元気がないの

 

 

 

 

「最近、ハク元気ないみたい…」

 仕事上がりのひとときタイム。

 女従業員しかいないその寝室は、いわばデバガメの巣窟で。

 千尋はリンにだけ言ったつもりだったのに、面白そうなニオイを嗅ぎつけたおねーサマたちに、あっ!ってまに囲まれてしまう。

 

「それじゃ千は寂しいんじゃなーい?」

「えっ…寂しいってよりは心配……かな?」

「―――オレにはいっつも通りヤなヤツに見えるけどな」

「そーよね、あの若さで元気がなかったら、まずいんじゃないの?」

「でもほら、実際いくつかわかんないしさぁ」

「ハクサマはどーであれ、千は若いんだし、まずいって言えばまずそうだけど」

「…確かに心配だねぇ…」

 

 ―――ビミョーに話が食い違っていることは、とりあえず放っておいて。

 

 そんな時、ひとりのおねーサマがごそごそと何かの包みを出してきた。

「しょーがないわね、千。これをあげるよ。ハクサマに飲ませてやンな」

 手渡された包みには、白っぽい薬が三粒入っていた。

「……これは?」

 待ってました!とばかりにおねーサマは得意気に話し始めた。

 

「これはね、前に客の一人…ま、神様からもらった、どんなヤツでも元気になるって言う薬なんだよ。

 神様だって元気になるんだ。これを飲ませれば、ハクサマだってきっと元気になるさ」

「ホント!?もらってもいいんですか?」

 千尋はぱぁっと顔を綻ばせて、ありがとうと御礼を言う。

「ああ、気にしなくて良いよ。

 それより、どうせなら早く飲ませてやったらどうだい?」

 おねーサマはそう言って千を促す。

 

「うん!わたしちょっと行ってくる」

 ぱたぱたと走っていく千の姿を見送りながら、おねーサマは小さく一言。

 

「…ちょっとじゃ済まないと思うんだけどねぇ…」

「そうだねぇ」

 うんうん。

 

 

 

 

「ハク!」

 いきなりノックもしないで、千尋はハクの部屋に飛び込んだ。

「ち、千尋!」

 ちょうど夜着にちょうど着替え終わったハクは、少しだけびっくりする。

「あ、ごめんね。もう寝るところだった?」

「いや………しかしどうしたんだい?そんなに慌てて…」

 多分…いやきっと走って来たのだろう。千尋の息が荒い。

 そんなに走ってまで、何か用があったのかと、ハクは彼女を見る。

 

「えっとね…このごろハク、疲れてるっていうか、元気がなさそうだったから…

 そしたらね、おねーサマがこれ。神様からもらった誰でも元気になる薬をくれたの。

 ハクに飲ませてあげたら…って」

 そうして包みをハクに差し出す。

「神様がくれたんだもの、きっとハクにも効くかなって…」

 しかし、薬を手にしたまま黙ってしまったハクを見て、千尋はちょっとだけ不安になった。

 

「―――…もしかして…余計なお世話だった?」

 一気にしゅ〜んとしてしまう千尋に、ハクは慌ててフォローする。

「いや、ありがとう千尋…気にかけていてもらえることが、こんなに嬉しいとは思わなかったから…」

「ハク…」

 お礼…とそっと額にキスされて、千尋は顔を赤くする。

 しかし次の一言は、さらに彼女を赤くさせるもので。

 

「……折角だから、千尋が飲ませて?」

「えっ……ええっ!?」

 

 驚いてみたけど……

 でもそれでハクが元気になるんなら……

 なーんて、思っちゃってる辺り、わたしももう末期かもしれない。

 

「駄目?」

「――――――ダメじゃない…」

 

 千尋はハクの手から薬を受取って、思い切って全部を自分の口に入れた。

 苦くはない。

 そして置いてあった湯飲みの水を含んで、ハクに―――――。

 

   コクン

   

 見下ろす形のキスに、千尋は胸をばくばくさせる。

「こ、これで疲れ取れるといいね」

「そうだね……でも…」

「ひゃう!」

 いきなり抱きすくめられ、千尋はさらに胸はばくばくしてしまう。

 いつもより薄手な夜着の所為か、ハクの体温が余計に伝わってくる。

 

「こうして千尋に触れているだけで、私の疲れは消えてしまうんだよ」

 そんなふうに言われちゃったら、無下にもできなくて。

 千尋は素直にハクに体を預けていた。

 

 

 

 

 しかし―――しばらくして。

 ハクは前触れもなく、突き飛ばすように自身から彼女を離した。

「ハ、ハク?」

 

 どくんっ

 

 ハクの体中の血液が、急に暴れだす。

 心臓を抑えて俯くハクに、千尋は慌てて駆け寄ろうとした……が。

「来てはいけない!!」

「は、ハク?」

 

 でも……

 ハクは苦しそうに体を丸めている。

 そういえば…体が離れる前のハクの体。熱くなかった―――?

