悋気

 

 

 

 

「あ、ごめん…リンさんと約束しちゃったんだ」

 そう言って千尋は、本当にすまなそうにハクに頭を下げる。

 どうしよう…と困った顔をして、ハクを見上げてくるのだ。

 そんな顔で困られたら、ハクは、自分が引かなくてはこっちが悪いような気がしてしまう。

 確信犯なんじゃないか…と思わなくもないが、そんな器用なことをできる彼女でもない。

 

 でもって。

「気にしなくていいよ。今度は私を優先しておくれ?」

 ついついそう言ってしまうのだ。

 

 許してもらったことで気が緩んだのか、千尋は「ありがとう」とこれ以上ないくらいの笑顔を見せる。

 その顔を見れただけで、その時は満足してしまう。

 その時だけは。

 

 

 最近、こんなことが良くあった。

 ハクは、千尋が自分との約束を違える状況を思い返してみる。

 

  「ごめんね、リンさんに頼まれたんだ」

  「リンさんがね、すっごく困ってるの…ほっとけないから…」

  「あ、もうリンさんに教えてもらったよ」

 

 ――――――――。

 共通するのは「リン」というフレーズ。

 

 千尋がリンを慕っているのは、もちろん知っている。

 初めてこの世界に彼女が迷い込んだ時から、千尋にとってリンは姉代わりだったし、母親の代わりになっていたのだから。

 しかし、彼女を邪険にしなかったリンに、素直に感謝できない自分がいる。

 リンは女だ。判ってはいても。

 千尋が自分より優先する相手がいる、そう思うだけでどうもすっきりしない。

 

 

 そんなある日。

 

 仕事後に千尋を誘ったハクだが、他の湯女たちと約束があると、やはり最強の笑顔で断られた夜のこと。

 確かに他の湯女との交流も必要だろう…と、ハクは思っていた。

 でもそれは、とりあえずこの段階。

 

 

 でもって in 女だらけの寝所。

 

 千尋はリンと共に、湯女のおねーサマたちの遊戯に参加していた。

 同じ部屋で騒がれる場合。

 

 選択肢 1

   疲れてて、うるささも気にならないぐらい眠ければ寝る。

 選択肢 2

   そうでなかったら混ざる。

   

 くらいしか選択肢はなかったりするわけで。

 

 千尋も遊戯に混ざるのは好きだった。

 オンナノコ同士の遊びは、ハクと一緒にいるのとはまた違って、純粋に楽しかった。

 きっと気を使う度が低いせいもあるんだろうな…と思う。

 

「じゃーね、次は五番と十三番が接吻するってのでいくよっ」

 当たりの札が向いた先にいたおねーサマの一言。

「っ!!女同士じゃねーか!」

 これはリン。

「何言ってんだい。相手がオトコだったら、罰ゲームにならないだろう?」

「ははは、そりゃそうだ」

 これは別の白拍子のおねーサマ。

 

 今日の遊戯は千尋的に言うと、変則版王様ゲーム。

 まずは全員で円形になる。

 前回罰ゲームをした人が札を軽く投げて、印しのついたほうの先にいた人が、何をするのか決める権利が与えられて。

 何をするのか決めてから、全員が番号の書いてある札を引く。

 ―――失敗すると、決めた本人が罰ゲーム…ということもありえるのが怖いところだ。

 でも、それを怖がってつまらない罰ゲームにしようものなら、周りからのブーイングが待っている。

 

 番号が判ってて、罰ゲームを待つのと。

 罰ゲームがわかってて、番号を引くの……

 どっちが心臓に悪いんだろう…?

 そんなコトを考えながら千尋は札を一つ手にする。

 う〜〜〜…やっぱり、この瞬間ってなれないよね…。

 どきどきしながら札を見ると―――。

 

 ビンゴ☆

 (ここで当てとかないと、話続かないんで。笑)

 

 

 ば、罰ゲームって確か……。

 ―――――――――……

 接吻=キス。

 

 は、ハク以外とキスなんかしたことないのに〜〜〜っ

 

「――― 一人は千みたいだね。あと…」

 一人、赤くなったり青くなったりしていたせいで、千尋はバレバレ。

 ってことは。

 ここでみんな気になるのは、残る一人が誰かということで。

 

「あーーー…オレ」

 

 リンがやる気なさそうに、札を皆に見せる。

「仲良いね、相変わらず」

 きゃはははっと、おねーサマたちは一斉に笑い出す。

「笑うな!」

 笑うなっていったってねぇ…?と言う声がちらちら聞こえた。

 そんな周りを気にしている間に、隣にいたリンに肩を掴まれる。

 

「リンさん…ホントにするの…?」

「ま、ココでしなかったらしらけちまうからな。

 罰ゲームだ。諦めろって」

「う〜〜〜〜…」

「吐くほどイヤってワケでもねぇだろ?」

 

 確かに。―――すっごいイヤなワケじゃない。

 今まで同じ箸使ったコトだって、一度や二度じゃないし…

 ゲームだし…

 場の雰囲気も大事だし…

 しょうがないよね?

