でんじゃらす・DAY

 

 

 

 

 千尋は悩んでいた。

 この三連休。実際、連休の前日からこちらに来ているので実質三泊四日。

 そのつもりだったけれど――――。

 

 今夜どうしよう・・・

 

 今日はもう既に最後の夜。

 そして今回、昨日一昨日とハクとの時間が合わなくて、何もなかったというコトは。

 今夜は暗黙の了解でハクが来るというコト。

 

「どうしよう・・・…」

 こちらの世界にス○ンはない。

 ホントはオトコの人が用意してくれるものらしいが、売ってないものは仕方がなく、千尋が向こうの世界で買って持ってきていたのだが――――。

 

 ……そういえば、初めて買いに行った時、すっごく恥ずかしかった…

 目が悪いお婆さんしかいないって有名な、隣町の薬局にできるだけ大人っぽい服と眼鏡をかけて。

 しかもハクはその存在すら知らないから……最悪の事態よりは…と説明させられたりして。

 ―――――最近はもう、慣れたというか、何というか…

 

 そんなことを考えながら、千尋はハコをひっくり返すが、やっぱり中は空だった。

 

 まずい。まずいって。

 

 これがあと3、4日後なら気にしないが、『今日』だからまずいのだ。

 

「よー、今日も早ぇえなぁ。どーしたんだ?深刻な顔して」

「リンさん…」

 千尋に並んで壁に背をつけるように、リンはどかっと座る。

 目がついたのは千尋が持っている小さなハコ。

 

「なンだ?それ」

 リンが指差す先が、自分の手にしているハコだとわかり、千尋は慌てて取り繕う。

「何でもないよ…っ」

 ここでまた一から説明しなきゃなんないのは恥ずかしすぎる。

 千尋はハコを隠しながら、言葉を続けた。

「リンさん…わたし、今日もう帰っちゃまずいかなぁ…」

「―――明日までじゃなくってか?」

「そう。できれば今すぐにでも帰りたい」

「まずいだろ…それは」

「やっぱり?」

 リンはハクと千尋がこの二夜珍しく何もなかったことを知っている。

 だって。自分がずっと千と一緒にいたのだから。

 イコール、今夜は間違いなくハクが千尋を探しに来る。

 そんな状態で千に帰られていたら――――。

 

 …………考えるのはやめておこう。

 

「ハクに相談してからの方がいいんじゃねーの?」

「―――ううう、やっぱり……」

 できれば一番避けたかった道なのに…と、千尋は頭を抱える。

「しっかし…なんで急に帰りたいなんて言い出したんだ?」

「――――――――――― 今日アノ日なの…」

 ぼそっと千がリンに告げる。

「月のヤツか?って、この前来てたよなぁ…

 ……あっ!…」

 リンは心当たりが見つかり、確認の意味をこめて問い掛ける。

「アレか?」

「そう…あれ」

「なるほどね」

 

 その後二人でどうしたら良いか話し合ったが、結局は

 「ハクの合意の上で向こうに帰る」というコトになって。

 千尋は気が進まないまま、ハクの所へ帰ることを告げに行った。

 

 

 

 

「ハク、ハク?起きてる?」

 入り口の襖の向こうから千尋の声が聞こえる。

「起きているよ」

「ハク」

 そう名前を呼びながら、千尋は襖を開け、中に入った。

 

「ハク、わたしね急に帰らなきゃいけなくなっちゃったの。

 だからハクに挨拶していこうと思って」

「――――…帰る?」

「う、うん。課題をね、一つ忘れてきちゃったの…今から帰れば終わると思うんだ」

 できるだけそれらしい理由―――できるだけそれらしく。

 でも。

 きっと千尋よりも千尋のことを知っているだろうハクは、その言葉を信じてくれない。

「……嘘だね?」

「―――――うっ…な、なんで?」

 なんでバレてしまったんだろう…?

「千尋の眼がね、躊躇いを持っていたから。

 ―――――私に嘘をついてまで、そんなに帰りたいかい?」

 

 カエリタイデス。

 

 そんなことを言ったら、何をされるか判ったものじゃない。

 千尋はその一言を心の奥に押さえ込む。

 

「折角だし…何で帰りたいのか理由を聞こうか?」

「ううう〜〜〜〜〜」

 こうなってしまったら、ホントのコトを言うしか道は残されていない。

「コレがね、もうないの…」

 顔を真っ赤にしながら、例のハコをハクに差し出す。

 コレがないから帰りますなんて……まるでわたしが待ってるみたいじゃないっ…

 真っ赤になってうつむく千尋を見て、ハクの鼓動は早くなる。

 

 やはり可愛い。

 

「ハク、わたしのこと好き?」

 上目使いでそんなコトを言われてしまったら、もう……

「もちろんだ」

 今にも彼女を抱きしめてしまいたい衝動に駆られるが、残念ながらもうすぐ仕事の時間。

「だったらね…今夜は何もしないで? ね? 

 そしたら、わたし帰らない」

 すでにその気のハクに向けられた一言。

 それでも、そのくらいで引き下がる彼ではない。

「使わない時だってあるではないか」

「でもね、今日はダメなの!」

 

 だって今日は――――――。

 ハクとコンナコトになってから気にしだした基礎体温。

 今朝高かったってコトは……

 つまり。

 今日はキケン日ってヤツで。

 

「ね? ダメ? わたしのこと大事なら許して?

