好きスキ大好き愛してるっ  1


「美奈(みな)ちゃん、ちょっと落ち着いたら? すっごい目ざわり」
 めくっていたファッション誌を閉じて、組んでいた足をもどした由奈(ゆな)ちゃんが、部屋中うろうろ歩き回っていた私に、大げさなため息と一緒にそう言った。
「だって、やっと今日、パパが出張から帰ってくるのよ?」
「やっとも今日も、出張なんてたったの一泊二日でしょうが」
「一泊二日でもっ! 私にはすっごく長かったの」
「あーはいはい。判ったから地団駄踏まない」
 居間の時計を見上げる。もうすぐ夜の八時。
「パパ、遅いよね。帰りにどこかで事故に遭ってるのかしら!? どうしよう由奈ちゃん」
「だーもうっ! 行く前にパパが言ってたこと聞いてなかったの? 帰りは遅くなるかもって。八時なんてまだまだ遅くないっ! ほんとにもう、座って待ってなさい」
 言いながら由奈ちゃんが立ち上がってやってきて、私の肩を掴んで、ソファに座らせる。
「大丈夫だから。絶対あの人、電話かける暇も惜しんで帰ってきてるから、美奈ちゃんは待ってたらいいの」
 そして立ち上がったついでなのか、ちゃっちゃとお財布と携帯電話をジーンズのポケットに突っ込んだ由奈ちゃん。
「え? ちょっ 由奈ちゃん帰っちゃうの?」
「帰ります。昨日はちゃんとこっちの家にいてあげたでしょう」
「えー……一緒にパパが帰ってくるの待ってようよぅ」
「イ・ヤ・で・す。大体どうして私が一人暮らししたいって言ったのか、本気で分かってないでしょう? 人が居ようが居まいがところ構わずべたべたべたべたべたべたべたべたっ!! 毎日毎日あんな至近距離でお互いの顔見て飽きないの!?」
「えーだって。パパって世界で一番カッコいいんだもん」
 パパよりイイオトコなんかいないもん。
「由奈ちゃんは思わない? 結婚するならパパみたいな人がいいなーとか」
「思わない」
「でも、由奈ちゃんの初めてのちゅーはパパとよ?」
「いつの話!?」
「生まれたて。私の初めてのちゅーもパパとなの」
「あんたのことは聞いてないっ!! それにそんなこっちに拒否権のない頃のモン、カウントしないで!! ついでに私は美奈ちゃんと違って、パパとそんなことする気は毛頭っ! ないから。絶対、パパよりいい男ゲットしてやるわ」
「由奈ちゃん……ひどぉい」
「ひどいのはどっちよ?」
 そんなの決まってるよ。今目の前で、げんなりした顔してる由奈ちゃん。
「私はパパじゃないから、美奈ちゃんの必殺上目遣いでうるうる攻撃は通用しません。邪魔モノは退散します。勝手にいちゃいちゃやってくれ」
 左手をちゃっとおでこの前にかざして、さいならと由奈ちゃんが玄関から出て行ってしまう。
 一人きりになった家の中はすごーく静かで、時計の音だけがやけに大きく響いてる。
 あう。
 パパ、早くかえってこないかなぁ。
 携帯に電話、かけてみようかなぁ。
 いまどこ? いつごろおうちに着くの?
 でも由奈ちゃんの言うとおり、電話をかける暇も惜しんで帰ってきてくれてるのなら自分の電話で逢えるときを伸ばしちゃうことになっちゃうわ。パパは運転中に電話が鳴ったら、ちゃんと止まってお話する人だもん。
 玄関マットの上で、座って膝を抱えて、その膝にあごを乗せて。
 パパ、早くかえって来て……

                                        2002.8.15=up.





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