 

 

 

 で、場所は戻って in ハクの部屋。

 

 ハクは式を使って、今夜最後の見回りをしていた。

 従業員の管理もハクの仕事の一つ。

 酒盛りなどで遅くなりすぎ、次の日使いものにならなくなったりするのを避けるためである。

 ハクの放った式が、千尋たちのいる部屋の前にたどり着く。

 まだ、部屋の灯りがついているところを見ると、時間も忘れ遊んでいるのだろう。

 

 ―――そろそろ頃合か。

 

 既に刻は、これ以上遅くなってしまったら、明日の業務に支障が起こりかねない時間。

 ハクは式を部屋の方に移動させる。

 そこでハクが式越しに観たものは……。

 

 目を閉じて、リンに唇を許している千尋の姿。

 しかも抵抗している気配もない。

 

 一瞬、何が起きたのか判らなかった。

 あまりのことに、周りに二人を冷やかしているおねーサマたちもいるなんて、目に入るワケもなくて。

 ハクは勢いよく部屋を出て、女部屋へと急いで向かいだした。

 

 まさか、そんなはずはないと思っていても、確かめずにはいられない。

 前に千尋がさりげなく言った台詞が頭をよぎる。

 

 「リンさんが女の人でよかったと思うの。

  だってオトコの人だったら、ハクとどっちが大事か悩んじゃってたかも知れないじゃない?」

 

 その台詞は、リンが女だから出た台詞だと思っていた。

 ありえないからこそ、出た台詞だと。

 けれど―――――。

 さっきの姿は見間違いなんかではなかった。

 角度的な問題で、『実は目に入ったゴミ取ってたの』なーんて可愛らしいものでもなく。

 真横から見てしまったのだ、間違い様がない。

 そんなコトを考えながら、問題の部屋にたどり着く。

 

 バン!

 

 三寸ほどしかあいてなかった入り口を、勢いよく開け放った。

 

「いつまで騒いでいる。

 明日の営業に支障が出る。早く就寝の支度をしろ」

 実はまた別の罰ゲームで、ストリップをしているおねーサマがいたりもしていたが、もちろんハクには関係なくて。

 ばたばたと恐れをなして散っていく湯女たちを他所に、ハクは千尋の腕を取り部屋から連れ出してしまう。

「きゃっ……は、ハク??」

 なんで自分が連れ出されなきゃいけないのか。

 理由が全然見当たらない千尋は、ハクに問い掛けるのを止めない。

「ね、ねぇ、どうしたの??」

 それでも、ハクは一向に口を開かず、とうとうハクの部屋までたどり着いてしまう。

 

 

「ハク??」

「―――先ほど、何をしていた?」

 部屋に入ったとたん、ハクに顎をとられてのそんな一言。

「さっき……?おねーサマたちとゲームをしてたけど……」

「私に言うようなことは?」

 なんかあったっけ?と千尋は小さく首をかしげる。

 そんな彼女の姿は、決して演技をしている風ではなかったが――――――……

 はっきりさせねば、胸の痞えは取れない。

 

「リンに唇を許していただろう?」

 あ!

 千尋はやっと納得がいく。

 つまり、さっきのことを見られていたわけで。

 ―――まずい。

 

「あ、アレはね……」

「リンのことが好きなのか?」

 自分から訊いておきながら、ハクは答えを待たずに更に続ける。

 …そんなコトはありえないと思いつつも。

「―――私よりも?」

 

 その、いつものハクと違っていることに千尋はやっと気付く。

 なんでハクがこんなに焦ってるのかとか。

 ちょっとだけ理由が見えた気がしたけど、違ってたら恥ずかしいし……。

 

 でも、その理由を知りたい。

 

「―――――ハク、やきもち妬いてくれてるの?」

 

 一瞬の間。

 千尋は、やっぱり違ったのかな…と、少しだけ後悔しはじめる。

 けれどもハクは―――。

「悋気?しないとでも思ったのかい?

 あんなふうに、私以外から口付けを受けているそなたを見て――――――」

 悋気程度で済むとでも?そう言ったハクの顔は、ふざけているものではなくて。

 ハクには悪いが、ついつい顔がほころんでしまう。

 

「リンさん、女だよ?」

「そんなものは関係ない」

 

 男だろうが女だろうが。

 自分以外の誰かが、自分と同じように千尋を扱う。

 考えただけでも、苛立たしい。

 

「さっきのはね…罰ゲームだったんだってば……」

 千尋は「ごめんね」とハクの腕に抱きついた。

「わたしが、その……そーいうイミで好きなのは、ハクだけなのに……」

 恥ずかしいから、顔を隠しながらそう言うと、ハクの手が首筋に当てられる。

 

「―――証明してくれる?」

 顔を持ち上げられ、覗き込まれ……

 

「うん……」

 

 そう言って、ハクの頬を両手で覆って軽くキス。

 

「―――…わ、わたしがコンナコトするのも…ハクだけなんだから……」

 ちょっとだけハクを睨むと、ハクはまだむすっとしていて。

「『同じ』で満足すると思ってた?」

「う"……」

 ハクはそっと彼女の唇をなぞりながら、先を促す。

 でも―――…その瞳は既に笑っている。

 

「ハ、ハクにだけだからね!?」

 コンナコトするのも。コンナコト言うのも。

 だから、今日は信じてよ―――?

 

「今日はと言うけれど…

 次あったらどうなるか判ってるのかい?」

 

 それでも――――――。

 こうやってヤキモチやかれるのも、悪くないかも…なんて。

 ハクの気持ちを疑うわけじゃないけど。

 ちょっとだけ、嬉しいって思っちゃったりしたワケで。

 

 

 そんなコト、もちろんハクには言えないから。

 喜んじゃってる顔も、ハクには見せられないから。

 

 顔を隠すようにして。

 千尋は、ぎゅっとハクに抱きついた。

 

 

 

 

 

リンクお礼で如月六さんに捧げさせていただきます。
「千尋に押され気味なハク様」というリクでした。
イミ履き違えてます。押され気味ってより、振り回されてるって言うか…
なんで相手がリンなのかとか…(それは私が楽しかったから(涙))
スミマセン!でもこんなのでも10日かかってたりするんです(死)
下手すると、一日に一行も進まない日とか…
会社でやっぱりちまちま書いてました。
許してください!!!!!!