あなたのいるScene

 

 

 

 

 うん!よく晴れてる!

 窓から見えるのは、澄み渡るような青空。

 今日は絶好のお出かけ日和。

 

 朝早く、千尋は今日のために『こっち』へ持ってきたバスケットを持って、軽い足取り。

 ハクが待っているだろう橋へと急ぐ。

 

 ハク、どこに連れて行ってくれるんだろう…

 仕事前に出かけようって、一昨日の夜約束してから、ずっと楽しみだった。

 昨日もよく眠れないくらい。

 でも、なぜか気分はすごくいい。

 

 まだ皆寝静まっている湯屋の中。彼女の足音だけが響いていく。

 外に出てハクを探すが、彼の姿は見当たらなかった。

 

 まだかな…?

 

 あたりをきょろきょろしていると、植え込みの方から声をかけられる。

「千尋」

「ハク!……いつから来てたの…?」

「ついさっきだよ。

 朝早かったけど大丈夫かい?」

「うん。」

 

 ハクは「行こう」と、自分の腕を彼女の前に差し出した。

 千尋は最初、その腕の意図をつかめなかったが…。

 にこにこする彼を見て、ふと思い当たる。

 

 ―――――…これはやっぱり、掴まれってコトよね…

 

 ハクを見ると、やはり彼女を待っているようで。

 千尋はギクシャクと、バスケットを持っていないほうの手で、ハクの腕につかまった。

 そしてハクはそのまま歩き出す。

 

「どこに行くの?」

「行けばわかるよ」

「どのくらいで着く?」

「ちょっと歩くから…辛くなったら言うんだよ」

「ん」

 

 畑や軒並み。湖のような池や花畑。

 さまざまな景色を風と共に通っていく。

 

「わたし、こんな遠くに来たの初めて!」

 千尋は初めて見る景色に心を躍らせる。

 不思議な色合い。不思議な組み合わせ。

 油屋にいた時は、見ることのできない風景。

「そうかい?銭婆の処へ行ったではないか」

「んー…でもアレは電車だったし…

 帰りは飛んで帰ってきたから…自分で歩くのは初めて」

 

 朝の清清しさも適わないくらい、爽やかに千尋は笑う。

 そんな彼女を見て、ハクは自分の腕に絡まっている彼女の手を取って。

 指を絡めるように手を繋ぎ直した。

 

 ハクは繋いだ手を強く握ったり。

 指を動かしたり。

 指と指で彼女の柔らかな指をはさんだり。

 

 そうしていると、千尋の気持ちがわかるような気がして。

 自分の気持ちが伝わるような気がして。

 

 急に黙ってしまった彼女を見ると、顔を赤くして俯いていた。

 

 だって。

 自分より大きな手が、指が動くたび。

 ―――――…まるであの時に繋がれた手のようで。

 そう一度思っってしまったら、もう止まらなくって…

 

 

 しばらく千尋が景色も見ずに歩いていると、強風が彼女の体を凪いだ。

「きゃっ」

 そして顔を上げ前を見ると…

「すっごーい…」

 

 視界いっぱいに広がる緑。

 どこまでも続いている草原。

 きっと、あれが初めて見る地平線。

 

「雨が降るとね、海になるところなんだ。

 海ができたあとはしばらく土くれたってしまうのだけれど、

 このところ、雨が少なかったからね。

 気持ち良いだろう?」

「うん!すごいすごい!!」

 

 千尋はハクから手を離し、両手を広げて真中へ向かって走っていく。

「ハクー!早くーーーーー!!」

 途中で振り返ってハクを呼ぶ。

 嬉しそうな彼女を見て、やはり連れて来て正解だったと、ハクも嬉しくなっていく。

 

 一通り走り回って、千尋はぽすんと草の上に座った。

 その後を追って、ハクも千尋の脇に腰を下ろす。

 

