AFTER DAYS 00 草野キリカの視点


 逃げられた。あっさりと。悔しいくらいきれいに。
「ちっくしょー!!」
 からっぽになった駐車スペースに仁王立ちして、雲ひとつない空に吠えてから、ポケットに手を突っ込んで電話を取り出す。まぁ案の定と言うか、当たり前って言うか、電源切ってやんの、カスミのヤツ。
「むかつくわ。なんで連れてってくれないのよ」
 いや別に、ホントに連れて行って欲しいとか、そう言うのではなくてね。あ。そうだ。
「実冴さんは!? あのヒトどこに行ったの!?」
 絶対今回のコレ、片棒担いでるよ。あのヒト。
 きょろきょろ回り見渡しても、それっぽいヒトはもういない。
 不覚。あっさりこっちは諦めて、実冴さん追っかけたらよかった……
 追跡の手が絶たれたことに気が付いてがっくりしてると不意に隣に人影。
「派手にやったよねぇ」
 何がどうなってるのかわからなくて右往左往するほかのヒトたち。そう言えば、コトの次第が飲み込めるのは、私と隣に立つこのヒト、塩野先生だけだわよね。
「アレ、カスミに投げて渡したヤツ。絶対婚姻届だったよね?」
「多分。私も見たことないから分らないけど」
 私より頭イッコちっちゃい塩野先生にこっそり聞いたらあっさりしたお返事。
「こ、こ、こ、こ、こっ!!」
 不意にうしろから肩を掴まれて、首めぐらせたら滝本君じゃないですか。遅かったね。一番呆けてたから仕方ないか。
「婚姻届って!!」
 うわ、大きな声でまた。いやん。みんな見てんじゃん。こっち。
「っ! じゃ……あの二人っ!! いつからっ!?」
 怖いなぁ睨まないでよ。滝本君、目が据わってるよ。滝本君がでかい声でそんなこと言うもんだから、クラスの女子が這い上がるみたいにしてくっついて、何でいつもキリカばっかり、って。あんたたちに言ったら三分後には校内中知れ渡るだろうと予測されるのに、言えるかっての。知れ渡るのは構わないんだけど、その後が怖いじゃないの。
「あーえー? さぁ? 私が知ったのは去年の六月だけどぉしおやんは修学旅行のときから知ってたんだよ、ね?」
「あら。はっきり知ってたわけじゃないわよ。本人たちに確認したのは草野さんよりあとだもの。と言うより、草野さんがいなきゃ私、今も知らなかったと思うわ」
 くそう。へらっとしてるのに察しがいいんだよな、塩野先生って。ここでどっちがバラしたかによって、報復される度合いが違ってくる。怖いから塩野先生にやってもらおうと思ったのに。にっこりって感じだけど目が笑ってないよ、塩野先生。私はまた来週会わなくちゃいけないのよって? 分ってるよ、そんなこと。井名里先生のことだから、何にもなかったみたいにしれっと来るよ。月曜。学校に。
 結局、貧乏くじは私かい。うーん。どうやってごまかそうかな。

                                        2002.4.15=up.





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