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今年最初の声
「ん〜〜〜、幸せ☆」
半分無理言って譲ってもらったコタツに入りながら、千尋はいそいそとミカンを剥いている。 『絶対コタツで寝ない』と約束させられ、やっと今年部屋に持ちこむ許可が下りた。 広間のほうは、もう床自体に暖房が入っていたので、前の家で使っていたコタツは何年か物置に突っ込まれていたのだ。 「やっぱりコタツにはミカンよね」 剥き終わったミカンを真ン中から二つに割って、「はい」と向かいに座っているハクに差し出す。 「ありがとう」 そう言って。ハクはミカンを受け取ったが、やっぱり嬉しそうに食べている彼女を見るほうが楽しくて、ミカンには手をつけなかった。
今日は年の瀬。 もうあと数時間で、除夜の鐘が鳴り出す31日。 千尋の家は、二年参りをするような家じゃなかったし。 除夜の鐘と共に「あけましておめでとう」を言うような習慣もなかったので、こうして部屋に入りっぱなしでも何も言われない。 ―――それでも。 こんな時間の娘の部屋に、男がいたら今日でなくても、タダではすまないことは確実だが。
「まさか、ハクと一緒に新年を迎えられると思わなかったな〜」 さっき、窓から急に来た来訪者にはびっくりしたけど。 そのびっくりも、どちらかというと嬉しくてびっくりしたわけで。
そう。幸せだなって思う。 ぽかぽかあったかいコタツがあって。 定番のミカンもあって。 何より、目の前には好きな人がいる。 やっぱり、年の初めに話す人は好きな人がいい。
「あ、ごめんっ」 もそもそと、コタツの中で足を直した勢いで、千尋は向かいにあるハクの足を蹴飛ばしてしまった。 「平気」 慌てる千尋を見て、ハクはくすくすと笑う。 そんな時。 千尋はちょっとだけイタズラな気持ちに駆られる。 今度は偶然でなく、ハクの足をそっと蹴った。 「千尋?」 不思議がって千尋を見ると、千尋は楽しそうにハクの足を自分の足でつついてくる。 彼女がわざとやっていることに気づいて、ハクも足で応戦する。
しばらくそんな風に戯れた後。 ハクは少し身を乗り出して、コタツの上に乗せてる千尋の腕を掴んだ。 「え…」 何?と問い掛ける前にキスされる。 もちろん、足では千尋の足をつついたりしながら。 「ん…んんっ…」 キスが深くなったと同時に、ハクの足がそっと、無防備だった千尋の中心をそっと触った。
ハク!
やめてもらおうと名前を呼ぶが、唇さえ離してもらえなくて。 キスをされたままなので、体を離すこともできなくて。 まだ温まりきっていない足がパジャマ越しに太腿に触れ、その温度差に背筋がぞくっとする。 そんな彼女の仕草に、ハクがくすりと笑ったのが、唇越しに感じられる。
「ハク!ダメっ……除夜の鐘聞くんだから!」 がんばって唇を外し、千尋はハクに訴えかけた。 「大丈夫だよ、千尋は清いから。百八の鐘など聞かなくても……」 「そ、それに新年になった瞬間に、ハクに「あけましておめでとう」って言いたいし…」 0:00まであと一時間ちょっと。 今からしちゃったら……微妙な時間。
――…もうなにも考えられないか。 ――…そんな余裕がないか。 ――…下手したら意識すらなさそう……(涙)
「……年明けを千尋の声で過ごすってのも惹かれたんだけどね…」 ハクはそう言ってコタツから出て。 千尋の後ろに回りこむと、背後に腰をおろし、ぎゅっと彼女を抱きしめた。 「日が変わるまで、こうしているのはいいかい?」 「う、うん…」 耳元で囁かれ、千尋はくすぐったさに体をすくめた。
「今年は…いろいろあったね」 ハクは千尋の手をいじりながら、まるで昔のことを思い出すように、しみじみと言った。 「うん…でも、こうしてハクと過ごせたから…楽しかったよ。 ―――来年も、その次の年も、一緒がいいなぁ」 「そんな『年』に関係なく、ずっと共に……」 千尋が嫌だと言うまで――――――。 ハクの科白に、千尋ははにかむ。
わたしがそんなコト。 言うわけないから。
なら――――――。
いつまでもこのままが続くってことで。
ずっと、こうしていてね。 そっと、ハクの手を握りかえす。
ボーーーーーン…
遠くで鐘の音が聞こえはじめる。 千尋はハクの腕からするりと抜けて、向かい合うように正座した。 「あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします」 パジャマで三つ指。 その可愛らしい姿に、ハクはちょっとだけ笑いを漏らす。 「こちらこそ。今年もよろしくお願いします」 「な、なんでハク笑ってるの!?」 「寝巻き姿で可愛いなと思って」 まさか。そんな答えが返ってくるとは思ってなかったから、千尋は顔を赤くして言い訳をした。 「だって!あんな時間にハクが来るなんて思わないもの!」 「そうだね…。 さ、年も明けたことだし、本来の目的に移ってもいいかな?」 「本来の目的…?」
ハクは年越しを自分と過ごそうと、わざわざ来てくれたと思ってたけど… もしかして…!
ひょいとベッドに乗せられて、そのまま止める間もなく、パジャマのボタンが外されていく。 「夜這い」 ―――ああ、やっぱり…… さらりと言われて、千尋は更に顔を赤くする。
「姫始めってのもいいかもね」 「姫はじめ…?」 「新年に初めての契りを交わすこと」 「……っ!!」
千尋は真っ赤になりながら、ハクの服を掴んでちょっとだけ違うことを考える。
一年の計は元旦にあり――――――って言うけど。 やっぱり元旦を好きな人と仲良く過ごしたら。 今年一年、好きな人と一緒にいられるのかなぁ… いられるといいなぁ… (用法違います)
「千尋……」 でも。やっぱり新年、始めに聞くのは好きな人の声がいい。
「もっと…名前呼んで…?」 「いくらでも」
今年も、去年ぐらい幸せですように。 去年よりも幸せですように。
そんな思いを込めて。 今年最初の口付けは、千尋からのキスだった―――。
ほんとに励ましのお言葉ありがとうございました。 |