「ハク!おべんとにしよ!」

 そう言って千尋は、バスケットを自分に引き寄せた。

「何を作ってくれたんだい?」

「えっとね…」

 いざとなると、千尋はちょっとだけ恥ずかしくなって、ハクから目を逸らす。

 

「ホントは何にしようかすっごく悩んだんだけれど…

 ……ハクって言ったら、やっぱり初めてわたしにくれた、おにぎりが浮かんじゃって…。

 今度はわたしが作ったのを食べて欲しかったから、おにぎりだけなんだけど…」

 

 そこまで言ってしまうと、やはり色々なものを作った方がよかったかなぁと不安になる。

 ―――まして、自分から作ると言っておにぎりだけって、やっぱりカッコ悪いよね…

 

 決して手抜きでおにぎりだけじゃないと。

 ハクは判ってくれるだろうか?

「でもね!手抜きでおにぎりだけってつもりじゃないの!!

 中身は色々がんばったんだけどっ…」

 千尋は、返事のないハクに必死で弁解するが、ハクが黙っていたのは、そんなコトを考えていたからではなくて。

「嬉しいよ。覚えていてくれたんだね。

 ―――――千尋が私のために握ってくれたんだろう?それだけで十分だよ」

「ハク……」

 そしてやっと千尋はハクの顔を見る。

「うん、もうわたし、おにぎり見るとハクしか思いつかないもの」

 彼女は意図して言っているわけではないと判っていても。

 ソンナコトを言われてしまったら。

 

 彼女の中で、この世の全てのキーワードと、自分がつながっていけばいい。

 何かを思うたび、考えるたび。

 その想いが自分に辿りついたらいい。

 そう、まるで今の自分のように――――…。

 

 

「きゃーーーーーーー!!」

 いきなり響く彼女の悲鳴。

 びっくりしてハクが千尋を見ると、今度はどうも落ち込んでいるようだった。

「……どうしよう…」

「どうしたんだい?」

 千尋が覗いている籠を、ハクも近づいて覗いてみる…

 と。

 籠の中は空っぽで。

「忘れてきちゃった……」

 半べそをかきながら、千尋はハクにごめんねを繰り返した。

「気にしなくていいよ。……少し残念だけれど…」

「折角作ったのに…ホントに作ったの!

 ハクに食べてもらおうと思って……」

 千尋はぐすんと鼻をならす。

 

 そんな仕草一つにも、胸がいっぱいになってしまう。

 

 ――――――大丈夫。此処には誰も来ない。

 

 辺りの気配を探してから、ハクは千尋を草の上に横たえた。

 そして彼女の涙を唇ですくう。

「…ハクっ…」

「黙って…」

 

 草の匂いを感じながらキスを受ける。

 そして少しだけ目を開けると、そこには澄み渡った青空。

 体中で感じる柔らかな光。

 

「だめっ…ハク!!誰か来たらっ…」

「誰も来ないよ」

「まだ明るいしっ…」

「千尋がよく見える」

「―――っ…んっ…」

「―――…この景色を思い出すたび、私を思い出して欲しい。

 青空に、草原に、風に、光に――――――……」

 

 

 自分の心の中の、頭の中の。

 ハクがどんどん大きくなっていく。

 今でもいっぱいいっぱいなのに、もっと大きくなっていったらどうなってしまうんだろう…?

 

 もう、わたしの中はハクだらけだよ…

 

 その言葉は、言葉になることはなく、ハクの唇に消えていって。

 

 

 二人はそのまま緑の海に身を沈めていった―――――…

 

 

 

 

 

 

 

8000を踏まれたアイリコクリスさんに捧げさせていただきます。
「ピクニック」というリクエストでした。
……ピクニックって言うよりはハイキング…
相変わらずリクエストが守れてなくてすみません…
そして。
爽やかにアオカン(死)
最近のネタがヤバくなってきたとのご指摘を受けたので、
爽やかを目指したのですが…やはり諦めた方が良さそうです。自分。
最初はギャグのはずだったのですが…
やはりなんだか、自分の思うように話が進みませんでした…くうぅ