恋人たちの Sweet Night −サスケVer.−
「サスケ、気をつけてなっ!」
腑に落ちない――
オレを見送る火影の顔は満面の笑みだ。
不必要なほど明るく任務へと送り出す火影の態度に、オレはどうにも納得がいかなかった。
◇ ◇ ◇
今年、ナルトは長年の夢だった火影の六代目に就任した。
火影はナルトのガキの頃からの夢だ。
火影を目指し、血の滲むような努力と決して諦めない根性で掴み取った夢。
ナルトの夢がようやく叶ったのだ。
火影就任の話が決まったとき、ナルトは真っ先にオレに報告にやって来た。
嬉しさのあまり、ナルトにぎゅうぎゅうと抱きしめられたのを昨日のことのように思い出す。
アイツの火影に対する想いは傍にいて痛いほど知っていたから、オレもナルトを抱きしめて素直に『おめでとう』を伝えた。
オレの言葉を聞いてナルトもさらに嬉しそうにしていたが、実際はオレはもっと大騒ぎをするのかと思っていた。
ひとしきり抱き合って落ち着いた後に、
「オレってば火影になるんだな…」
と静かに呟くナルトを見ると、火影の重責を背負う決意を滲ませていて、オレはその真剣な横顔にどきりとさせられた。
本人には言わないが、男としても忍としても、本当に器のデカいイイ男に成長したものだ。
こういうナルトはやけにカッコよくて、無駄に色気があったりするから始末が悪い。
だが、あのドベだったナルトが…とオレ自身も感慨深いものがある。
ガキの頃のアイツのウスラトンカチぶりを知っているだけに、本当によくぞ火影にまで上り詰めたものだ。
ナルトも火影の名を受け継ぐほどの落ち着いた大人になったんだな…、とオレ達が過ごしてきた年月の長さを思う。
いや、落ち着いたってのは間違いか。
その夜はとても落ち着いた大人とは思えないほど、ワガママいっぱいで求められてオレは散々な目に遭ったんだった…。
火影にナルトが就任することが決まると、すぐにオレの元に火影補佐の任を受けるよう要請が来た。
だが、オレはすぐには返事ができなかった。
だってやっぱりおかしいだろう?
オレは一度里を抜けている身だ。
そのオレが里の中枢を担う火影の補佐になんて、あり得ない話だ。
里の長老達だって納得するはずがない。
何よりも――こんなオレが補佐になることで、ナルトに迷惑は掛けられない。
オレはそう思ってずっと悩んでいた。
ところが血相を変えてオレのところへやって来たナルトに
「お前、何で補佐受けてくんねぇんだってばよ!」
と詰め寄られ、受けるって言うまで許さねぇ!と玄関先で無理矢理押し倒された。
あとはもう…。
返事ができなかった理由もオレの気持ちも伝える間もなくベッドに引きずり込まれた。
そしてしつこく攻められ口説かれて。
結局は補佐の任を受けることになってしまった。
受けると決まったらもう腹を括るしかない。
あれほど悩んでいたはずが、ナルトがいれば何とでもなるか、と思えるから不思議なものだ。
それ以上にナルトの「隣」を誰かに任せることなど、オレにはできなかったのだ。
もう私情も嫉妬も入りまくりだ。
オレのこんな想いはナルトは知らない。
むしろナルトに押し切られたせいにしてしまった…。
何とでも言ってくれ。素直じゃないのは生まれつきだ!
ナルトが火影に就任してしばらくは忙しくて、毎日が激務の連続だった。
やっと落ち着いたころ、火影になったナルトのワガママというか困ったことが一つ。
オレと常に一緒にいる日常が当たり前になってしまったのか、とにかくオレを外に出すのを嫌がった。
人手が足りなくて、たとえちょっとの使いでもオレが行こうとしても、傍を離れるのを許そうとはしなかった。
任務に出るなど論外だった。
ずいぶん前だったが、一度どうしてもオレが行かないと埒があかない任務が舞い込んできたのだ。
渋々任務に出した火影の顔は不機嫌そのものだったが、オレは久々の任務で何だか嬉しくて、気持ちも高揚しつつ気分よく任を終えることができた。
だがオレのいなかった3日間、火影は相当参っていたらしい。
オレが任務を無事終えて帰ってくるなり、報告もすっ飛ばして自宅に拉致まがいに連れて行かれた。
その後のオレは…もう言わなくてもわかるだろう?
