ケース4−3 駿壱の場合


 確かにいつもより本能に近い部分で行動していたのは認めよう。それでも結構セーブしてたつもりなんだがね。それに本気でこれからどうするか考えていた思考がその一言でぶっつり切れた。
 きっとこんな自分は華菜と二人きりの時しか出てこないだろう。それをまぁ、言ってくれるもんだね。
 曲がりなりにも五年と十一ヶ月も年上の男に向かって、俺よりずっといろいろ知ってる顔をして、艶然と笑って。
「駿兄、いつもと違うもん。なんかかわいい感じ」
 年に関係なく、その表現は男にとってよっぽど特殊でない限り、嬉しい誉め言葉とは言えない。女の子が好んで使う、かわいい、と言う単語。
 華菜もただ思った通り口にしただけだろうがそれは言ってはならない。カッコ悪いって言われるよりいろいろ傷つく。個人的に。
 膝枕の誘惑はとても強力だったけど、見下ろされてる状況がどうも華菜に力を与えているようなので、起きあがって押し倒して、どうしたものかと困り果てている華菜にまたキスをする。死ぬまでこうしててもいいけど、さすがにそれは無理なので、ヘンな言い方だけどキスが終わるより先に切り上げると、一瞬追うように華菜のからだが浮きあがって落ちる。
 目を開けて『しまった』と言うような顔。こういうのがかわいいと思うんだが、俺のどこがどう華菜にとってのかわいいの定義に当てはまるのか?
 手を取ると、素直にそのままなすがまま。
「今度いつこんな機会があるか分からないから、悔いのない様にしようかな」
 意識的に笑ってそう言うと華菜があからさまに焦った顔をする。ナニされると思ったんだろうかね。やっぱり期待に応えないといかんだろうか。
「え? なに?」
 軽いわけではないけれど、抱いて立てないほどではない。少し気合を入れれば本人にその意志がなくても簡単にそのまま抱き起こせる。
 抱いたまま、目指した先はもちろん自室。
 身長が百八十を越えた時にそれまで子供のころから使っていたベッドでは狭くて、頼み込んででかいのに変えてもらったのがまさかこんなところで役に立つとは。
 羽毛布団を反対側に蹴り飛ばしてから、ほいっとベッドに小さな体を落す。
「うぎゃ」
 意図してか無意識か、色気の一欠けらもない悲鳴を上げて自由になった手足をばたばたさせている。
「えっと、あの、んーと」
 暗くても分かる。ピンチのとき浮かべるごまかし笑いをしながら、なんとか逃げようと模索して目がきょろきょろとせわしなくいろんな所を見ている。
「なに?」
 笑顔対決。なにがいいたいのかわかってるけど。
「いや、そのー……あー」
 そのままベッドについているナイトボードが背中に当たるまで、なんとか距離を取ろうと逃げる華菜。
 両手をついて片足ベッドに進める。ぎしりと、軋むスプリング。
「あう……」
 わざとゆっくり近づく。本当に嫌なら逃げられるスペースをとりながら、ゆっくりと。
「華菜」
「はい?」
「これからナニしようとしてるか、わかるだろ?」
「なに……って……」
「逃げるなら、今のうちだぞ?」
「え?」
「華菜がホントに嫌なら、逃げたらいい華菜がここから出て行けば、俺は追わないから」
 我ながら卑怯な言い方。
 逃げていいと言われて、逃げるような華菜じゃない。それをわかっていて、逆に覚悟を決めさせる一言。
 半泣きの顔なのに、唇をかみ締めて、首を横に振る。
 手を伸ばすと、首をすくめ、ぎゅっと目を閉じて、何をされるのかと体をこわばらせる。
 小さい体をさらに小さくして、そのまま十秒。
 何もしないでじっと見ていると、何もされないことに戸惑いを隠せない様子で恐る恐る大きな瞳が開かれて行く。
「あれ? えっと」
 肩からも力が抜けて行くのが目に見えて分かる。極度に緊張していたのだろう真っ赤になって、照れたように笑って、ほっとした表情。
「え?」
 すばやく近づいて、本が積み上げられたナイトボードに手をつく。覆い被さるように。
 再び華菜が目を瞑る。さっきよりは幾分かおびえた様子が少ないのを見て、手探りでベッドに備え付けられているライトをつけると、目を閉じていてもわったのだろう、すぐに目を開けてきょろきょろと回りを見回す。
「もう何年も来てないから、変わっただろ?」
「え、うん」
