはくは虫の死骸やゴミなんかが混ざっていたほうが高くなるんだが、

 そいつは見てのとおり嫌味なまでに透き通っちまっててなぁ・・・」

 おじさんはそう言うけれど。

 

 透き通った、ヒスイの、コハク。

 

 まるで、ハクの瞳を見ているようで、ちょっとだけどきどきする。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――で、これがそのペンダントなんだね」

「うん、そう!いっぱいおまけしてもらっちゃった。

 ……ハクの瞳みたいでキレイでしょ?」

 油屋の中庭で日向ぼっこをしながら、千尋はハクに先日買ったコハクを見せていた。

「ただでさえハクと同じ名前で、色まで似てるんだもの。すっごく愛着湧いちゃって」

 ―――自分に似ているから「愛着が湧いた」というのは、とてもうれしいが、「自分」の代わりになってしまっているような気がして、ハクの心の中は複雑だ。

 へへへへっと、千尋は照れ笑いをする。

「これでね、ハクと会えないときも、少しだけ寂しくないかなーって思ったんだけど…」

 ―――――…やはりあのペンダントは自分の代わりになっているらしい。

 

「千尋……」

「なぁに?」

 ハクがそっと、千尋の肩を抱き寄せる。

「…会えないときは、できればそのことを憂いてほしい」

「う、うれ…?」

「会えないときは素直に寂しがってほしいと言ったのだ」

 そっと頬を手でなぞられて。ハクからのそんなお願い。

 

「だ、だからね!「寂しくないかなーって思ったんだけど…」逆効果だったの!」

「逆効果…?」

 そう!と千尋は捲くし立てた。

「これ見てるとね…見るたびにね、ハクのこと思い出しちゃって、余計会いたくなっちゃうみたい」

 千尋はぽてっとハクの膝に頭を乗せて、真上にあるハクの顔を見上げる。

「会いたいなーってたくさん思ってたら、たくさんしたいことができちゃった」

 膝枕もそのうちのひとつ。

 そう言って千尋は勝手に枕にした、ハクの膝に顔をうずめた。

 そんな千尋を覗き込むように、ハクは千尋の髪を梳く。

 

「他には……何をしたいと思ったんだい?」

 耳元で囁かれ、千尋はひゃうっ…っと肩をすくませる。

「えっと……ホントのハクの瞳が見たい……」

「そんなの…好きなだけ見るといい」

 体ごと仰向けにさせられて、ハクの顔が降ってくる。

「…他には?」

 

 折角だから、全部言ってごらん?

 

 微笑むように促され、千尋は真っ赤になって小さな声で答えた。

 

 ……キスして…?

 

 ハクは千尋に覆い被さるようにキスを繰り返し、彼女の首にかかっている、自分と同じ名のペンダントをちらりと見た。

 もし自分の代わりになっていたとしても。

 こうやって「私」を思い出してくれるのなら。

 

 それも悪くない。

 

 

 ハクはくすりと笑って、千尋の胸にある「琥珀」にもキスをした。

 

 

 

 

 

22222を踏まれたみやみさんに捧げさせていただきます。
「ほのぼのラブ」というリクエストでした。
ほのぼの目指したんですが――――ごめんなさい!!
アンバー(琥珀)についてのほうが語り長くなってしまいました!!(最悪)
石についいて語りだしたら止まりませ―ん(阿呆)
こはくはレモンカラーが大好きです☆昔見た青っぽいのも素敵でしたねー。
最近は一度溶かして人工的に中に虫とかを入れてキレイに固める技術があって
成分は同じな擬似こはくが出回っているせいか安くなってきましたけどね。
塩水に浮くってのは本当です。ちょっと大き目の宝石やさんで、ぜひ!
触ってみてください。見るだけならただ!!多分触ったことがない方は、
あまりの軽さにびっくりするはずです。