 まさか…とは思うけど。

 病気とかだったら大変だし!

 

「だっ大丈夫?」

「いいから、千尋は部屋に戻るんだ」

 ハクの顔は真剣。

 だからって…こんな状態のハクを置いていけるワケもなくて。

 千尋は少しずつハクに近づいていく。

 

「―――……さっきの薬は、多分媚薬だ」

「…?媚薬?」

 きょとんとしている千尋に、ハクは噛み砕いて言い直した。

「つまり…性ヨクを促す薬」

 

「えええええ!?」

 

 ハクの一言に、千尋はわたわたと慌てだす。

「だから…このままだと、きっと加減できずに千尋を奪ってしまう。

 早く部屋に戻るんだ」

「でっでも…」

 わ、わたしがいなくなったからって、治るワケじゃないだろうし……

 それに―――元はといえば、わたしのせいだし……

 

 ハクに手を差し出せないまま、顔を上げてみれば、さっきよりも息が上がってるのも目に見えてわかる状態で。

 …さっきよりも苦しそう…

 千尋はちょっと躊躇った後、ぎゅっとハクにしがみついた。

 

「ちひろっ…」

 ヒドイコトしたらごめんね―――――。

 

 その一言と共に、ハクは理性を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 朝とは既に言いがたい時間に、千尋はやっと昨日出て行った部屋に戻ってくることができた。

 千尋はハクの部屋から戻りながら、昨日のあらましを思い返してみていた。

 …薬をくれたおねーサマも、ハクを心配してくれたんだし…

 そのおねーサマも「元気になる薬」と言われて貰ったらしいので、実際どんなものか知らなかったって言うのもしょうがないよね…と半ば諦めていた時。

 その元凶もとい、思考対象のおねーサマが廊下の向こうから千に近づいてきた。

 

「どうだった?千。薬ちゃあんと効いただろう」

「あ、あの……」

 実は薬がどんなものだったかを、千尋が伝えようとした瞬間。

 聞いてはいけないことを聞いてしまう。

 

「ハクサマのアレ、ちゃんと元気になっただろう?って」

 

 ……アレ?……

 

 ◇※☆〆!○♂?△!!!!!

 

「なっなっ……」

 千尋は真っ赤になって口をパクパクさせながら、回りきらない頭を回転させる。

 

  つまり……

  元気になる薬ってのは――――――

  ……………元気のイミ、違うからー!!

  

  って、わかってて渡されて、今わたしが戻ったってばればれってコトは…!

  

「その感じだと、薬効いたみたいだね」

「あ、千おかえりー。どうだったどうだった?」

「ホントに効くんなら、またあのお客さん来たら、多めにねだってみようかな」

 などなど…。

 言葉が出ない千尋は、もうカンペキおねーサマたちのオモチャにされてしまって。

 

 ……信じたわたしがバカでしたー……涙

 

 

 

 そんな千尋を見送ったハクはといえば。

「これは当分無理かな…」

 引き出しにこっそりしまっておいた粉末の薬に目をやって、くすりと笑う。

 まさか自分が飲むことになるとは思わなかったが…

 

 きっと千尋は当分「薬」自体に警戒心を抱いてしまうだろう。

 それはそれでしょうがない。

 なんてったって昨晩が昨晩なのだから。

 

 

 ハクは『千尋用』に用意しておいた薬を、こっそり引出しの一番下にしまい直した。

 

 

 

 

 

遅くなってしまい、誠に申し訳ありません!!
リンクお礼でゆっちぃさんに捧げさせていただきます。
ばればれですが「媚薬」というリクエストでした。
ええ、悩みました。「どっちに飲ませるか」で…(死亡)
最近、ずっとSS書いていなくって、更に危険な方に進んでいたので
抑えるのがちょっとだけたーいへん☆(死)
ええ、私はえっちぃのは絵でしか描かないぞっと決めてますので…ふふふ
こんなものですが、受取っていただけると嬉しいです。