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背で感じる想い
久方ぶりに夢を見た。 細かい内容をはっきりと覚えているわけではないが、あまりに衝撃的で。
――――私ではない誰かが千尋の隣にいた。
その事実、その衝撃だけが夢から覚めた今もリアルに体に焼き付いている。 実際、ありえないこととは言えない。 まだ千尋と再会して、数えるほどしか歳を重ねていない。
確かなものなんてありえないということを。
自分は――――――痛いほど知っているはずなのに。
「ん……」 あれ……? 千尋はふと、目がさめてしまったのか、うっすらと目を開ける。 しかし視界は暗く、まだ朝ではないとはっきりしない頭で理解した。
……今、何時だろう…?
ごろっとベッドから落ちないように寝返りを打って、ふと時計を見ようとした瞬間。 一瞬で思考がクリアになる。
「は、ハク!!?」
だって、時計を見ようとしただけのはずなのに。 なんでハクが椅子に座ってるの!? ―――ってより! なんでこんな時間にハクが部屋にいるのっ!
「ああ、起してしまった?ごめんね」 微妙に窓から差し込んでくる月明かりで、ハクが笑った…感じがした。 千尋は、ばくばくした心臓を落ち着けるように大きく息を吸って、体を起してベッドに座ったけれど。 「な、なな…」 千尋は軽いパニックに陥ってしまう。
なんでハクが私の部屋に…っていうか、いつ来たんだろう? それより…わたしイビキかいてなかったよね? 確か…布団は蹴飛ばしてなかったはず……確か。 よだれとか……大丈夫だよね!?
確かめようと手の甲で口に触れようとした瞬間、ハクが笑い出した。 「大丈夫だよ。普通に寝てたから」 何を心配していたのか、一発でバレてしまい、千尋は更にうろたえてしまう。
それでも。 ちょっとだけ落ち着いてくるとやっぱり気になることが。
「何か急用でもあったの?」 そう問い掛けてみたが、相変わらずハクは微笑んでいるだけで。 「……ハク?」
「ごめんね。本当に何でもないんだ。ただ、千尋の顔が急に見たくなって。 本当は起さずに帰るつもりだったんだけれど、なかなかココから離れられなくて」
さらりと言われたが、実はかなりの殺し文句なのではないだろうか?
「そっちに行ってもイイ?」 いつもだったら、何も言わずにもぐりこんでくるハクが、わざわざ確認をしてくる。 「いいけど……どうかしたの?ハク…」
ギシ…
ベッドのスプリングがきしむ音がして、ハクは千尋の隣に腰掛けた。 「千尋に会いたくなっただけだよ」 そう言ってハクは千尋の胸に顔を埋めるように抱きついた。 「ハ、ハク!?」 ただ、胸に当てられた顔はピクリとも動かなければ、腰に回された手も動こうとしなくて。 やっぱりどこか違うって思う。 「ねぇ―――ハク??」
ちょっとだけ心配になって名前を呼ぶと、ハクはちょっとだけ顔を上げた。 そして行き場を探していた千尋の両手を自分の背中に回させる。 「こうしていて」 両の手が自分の背中に回ったコトを確認すると、ハクは再びさっきと同じように抱きついた。 「こ、こう―――?」
どきどき どきどき
千尋は、少しだけ背中に回した手に力を入れてみる。 よくよく考えると、こうして素の状態でハクの背中に腕を回すことって、あんまりなかったかも…と思う。 抱きしめられることは良くあっても、自分から抱きしめることって…… ―――ほとんどなかったかも。 でもこんなに胸に近いところに耳があったら、きっとばっくんばっくんいってるのも丸ぎこえなんだろうな…と少し離れようと、身をよじると、
「もっと……強く……力を入れて?」
そんなコトを言われてしまった。
ぎゅっと、自分の背中に回った手に力が入るのを感じる。 千尋からこうして腕を回してくることは少ない。 大抵服を掴まれるか、腕を掴まれるか。 たまに立っていられなくしてしまうと、首に腕が回ってくる程度で。
抱きしめている時は、千尋は自分のものだという思いが出てくるが、こうして背中の手を感じていると、自分は千尋のものなんだと確信できる。
「ハク…ハク? やっぱり変だよ……?何があったの?」
だって。 絶対変だよ。普段ハクはこんなに甘えてこない。 いつもわたしを甘やかしてばっかりで、自分の弱味なんて見せてこないのに。
「何でもないよ」 何でもない。 ただ、勝手に自分が見た夢に不安になっただけ。
身じろぎ一つせずに、さらりと返事が返ってくる。 もっとぎゅっとして… そう言ってくるハクが…………不覚にも可愛いと思ってしまう。 ハクにソンナコト言ったら、多分嫌がると思うけど。
「……わかった…」
頭の上から降ってくる声が心地いい。 自分を抱きしめる力が心地いい。 此処が自分の居場所だと、暗に印しているみたいで。
「……たとえ千尋が私のものではなくなったとしても、 私は千尋のものだから」 覚えておいて? 軽いキス。 吸い込まれそうな瞳に、やっぱりドキドキする。
「……ハク、そ、ソンナコト気にしてたの? そんなこと、ハクがどっかに行っちゃわない限りありえないのに… ううん。 たとえハクがいなくなったとしても、多分もう、誰のものにもなれないよ」
これは本当。 仲のいい夫婦のどちらかが死んでしまうと、後を追うように…ってのは正しいと思う。 『自分の分まで生きて』なんて。 できるほど自分はきっと強くない。 言われたって守れるもんじゃないとも思うから。
「本当に?では私のことは責任とってくれるんだね?」 その言い方に、さっきまで心配だったこともだいぶ薄れ、思わず笑ってしまう。 「それって逆じゃなくて?」 普通、『責任』ってオンナのコがオトコのコに取ってもらうものじゃなかったっけ? 「そう。だって私は千尋のものだから」
やっぱり今日のハクはなんか変だ。 それがイヤだとかそんなんじゃなくて。 いつものカッコイイハクも大好きだけど、こんな風なハクも…… ……かなり好きかも……
「うん、責任取るね。 ―――だから……」
――たまには今日みたいに甘えてね。
その言葉に応えるように、ハクはより一層強く千尋に抱きついた。
遅くなってしまい、既に忘れられてそうですが… |