翌日、当然のようにオレは疲労困憊で寝込む羽目になった。
何だか、オレ達はこんなことばかり繰り返している気がする…。
火影と火影補佐にもなっているというのに、こういうところは相変わらず成長がない。
そんな火影サマのはずなのに、だ。
今回に関してはどういうことなのか。
10日前。
火の国の大名から直々に来た任務で、火影の片腕を寄越して欲しいと依頼があったのだ。
オレは当然、サイかカカシあたりが行くのかと思っていた。
ところが、オレを外に出したがらないワガママ火影の口から出た言葉にオレは驚いた。
「一週間の任務だけど、サスケ行ってくれるか?」
オレはまじまじと火影を見つめてしまった。
「本気か?」
オレは疑わしさいっぱいの視線で火影を見返す。
すると火影は妙に慌てて、じとりと見るオレに向かって言った。
「オレの一番の片腕といえば、サスケだろ?それに大名直々の頼みとなれば、お前を行かせるしかないだろう。あの大名には世話になってるしさ、まあ恩を売っといて損はないし」
火影はそう言って、にかりと笑ってみせる。
これは本心で言っているのだろうか?
もっともな理由ではある。
だが、ここまでワガママいっぱいでオレを片時でも離そうとしなかったはずなのに、こうも素直に納得してオレを出すというのか。
前のたった3日間の任務であの有様だったのだ。
任務の内容にしても、オレじゃなきゃならない理由はない。
腑に落ちない…。
火影の満面の笑みが疑わしい。疑わしすぎる。
以前任務に出した時はあんなに渋い顔をしていたくせに、今度のその笑顔は何だ!?
何か企んでいるんじゃねぇだろうなぁ、おい!!
と、そこで暗部が帰還報告にやってきたので、この話は途切れてしまった。
火影の仕事は相変わらず忙しい。
当然オレも同じように忙しくて、結局その後はバタバタとしたせいで、先方へはオレが行くことで返事をしてしまったらしい。
しかも火影はオレに指示するんじゃなくて、シカマルに返事をさせていたのだ。
疑わしい以上に、そのことがオレは大いに気に入らなかった。
そしてオレは3日後には任務に出向くことになった。
その間不在にするため、シカマルや火影室付きの中忍に引継ぎや指示をしたりと、オレは出発までの日を慌しく過ごすことになった。
火影はいうと、オレが一週間もいなくなるのか…と寂しそうな顔をして見せる。
元はといえば任務に出すことにした自分のせいだろうが!と思うが、オレが一週間もいないのは火影就任以来初めてだ。
だが寂しそうなことを言うくせに、火影のテンションが時々妙に高くなったりするのだ。
忙しい中でも火影の動向をオレは見逃すことはない。
だてに火影補佐はしていない。
オレはそのテンションの高さが、ただ気になっていた。
「おい、なんか企んでるんじゃねぇだろうな」
オレ達以外誰もいなくなった火影室で、二人でまだ仕事をしていた。
書類を渡しながらきつい目つきで煽るように問いかけると、火影はオレの瞳を見ながら僅かに鼻の穴を膨らませる。
おい、何コーフンしてんだ…。
火影の瞳は欲の色を表していて、明らかにスイッチが入っている。
こうなると火影は止まらなくなる。
火影が近寄ってきてオレを抱きしめようとするから、仕事の邪魔だ、と邪険にしてやると、
「やっぱ、お前がいなくなると寂しいんだってばよ…」
と、甘えるようにオレに縋り付いて来る。
そんなことをされれば、オレも抵抗できなくなる。
誰もいなくなった部屋で、求められるまま口付けを交わす。
言葉や態度にこそ表したりしていないが、オレだって火影と、いやナルトと離れるのは寂しいのだ。
ナルトが火影になって以来、常に一緒にいたせいなのか。
これでは火影のことをとやかく言えない。
オレも弱くなったものだ。
だが、ここでサカられたら仕事が終わらねぇ。
明日から不在なのに、仕事を残していくわけにはいかない。
そう言っても、いったんスイッチが入ってしまった火影はなかなか納得しない。
仕方なく続きは家で、と約束させられ、火影を無理矢理引き離してオレは残りの仕事を片付けることに専念した。
約束したとおり、その夜オレは思う存分火影に貫かれていた。
明日から久々の任務に出るというのに何てことをしやがる!と思ったものの、それでも一週間離れ離れになる事実がオレの身体を淫らにさせた。
