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酔竜
「セーン、センはおらぬかーーー?」 ぺったぺったと軽い音を立てて、青蛙が浴場の方に走ってくる。 「ここですけどー」 仕切りの隙間から、千尋は上半身を声がするほうにのぞかせた。 青蛙は千に気付くと、その場でぴょんぴょん跳ねだした。 「早くっ!とにかく早く来てくれ!!」
……この慌てよう…どうせハクがらみなんだろう…?
リンは大きなため息を一つ。 「――――――… 千、行ってこい…後で何言われるかわかんねーからな…」 千尋はリンに雑巾を預け、呼ばれた方に向うが、青蛙は「こっちだ!」とだけ言って、そのままさっき来た方向へと、どんどん進んでいってしまう。 「きゃっ…ま、待ってーーーー」
結構な距離を進んだ後、ぴたりと彼が止まったのは。 案の定、ハクの部屋の前。
青蛙は、思い出すのもおぞましい。と言わんばかりの顔で、説明を始めた。 「――――――…今日のハク様はすごく不機嫌で……」
うっ、それは知ってる。…っていうか(きっと)わたしのせい… そんなつもりじゃなかったんだけど、さっきハクに会う前に、坊に会いに行ったら、もうそれだけで。 「自分は不機嫌だ」ってオーラを出しまくってて……すっごく恐かった… だから今日はできるだけ顔合わせないようにしてたんだけど…
「仕事が早くあがったからと、我々に酌を付き合えと言われ――――…」
付き合わせるのが湯女じゃなくって、蛙たちってのがハクらしいけど…
「一応止めはしたんだがな… そのあとは「千は何処だ!」ときかなくてなぁ……… そんなワケで後は頼んだ!!」
そう言い残すと、青蛙はぴょーんと跳んでいってしまった。
…後は頼んだって…… んな無責任な……
「……千です。失礼します」 まだ不機嫌なのかなぁ…… 千尋が襖をちょっとだけ開けて中を覗くと、中から勢い良く、蛙たちが飛び出てきた。 そしてそのまま、襖に隠れる千尋の脇をすり抜け、脱兎のごとく逃げていく。
………いったい何があったんだろう……
誰も出てこなくなったのを確認して、千尋はちゃんと襖を開けた。 まず目に入ったのは、おびただしい数の酒瓶、酒瓶、酒樽、酒樽…… そして部屋の奥に目をやると、壁に凭れるように、一人座っているハクの姿。 「千尋」 ハクは入り口にいる千尋を見つけ、手を指しだす。 彼の顔色はいつもと変わらない。 この部屋を見なかったら、お酒を呑んでいたとは思えないくらいで。 「早くこちらへ。 もう待ちくたびれたよ」 いつも通りの口調。
千尋は、どうやらもう怒ってなさそうだなと安心する。 差し出された手に導かれるようにハクに近づき、目の前にちょこんと座る。 「ハク」 名前を呼ぶと、彼は嬉しそうに微笑み、彼女の腕を捕まえて自身に向かって強く引いた。 バランスを崩した千尋は、そのままハクの胸に倒れこむ形になる。 そんな彼女を押さえつけるようにして、ハクはくすくすと笑っている。 「ハク!?ハクってば!!」
怒ってはいなさそうだけれど…… 酔っ払ってる……? ハクお酒強いのに… ――――――…って、これだけ呑んで酔ってなかったら、 それはそれで嫌だけど―――……
顔にかかる、彼の息の酒気に眉をしかめるが、そんなことはハクには関係なくて。 顎をとられおもむろにキスされる。 いつもだったら冷たく感じるハクの舌が、今夜はお酒のせいか―――熱い。 「やっ…んんっ……! お酒くさいっ!」 千尋は腕を突っ張って唇を離すが、そんなのは束の間のコト。 「千尋…」 甘く囁かれ、今度は後頭部に手が回る。 …顔をそむけることができないように。
深く唇を重ねられ、舌を弄ばれる。 だんだん溢れてくる唾液を送り込まれ、千尋はこくんと咽喉を鳴らす。
自分と人の唾の味が違うなんて… こんなキスを知るまで考えもしなかったのに―――。
そんなことを考えているうちに、ハクの手がどんどん服の中に侵入してくる。 「暑いだろう?脱いでしまうといい」 それは酔っ払ってるハクだけです!! 「だ、だめだってば!酔っ払ってるでしょーーーー!!」 「酔ってなどいない」 千尋は、水干の裾をたくし上げられないように、ぎゅっと下に引っ張る。 ―――その可愛らしい抵抗が、余計自分を煽るということを判っているのだろうか? ハクは少しだけ体を離し、机にあった水差しを手にすると、ためらいもせずに千尋に向かって中身をぶちまける。 「―――…え?」 あまりの出来事に千尋はボーゼン。 胸から何からずぶ濡れなワケで。
「ほら、脱ぐ理由ができた」
悪びれもせずに、ハクはくすくすと笑う。 「やっぱり酔っ払ってるーーーー!!!」 そんなこんなであっという間に水干を剥かれてしまい、腰の紐もはずされてしまう。 「ちょっ、ちょとタイムっ…」 そのまま敷きっぱなしの布団に押し倒され、ハクが覆い被さってくる。
千尋はといえば。 濡れた小袖と濡れた腹かけ。 重力の力も遭い重なって、服は体に貼り付き、胸のラインを忠実に出してしまっていた。 そしてさっきのキスで堅くなっている胸の先端もはっきり写ってしまって。
「千尋……」 布の上から胸を弄りながら口付けられる。 「ん……んんっ……」
――――諦めるしかないよね、きっと……(涙)
首筋に移るハクの唇を感じながら、千尋は彼の胸を押し返していた手の力を抜いた。 そのままハクの体の重みを受け止める。
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けれど、なぜかぴたりと止まってしまった彼の手。 不思議に思って上半身を起こすと、やっぱり。
「寝てる……」 体をずらしても、目を覚ます気配はなさそうだ。 「――――――…やっぱり酔ってたんじゃない…」 正気な彼だったら、コンナ状況を逃すことはしないだろうし。
せっかく諦めかけてたのに…と、ちょっとだけフクザツな千尋は、小さなイタズラを思いついた。
朝起きたら被害者ヅラをするのだ。 ハクの顔を見るなり、いきなり泣き出したら驚くだろうか? いつもわたしばっかりドキドキさせられてるんだもの。 きっとそのくらいしてもバチは当たらない。
とりあえず、濡れた千尋に覆い被さったせいで、濡れてしまった水干だけ脱がせて。 ハクに掛け布団をかけてやる。 それから。 自分も濡れた小袖と腹かけを脱いで、布団にもぐりこんだ。
しかし千尋は気付いていなかった。 結局ハクはイタシテいないというコトと… ソンナ姿の彼女が隣でナニもないわけがないというコトを。
そして朝、予想を裏切らない結果に終わったのは いわずもがなというコトで。
4000を踏まれたぽこさんに捧げさせていただきます。 |