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キスの魔法
あれはまだ小学校だった頃。 ハクと再会してすぐだった。
はじめてハクにキスされたとき、 何が起きたのか一瞬わからなくてびっくりした。
しばらくしてから、今度は長いキスをされた。 あまりのコトに、息を止めていたわたしをハクが笑った。 中学校ではじめての中間が終わった後の学校だった。
長いキスになれた頃、ハクの舌がわたしの舌を絡め取った。
キスが深くなるたびに、まるでそこから心を持っていかれるように わたしはハクを好きになってる気がする――――――。
「たまには千尋の部屋に行きたい」とハクが言ったので、 学校の帰り、二人で我が家に向かう。
「おかーさーん。ハクが来たから何か出すものなーい?」 「いいよ、千尋」 「よくない! ハク、ごめん先部屋に行ってて。飲み物持ってすぐに行くから」 「判った」 トントンと、ハクが階段を上っていく。 …お母さんドコ行ったんだろ… 「おかーさんー?」 いつもだったらこの時間には帰ってきてるのに。
(ま、いっか。確か冷蔵庫にお茶冷やしてあったよね) そう思って冷蔵庫を開けようとしたとき、ドアに貼ってある一枚の紙に気がついた。
『千尋へ お父さんが神戸に急に出張になってしまったので お母さんもついて行きます。 明日休みだから、本当は千尋も連れて行ってあげたいんだけど もう出なきゃいけないのでごめんね。 ご飯はテーブルの5千円を使ってください。 あさっての昼には帰ります。 母 』
「えーーーー!?うそー」 あさっての昼ってことは… 夜・朝・昼・夜・朝…最低5食。下手したら6食。 「ハクいるのに5千円で足りるわけないじゃん」 たしかお小遣い、まだ残ってたよね… 足りない分はあとで請求しよ…
「ごめんね。おそくなっちゃって」 「いや」 グラスにお茶を入れ、部屋に行くとハクが真中に立っていた。 「ご、ごめん!勝手に座ってて良かったのに」 「いいよ、気にしなくて」 とりあえずトレイを勉強机の上に置き、ベッドの脇からクッションを二つ出す。 折畳式のテーブルを出して、その上に二つ、グラスを乗せる。 「で?お母さんは居たの?」 「ううん。お父さんの出張についてっちゃったみたい。 帰ってくるのあさってだって。 だからハク、今日ゆっくりしていってね。一人だと寂しいし」 グラスをハクの前に置き、そういうとハクがわたしを見ていることに気付いた。 部屋を照らす夕日が、一層ハクを空間に際立たせる。
一度目が合ったら、もう動けない―――。
すごいどきどきしてる、自分。 今までにも何度かこんな雰囲気になったけど―――――。 あ、わたしから近寄った方がいいのか、それとも待ってればいいのかわからなくって… いつも、そのたびに頭の中がぐるぐるしちゃって。 どれくらい経っただろう。 もしかしたら本当は一瞬だったのかも知れない。ただ、わたしの中ではすごく長い時間。 不意にハクに腕を引っ張られた。 抱き込まれ、頬にハクの息がかかる。
「――――― …」
最初はついばむようにキス。それから角度を変えて――――。
体中の力が抜けていきそうで、ハクの上着をぎゅっと握る。 何分経ったかわからなくなった頃、ようやく唇を離された。
「千尋…」 普段とは違う―――声。 目を開けるとやっぱりハクの顔がそばにあって。
今度は目を閉じる前にキスされた。 キスが深くなればなるほど、わたしはハクが好きだって思い知らされる。 キスが長くなればなるほど、胸が詰まって泣きたくなる。
目を閉じたら、泣いてしまいそうで―――。
いつまでも、目を開いたままのわたしに疑問を持ったのか、 ハクは体を少しだけ離して、わたしの頬をなでた。
「どうしたんだい?千尋」 「ハク…今、わたしに魔法使った?」 「いや?」 「ハクに…キスされるたび、ハクのことが好きになっていくの。 まるで口からわたしの心を持っていってしまうみたいに」 頬をなでているハクの手を捕まえ、両手で握る。 「持っていかれそうなのに、胸が痛くなるの。締め付けられて―――」
「ハクから離れられなくなってくの…」
わたしがそう言うと、ハクの手が再びわたしの頬に触れた。
「だったら…もっとキスしてあげる。 もっと千尋が私を好きになるように……」
これ以上好きになったらわたしどうなっちゃうんだろう―――――?
そのあと、ハクはわたしにキスを繰り返した。 気づいたら空は暗くなっていた。 無意識にわたしはハクに言っていた。
今夜、帰っちゃやだ――――――。
やっぱり魔法だったんだと思う。 ハクがわたしにかけた魔法。
だって、そのあとのハクの顔は、すっごく嬉しそうだったから――――――。
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