 …それが無理ならわたし…」

 そんな今にも泣きそうな顔をされてしまったら、ハクはもう何も言えない。

 ―――千尋を感じることができないのは辛いが、千尋に会える時間までなくなってしまうのはもっと辛い。

「判った…ただし、今夜は私と過ごしてくれるね?

 千尋と過ごすのを楽しみにしてたのだから」

 精一杯の笑顔。

 たとえそれが張り付いた笑顔でも、最大の難関をクリアし、喜びを噛み締めている千尋には関係ないことだった。

「うん。ありがと、ハク!

 お仕事終わったらまた来るね!」

 千尋は惜しみなく笑みを向け、そっとハクの頬にキスをした。

「じゃ、また後で」

 トントンと階段を下りる音が響いている。

 そんな中ハクは、早まったかも知れない…と一人呟いた。

 

 

 

 

 そんなこんなで。

 長いような短いような仕事時間は過ぎ。

 夜更け、千尋はハクの部屋に戻ってきた。

 

 二人は他愛のないことを話したり、千尋がいない間に油屋で起きた出来事を話したり…

 「何もされない」とわかっているせいか、何時もに増して、千尋はハクに触れてくる。

 そして、今夜は普段一つに結上げている髪を下ろしていて―――――。

 そっと髪を耳にかける仕種にも、ハクはどきりとしてしまう。

 いつもだったら。

 躊躇いなく手を出していたに違いない。

 

 口づけをして、抱きしめて――――。

 

 しかしここで、下手に手を出してしまったら、きっともう止まらないだろうことは目に見えている。

 ハクはできるだけ平静を装っていた。

 けれど、ひとつ疑問が残っている。

 なぜ「今日」はダメと千尋が言ったのか?

 「今日」でなければ良かったという、意味を含んでいる一言。

 月の障りではない。まだこの前拒まれてから一月経っていないのだから。

「―――…そういえば、何故「今日」は駄目なんだい?」

 話を蒸し返されて、千尋はびくっとする。

 そして見る見る顔が赤くなって―――――…

 

 しばらくの間。

 

 

 とうとう千尋は観念して重たい口を開いた。

「今日は……キケンだからダメなの!」

 そう言ってしまうと、彼女はますます顔を赤くしてうつむいてしまう。

 ハクにしてみれば、もしそうなったら喜ばしいことのはずなのに、何故彼女が『キケン』と言うのかが良くわからない。

 それもきっと『こちら』と『あちら』の違いなのだろうけれど。

 いっそ身篭らせて、全てを自分のものにしてしまおうと思わなくもない。

 が。

 そんなコトをすれば、千尋が泣くだろうことは容易に予想できる。

 千尋が泣くのは見たくない――――――鳴くのは別として。

 

「それで……アレがないから駄目なんだね?」

「う、うん…まだあるつもりだったんだけど…

 ハクが悪いのよ?」

「私?」

「だって……」

 ―――――まさかあんなに使われるとは思ってなかったんだもの…―――――

 最後のほうは聞き取れなかったが、いつまで経っても初々しいままの千尋はやはり可愛い。

 嗚呼、折角…こんなにもいい雰囲気だというのに。

 ハクは気を紛らわすように、千尋の髪をそっと撫でる。

「ハク…キスだけ…して?」

 必死で自分を抑えているハクの心情を知らず、千尋は小さなお願いをする。

 そんなコトを言われたら、断れる訳もなくて……。

 

 そっと軽いキス。

 一度離して、今度は角度を変えて。

 

 やはりだんだん気持ちを抑えられなくなってくるのを感じる。

 そんな時、ハクはひとつ抜け道を見つけた。

「千尋―――…」

 いきなり深くなるキスに、彼女は体をびくんとさせる。

 そしてハクは、無防備な千尋の腰紐を取り去り、頸かみの緒をはずした。

「やっ……今日はしないって言ったのにっ…」

 唇が離れた隙に、千尋が非難の声をあげる。

「千尋が悪いんだよ。私を挑発するから…」

「ちょっ…挑発なんてしてないってば!」

 千尋は身に覚えのないコトを言われ慌てるが、ハクの手は一向に止まらない。

 さっきまで抑えていた分、抑えが効かなくなってしまえば、あとは反動があるだけで。

「ハク!!ダメだってばーーーーっっ!」

 千尋が半分泣きながら訴えかけると、ハクはもう一度千尋の髪をくしゃりと撫でた。

 それも、すっごい優しげな顔で。

 

「大丈夫だよ。今日は中で出さないから」

 それがハクの出した結論。

 

「そっ そういう問題じゃなーーーーーいっっ!!」

 

 

 

 

 結局。当初の予定通りの平和な夜が過ぎていく。

 誰も彼もが平和な夜。

 そう、平和じゃないのは、油屋の中でただ一人。

 千尋だけがキケンを感じていた。

 

 

 

 

 

リンクお礼でMAYMOONさんに捧げさせていただきます。
「我慢するハク様(ブラック仕様)」というリクエストでした。
結局我慢しきれてないし…ダメですね。自分。
こんなもの押し付ける形になってしまい心苦しいです…
すみません…はらはら
黒いですかねー?できるだけ頑張ったのですが!!あんまり黒とか白とか
意識したことないので(それはそれで何かまずそうですが…)
ご期待に添えてなかったらごめんなさい。
これからもよろしくお願いします。