 二階で一番広い十二畳の部屋を天井までの本棚が半分に仕切っている。本棚の向うは、木製の学習机はなくなり、スチール製になってパソコンが乗っている。床の上は勝手に増殖して行く小説や歴史書、雑誌が至るところで山を作って実のところ足の踏み場くらいしかない。
 壁に作りつけられた棚に飾っていたラジコンやミニカー、プラモデルもなくなって、代りに並ぶのは個性のない盾やトロフィー。
「でも、駿兄の匂いがする。それは、変わってないね」
「そうか?」
 笑って頷く顔にさっきまでのこわばった様子はもうない。
 額にかかる髪を払って額、まぶた、頬、そして唇にキスをする。
 触れるか触れないかの軽いキスを繰り返したあと開きかけた唇の間から、少し強引に舌を割り込ませても、華菜は拒否することもなく受け入れて行く。
 深く浅く。
 キスを繰り返しながら、耳から首、そして手のひらを胸に。
 服の上から包み込むように手が被さった瞬間、びくりとキスの反応が止まる。いつも身長差で華菜の顔が下になるせいで溜まった二人分の唾液を、嚥下する音が響く。
 それでもキスを続ける。ゆっくりと手を動かすと、柔らかさと固さが同居した薄いまだまだ未発達の胸が、やたらと劣情を誘う。県の青少年条例ってどうだったっけ? どっちにしてもハンザイっぽいなぁ。そう言うのも手伝って、たったこれだけでもうだめかもしれない。でもさすがにこれじゃいくらなんでもみっともない。
「ふ……は」
 唇を離す。オレンジ色の柔らかい光りの中で、繋がりを見せつけるように唾液が糸を引く。
「華菜」
「ん……ひゃっ!!」
 力づくで腰を引っ張って、端ギリギリまで逃げた体を寄せてなんとか体の下に組み敷く。抗議の声をあげようと開いた口を、また強引にふさいで、無理やり横になった時バンザイをするように残った両手首を左手で押さえ込む。
 華菜の太ももの当たりは、股の間にはさんで動きを封じる。腰よりももを押さえた方が、下半身の動きを効果的に封じることができる。
「うー」
 こうなると、自由になるのは頭だけ。必死に左右に振って、自由になろうともがく華菜。
「やぁっ だっ」
 泣き出しそうな顔。実際目じりに涙が溜まりだしている。
「なら、やめる?」
 それを空いた右手で掬い取って、なるべくやさしい口調で、尋ねると、本気で泣き出してぶんぶん首を横に振る。やめてほしいのか続けてほしいのか、どっちがどうなんだかもうどうにでもなってくれ。
 スウェットの上衣すそから手を入れると華菜がきゅっと目を閉じた。目じりに残っていた涙が、左右に流れ落ちる。
「ん……ん…………」
 頤(おとがい)がそりあがって、ほんのりと赤く染まった咽がさらされる。わき腹から上がっていくと、二本の浮きあがったあばらとはまた違う場所にたどりつく。ほとんど平らだが微妙に指に伝わる感触が変わる。
「んんっ」
 左の小さくて丸く起った中心に指先が触れると華菜が腰をひねってその刺激から逃れようとする。手のひらに、とても早い間隔で心音が響く。
「や、そ……んなとこ。ひぁッ!! い、あぅ……んぁ」
 軽くつまんでそっとひねると、びくりと華菜のからだがはねあがる。反応がおとなしくなるまで執拗に何度も繰り返して逆に移る。
「んんっん、は……くぅッ……」
 小さな唇が、かみ締められ、弛緩し、声と息をもらすのをしばらく眺めて、息をするたびに上下する咽に噛みつく。
「やだ。やめっ んふぁっ んんっ 私のなんか見たって、全然胸にお肉ついてないし、平らでかわいくないよぅ」
 服をたくし上げると、外気にさらされた肌が一瞬震えるのがわかる。
 なんとか服を戻そうと、体を頭のほうに向かってずらそうと華菜が動く。
 薄明かりの中に浮かぶ白い肌が胸の上のほうまで朱に染まって、細く、まだ女らしい肉付きのない胸が、小さな乳首を起てたまま、呼吸に上下する。
「なんで? かわいいよ。それに華菜はまだまだこれから大きくなって行くんだし、ゆっくり大人になればいいだろう? どんどん変わっていけるよ。胸、揉んだらでかくなるって言うけど、ためしてみる?」
「ほんと?」
 今の状況も忘れて、華菜の目がキラキラしている。確かにそれは永遠のテーマだけど、フツー考えて揉んだだけででかくなるもんでもないと思うんだが、口実は必要でしょう。
