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想い出の記憶
「急に向こうから呼ばれてしまったんだ。 少しの間戻れないけど、危険な話ではないから心配しないで」 「……どのくらい……?」 「本当にすぐだよ。戻ってきたら一番に千尋に会いにくるから」 そう言ってハクはあっちの世界に行った。
なのに―――――――― 「もう、一ヶ月たっちゃうよ!!」 千尋はボスっと枕に当たり散らしていた。
すぐ、帰ってくるって言ってたのに。 心配しないでって言ってたのに。 こんなに長くハクに会わないなんて、再会してから一度もなかったから。
心のどこかで、もう会えないんじゃないかなんて。
最初は心配だけだったはずなのに、だんだん不安になってくる。 ほんとに、会えなかったらどうしようとか。 帰ってこなかったらどうしようとか。
ハクを信じないわけじゃないけど、不安で胸が苦しくなる。
「ハクのバカ……」
一度ハクと再会してしまったから。 ハクがいる毎日を知ってしまったから。
再会する前に比べたら、ほんとにあっという間なのに。 どうしてこんなに苦しいんだろう?
けれど―――季節が変わっても、ハクは帰ってこない。
ショックだった。 ある朝、ハクの夢を見た朝。 ハクの声を思い出そうとしたのに、一瞬悩んでしまった自分。
自分の中のハクが、どんどん遠くなっていってしまう。 どんどん薄くなってしまう。 なんで撮っておかなかったの? なんで焼き付けておかなかったの? だって。 まさかこんなことになるなんて思わなかったから。 声、とってないよ。 写真だって。 ハクが好きじゃなかったから撮ってない。
ハクのことを共有できる友達もいない。
わたしの記憶の中だけにハクがいる。 そう、ちゃんといるのに。
あまりにもハクがいたという証拠が見つからなくて。 あの楽しかった日々が夢だったんじゃないかとか。 自分の願望だったんじゃないかとか…。 そんなことまで考えてしまう自分がいて。
でも……、まだ忘れてない。
ハクはいたんだから。
「おはよう、ハク」
あれから、ずっと日課にしている朝の挨拶。 ハクを忘れないために。 季節が巡った今も、ハクは戻ってきていない。
目を閉じてハクの姿を思い出す。 ハクの声。 ハクの瞳。 ハクの指。
なのに…………
もう、思い出せないよ……っ……
あんなに名前呼ばれたのに。 あんなにずっとそばにいたのに。
幻聴や幻影が見えたのも最初だけ。 ハクを思い出そうとしてるのに、もう、ぼんやりとした姿しか出てこない。
綺麗だった瞳の色も、綺麗だったとか、翡翠色だったとか。 抽象的なイメージでしか思い出せない。 あんなにどきどきした声も、あんなにやさしかった指も。 「どうだった」かしか思い出せない。 輪郭が出てこない。
ハク!ハク!! ハクっ!!
忘れたくない。 忘れられないと思ってたのに。
名前、呼んでよ。 「千尋」って。 キスして。 ぎゅうって抱きしめて。
「千尋」
うん
「千尋……」
おそるおそる声がする窓辺を向いてみる。
「……夢でも覚めないで……」 だってこんなにクリアな姿、声。 「遅くなってごめんね」
その瞳も。
唇に記憶と同じ熱が伝わる。 もう、夢なのかホントなのか幻なのかわかんない。
「なんでっ…………」
ハクの腕に抱きとめられる。
「ずっと待ってたのに…っ!! すぐ帰ってくるって言ったからっ!! でなきゃついていったのにっ………!」
「千尋…」
涙があふれてとまらない。 その涙の熱さで、夢じゃないんだってわかった。
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