|
許シテあげない!
「ハクなんか知らないっ!!」
きっかけはすっごく些細なことだった。 どっちが悪かったとか。 そんなのもわからなくなるくらい、些細なこと。 それでも、千尋は怒っていたし、ハクも怒っていて。
千尋はばたばたと廊下をかけていく。 ハクも彼女を追わなかった。
「ハクのバカっ!!」 仕事上がりの雑魚寝部屋。 千尋はひたすら枕に八つ当たりしている。 リンはいつものことなので、特に口を挟むつもりもなく、むくれている妹分を放って置くことにした。 オトコとオンナのジジョーに口を出すほど下種じゃない。 ―――ま、まぁ?明日から当分「ハクサマ」の機嫌が悪いだろうなーってのは… ……覚悟を決めておくか。
ハクのばか… 一通り当り散らして、千尋はコロンと横になった。
たしかに…わたしも悪かったかも知れない。 でも…あんなに言わなくったっていいじゃない!! それに… いつだって、最後に折れちゃうのは自分なのだ。 わたしが悪くても。ハクが悪くても。 痺れを切らせたハクに、うまく丸め込まれてしまう。 ハクの腕に落とされてしまう。
そうなっちゃったら…… 意地になってもムダじゃない? 結局わたしが謝って、ねだって。うやむやになっちゃうんだもの。
だから――――… 今回は、ハクが謝るまで許してあげない。 どっちが悪いとかじゃなくて、ハクが折れるまで許してあげない。 そう、許してあげないんだから。
そんなこんなで。 次の日は、ハクに会わないよう心がけていたお陰で、一度も会わずに済んだ。 二日目、何度かバッティングしちゃったけど、その度見えないふりをした。 ハクも何も言ってこなかった。 三日目、ハクがわたしを探しているらしいと聞いたが、あくまで「らしい」。 名乗る上げる真似なんてしない。坊のお守りという名目で、お婆ちゃんちに退避。
そして四日目――――――。
いい加減、そろそろ千尋も寂しくなってきた。 自分が謝れば、元に戻るってのはイヤと言うほどわかっている。 でも!! それじゃいつもと同じ。 今日まで頑張った意味がなくなってしまう。
昨日、ハクが探してた…らしいということは、今日か明日がXデーになるだろう。
「千」 案の定、仕事が終わって部屋に戻ろうと階段を上っていたところを、ハクに呼び止められる。 「ケリつけてから戻ってこいよ」 リンは千尋にだけ聞こえるように言って、先に戻っていってしまった。
「何か用ですか?」 ハクが『千』と呼んだから、千尋も『千』として返事を返す。 「話がある」 「―――わたしにはありません」 だから、戻ります――― そう言う前に、ハクに腕を掴まれた。 「私にはある。部屋まで来てもらいたい」 「―――今日は都合が悪いから……ぁ!!」 しかし、千尋はそのままハクの肩に担がれてしまう。 「ハク!!」 「『ハク様』」 逆さまにされた状態で、ハクの背中をぽかぽか叩くが、そんなのは全然お構いなしで。 「私を無視して平気だなんて、思えないようにしなくてはね」 顔が見えないから、何を思っているかは読み取れないけど…… 明らかに機嫌は悪い。 「ハクだって無視してたじゃないっ!!」 手足をばたつかせるけれど、いかんせん頭が下になるので、落ちそうで怖くって。 思いっきり抵抗できない。
「三日も待っててあげたのに……千尋が頑ななのが悪い」 この道は、明らかにハクの自室へと続く廊下。 「わたし悪くないもん!!ハクが謝るまで口きかないんだからー!!」 「――――――そんな事。いつまで言っていられるかな」 いつも通りのメニューコース。
――――――もしかしたら、いつもより状況は悪いかもしれない。
布団もしかれていない床にどさっと下ろされた。 ハクは脚で千尋の下半身を押さえ込み、彼女の右手を左手で、彼女の頭上に縫いとめる。 「ハクっ!!イヤっ…!!」 千尋は唯一の左手でハクを押し返そうとするが、ハクはびくともしない。 そうしているうちにも、器用に次々と服を脱がせられてしまって。
――今日は。 ――流されないって決めたのに。 ――ちゃんと謝ってくれるまで、許さないって決めたのに。 ――このままじゃ、いつもと一緒で。 ――……きっと、許しちゃう。
――そんなの、イヤだ!!
「や、やだってば!ハクっ!!」 それでもハクは千尋を暴くことをやめない。 力の差を思い知らされる瞬間。 どんなに抵抗しても、彼は気にも止めてくれなくって。 千尋は自由な左腕で自分の顔を覆った。
「ハク、ひどい……」 「……酷い?」 今までの抵抗とは違った声色に、ハクは手を止めて千尋を見る。 彼女は、自分の腕の中。 小さく震え、嗚咽を漏らしていて。
―――きっと…泣いている。
「ひどいよ… ハクは抱けばわたしが言うことをきくと思ってる…」
「そ…」 そんなコトは――――――… ないとは言えない。
自分に逆らう千尋が、自分の腕で陥落するときの征服感。 自分を拒む声が、自分を求める声に変わるときの高揚感。
考えていなかったと言ったら嘘になる。 しかし、千尋だって本当に嫌がっているとは思っていなかった。 お互い意固地になっている壁を、お互いを求めることによって壊してきたと思っていたから。
「千尋……」 ハクは千尋の顔を覆う手を退けて、そっと彼女に口づける。 ついばむだけの、彼女を落ち着かせるためのキス。 「……ハク…」 「すまない。確かに―――…そう思っていなかったと言ったら嘘になる」 千尋は返事もせずに、じっとハクを見つめた。 逆に、ハクは苦しそうに眉を寄せた後、千尋の首筋に顔を埋める。 「しかし、私がどんなに千尋のことを愛しいと思っているかをわからせたかった。 ――――――こんな方法しか私は知らないから…」 自分に覆い被さっているハク。
やっぱり酷い。―――そしてずるい。 そんな姿見せられちゃったら。 ……もう許しちゃってる自分がいる。
そっと背中に両手を回すと、ハクの体がわずかに揺れた。 ハクは顔を上げて千尋の顔色を伺う。 すると彼女は泣きやみ、くすくす笑っていた。
「へへ、焦った?いつもの仕返し。 …いつもわたしが折れちゃうでしょう?だから…ね」 そう楽しそうに言う彼女を見て、ハクは心の底から思う。
愛しくてたまらない。 憎たらしくてたまらない。
「そう…… 千尋は今私が、どんな気持ちだったかわかるかい?」
より一層顔を近づけて、ハクが問う。 さっきまでの表情とは違う―――…いつものイジワルするほうの顔だ。 「千尋だけが、私を殺せる。千尋に拒絶されたら……私は生きていけない それなのに――――――」 「わたしだって、いつも悩んでるから。いいの!ハクは少しぐらい悩んだって!」 「では千尋流に、今の仕返しをさせてもらおうか」 ハクは楽しそうに眼を細め、千尋の瞳を捉える。 千尋もハクの目をじっと見た。
くすっ
どちらからともなく、笑いが洩れる。 「…わたし、まだ許してないんだよ?」 「そんなコト、言っていられないと思うけど…?」
そう言ったけど、実はもう許しちゃってるから。 もう少しだけ、許してないフリしてないと、ツゴウのイイオンナになっちゃう。 だけど。 そのままかみ付くようにキスされて、思わずハクの首に腕を回してしまう。
――――――きっと、今のでバレバレなんだろうな…あう。 だって、ハクが楽しそうに微笑んでたから。
リンクお礼で月子さんに捧げさせていただきます。 |