ケース5−1 駿壱の場合


「……………ったく、あれだけ玄関で高笑いしといて、気づかれないと思ってたのか?」
 がりがりと頭をかきながら、ベッドから起き上がる。
「佐貴子さんって時々詰めが甘いよね」
 華菜も、ぱっちりと目を開けてくすくす楽しそうに笑っている。
 この部屋は玄関の真上にあり、大きなガラス一枚隔てて玄関ホールが吹き抜けになっているので、誰かが帰ってくれば音の反響ですぐにわかる。
 俺が起きるのとほぼ同時に華菜も目を覚ましたらしい。昨夜コトをすませて帰ってくれば、華菜は服も着ずにさっさと幸せそうな顔で寝ていた。服を着せるために起こすのもなんだし、抱いて寝る分にはそのままの方が個人的には喜ばしいのでもちろんついさっきまで華菜は何も着ていなかった。ので、急いでスウェット着せ「どうやってごまかすの?」という問いに「とりあえず笑って寝てろ」と言ってポジションを決めて、二人揃って寝たふりである。
「良かったね、上手く行って」
「そうだな」
 無邪気に微笑む華菜の頭をなでていると、階下でがたがたと音がして、父親達が帰って来たことがわかる。
「どうする? 起きる?」
 時計を見ると、まだ朝の五時を少し回っただけだ。
「いや。せっかくだからもう少し寝よう」
「うわっ」
 ひょいと華菜の体を抱きしめて、そのままベッドに倒れ込む。
「それともゆうべの続き、する?」
 絶句する華菜に軽いキス。すぐにからかわれたことに気付いた華菜がぶーっと頬をふくらませて足を蹴ったりして抗議してくる。
「はいはいごめんって。でもほんとに寝ないか?」
 布団の中でドサクサにまぎれて抱きしめて足の間にはさみ込む。
「うひゃっ」
「?」
「え、だって、なんか、本気でしたか? 今の……」
 言いづらそうに華菜が上目遣いで俺の顔を覗き込んでいる。
「あ、あー…いや、そうじゃなくてね、それは生理現象。そうだな、健全な男なら毎朝こうなるの。知らないだろうけど」
「……………そ、なの……?」
「そう。だから気にしないで」
 釈然としない表情だな。信じてないのか? これは無実だ、本気で。ちょっとそうかもしれないけど。
「もう一眠りして、母さんが居なくなってから起きよう」
 うるさそうだ。というか、しばらくうるさいだろう。いい訳はいくつか考えてるけどわが母ながら油断ならん人だからな。
「今度またいつこんなことできるか分からないしな」
「そうだね」
 笑って、キスをして、ごそごそ触りまくって。
 すぐに華菜がすーっと眠りにつく。この寝つきの良さはなんなのだろう。昨日いろいろあったから、やっぱり疲れてるのかもしれない。疲れさせたのは俺か。
 寝顔を見るのが幸せで仕方ない。
 抱きなおしてから、目を瞑る。
 目が覚めるまで、このままで。目が覚めても、この気持ちが続くように。


あとがきッス



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