「だから、確かめたらいいだろう?」
 その状況を想像したのか、華菜の顔が、いや胸まで一気に真っ赤に染まった。
「だだだだだ、でも、えっと、確かめるってそれって……」
 しどろもどろの答え。だめだ、かわいすぎる。
 手を押さえていた左手を離し、両手で一気に首で丸まった服を抜き取る。
「ひゃう」
 手首に服が絡まってまたしても身動きが取れなくなり、華菜がさすがに着ることを諦めたのか自分で袖から服を引きぬこうともがいている。
 俺としてはこのままこうしていたいけれどさすがにこのままで置いておくと風邪をひきそうだ。ふとんを持ち上げて頭から被ってそのまま華菜の上に覆い被さる。せっかく服を脱いで手も自由になったのに、気付けばすぐそこに俺がいて華菜が固まる。
 キスをして、そのまま顎、首、鎖骨。そして肩。
 小さく声をあげながら、華菜が細い指を俺の髪に絡ませる。上体をキープしようとするとさすがに腕が一本必要で、左手を華菜の肩の下に入れて、ゆっくり胸を舐めまわす。甘いにおいと汗のにおいに、頭がくらくらする。
 無我夢中で、どのくらいそうしていたのか全然わからない。ふと華菜のようすがになって顔を上げる。
 片手を口元に当てて必死に声を殺している。そんなポーズどこで知ったんだ?
「華菜」
「ん……」
 口に当てられた手を持ち上げると、見下ろすように向けられる、潤んだ瞳。理性が一瞬どこかにいって、猛ダッシュで帰ってくる。あぶねーよかった、帰ってきて。
 頭にある手も持って、そのまま俺の背中に両手を回させる。
「声。誰もいないから、気持ち良かったら我慢しないで出して」
 閉じきれない唇を、指でなぞって、キスをする。右手を下へと滑らせて行くと同時にキスの位置も変えていく。最終的にたどり着くのは胸だけど。さすがに首に痕をつけるのはマズいけど、もうすでに服に隠れるだろう部分にはいつの間にってくらい赤くなった痕が散っている。
 やばいなぁ全然抑制効いてない。悲鳴みたいに時々上がる声と、力がこもったり、抜けたりする指先。全てがダイレクトに脳髄に響く。どんどんエスカレートしてるのが自分でわかっているのに、もう止まるわけにいかない。華菜の体を跨いでいたのを片方足の間に割り込ませる。
 贅肉のない腹部をなでてキスも下がって行く。
「やっだめっ!! ひぁんっ んん……」
 くぼんだへそとその回り、引き離そうと髪を引っ張る弱々しい力を無視してバカみたいに舐めまわす。
「い……あ……やめ。オナカ変になりそ……」
 切な気な訴えを聞くまでもなく確かに小さくくるくると腸が動く音が聞こえる。これはちょとかわいそうか。
「あッ う……」
 とどめにわき腹をくすぐると悲鳴に近い声をあげて浮いた腰の下に手を入れて一気にスウェットの下衣を引き下ろす。
「え? やだやだやだっ! やめて!!!」
 さすがにものすごい抵抗。無造作に首に回されていた腕がほどけて思い切り顔面に掌が入ってくる。グーじゃないだけマシだけど、これは結構痛い。手だけじゃなくて押さえてない方の足で蹴ってくる。じたばたと動きまわったせいで、ゆるめのスウェットは足首までめくれあがる。ただでさえ軽くてずり気味だった羽毛布団があっという間にベッドの脇に落ちて、薄いライトの下に華菜の全身がさらされる。
「いっやー!!!」
 自分で招いた危機的状況に、上気した顔をまた赤くして精一杯もがこうとする。もちろん全然力が入ってないし、本気で蹴られたとしても大してダメージないけどね。
 足首を掴んで、手首も押さえる。うわ、この体勢ダメかも。なんかすごく、自分のものにしてるって感じ。
 目を閉じて精一杯顔をそむけて耐えてる姿なんてかわいらしすぎて危険だ。
 かといって、この状態ではこちらも両手ふさがってて何もできないので、ゆっくりと放しながら手首を降ろす。ついでに足首で邪魔になるスウェットを片足完全に取り払う。
 自由になった手は当然胸をかばうように回される。
 そむけられた顔に、そっとかがみこんで。耳にかかった髪を払って、息がかかるくらいに近づく。
「……好きだよ」


ケース4−4 華菜の場合

ケース4−2 華菜の場合



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