火影の傍にいない間、この熱を忘れないように身体に刻み付けておきたかったのかもしれない。
感極まってオレが火影にしがみつくと、
「オレを忘れねぇように、オレの痕、お前の全身につけさせてくれってば…」
と、火影が蒼の瞳を切なく揺らし、寂しさを訴えるように呟く。
同じ想いが重なったことで、オレの身体の中が歓喜と快楽で綯い交ぜになる。
「も…、ずっと前から…そうさせてるじゃ…ねぇ、か…」
と喘ぎながら言うと、より重い衝撃を繋がった奥に受けた。
その後、オレはいつ眠ったのか覚えていない。
だが、ナルトに抱かれて欲に溺れた記憶は、オレの心にも身体にも十分に残っていた。
翌朝、日が昇る時刻にオレは中忍二人を連れて里を出発することになっていた。
やはり疲労が残る身体が重い。
夕べは求められるまま応えてしまったが、いざ起きてみれば身体の疲労を作った元凶を叱り飛ばしていた。
オレとは反対にやけに艶のいい火影の顔を見れば尚更だった。
見送ると言って、わざわざ火影は門のところまで見送りに来た。
オレを十分味わって満足したせいなのか、火影の顔からは寂しさは消えていた。
「サスケ、気をつけてなっ!」
寂しさどころか、オレを見送る火影の顔は満面の笑みだ。
忘れていたが、どうしてオレを任務に出したのかがまだ疑問のままだった。
それに、この笑顔。
不必要なほど明るく任務へと送り出す火影の態度が、オレは腑に落ちないままだった。
いや、腑に落ちないどころか。
絶対に何か企んでやがる…。
帰って来たら、絶対に突き止めてやるからな…。
覚悟しとけぇ!ウスラトンカチめ!!
そんな気持ちはおくびにも出さず、きっちりと礼をして挨拶をする。
オレはくるりと背中を向けると、同行の中忍に声を掛け、一斉に地を蹴った。
火の国の大名は本当にオレがやってきたのを見て、えらく驚いていた。
オレが来ると聞いてはいたが、まさか本当にオレがやって来るとは思っていなかったらしい。
ここでも火影が補佐であるオレを、任務はおろか常に傍に置いて外には出さないと噂になっているようだった。
こんな火の国の都でまで噂になっているとは…。
妙にこっ恥ずかしいのは何故なんだろう…。
任務自体は複雑でもなく、要は大名屋敷の警備システムの相談と再構築を頼みたいとのことだった。
そんなことが任務なのか?と一般の人間は思うかもしれない。
だが『忍んで侵入する』ことに長けた忍だからこそ、こういう依頼がくるのだ。
最近では戦闘や諜報ばかりが任務ではなく、今は任務の種類も多岐に渡っている。
人材が豊富な木ノ葉だからこそ、こんな依頼もこなすことができる。
まあ戦争のない平和な時代だからこそある任務なのだろう。
火影の警護で慣れているので、警備の重点ポイントを素早く見つけて指摘するのには造作もない。ただ屋敷の構造が複雑すぎてポイントがありすぎるのが難点だった。
これは改造を勧めるしかないが、そうすると予算がかなり嵩むはずだ。
そのあたりを踏まえた上で、大名に納得してもらわなければならない。
オレは中途半端に仕事はできない。
大名が任務を依頼してきたのは一週間だ。
時間はたっぷりとある。
徹底的に調べ尽くして、非の打ち所のないプランを作り上げることを大名に約束した。
2、3日で仕事の大よその目処が立っていた。
一日中大名の仕事に就いているわけではなかったので、夜には大概身体が空いた。
大名が気を利かせて酒席を毎晩のように設けてくれていたのだが、元々酒席に出るのは苦手だ。
オレは顔は出すが、しばらく同席した後は同行していた中忍に任せて帰るようにしていた。
用意されていた宿に戻って、風呂にゆったりと浸かる。
大名の御用達の宿は気が引けるくらい豪華で、部屋つきの温泉まである部屋をオレに用意してくれていた。
好きなときに温泉に入れるのはいい。
オレ一人では勿体無いくらいだったが、オレはかなり気に入っていた。
広い湯船に浸かると、全身に湯の温かさが沁みていく。
何だかこんなにゆっくりとするのは久しぶりな気がする。
木ノ葉にいたんじゃ、こんなのんびりとした気分は味わえない。
補佐という仕事が仕事なだけに、常に神経を張り巡らせているのだ。
火影と常に一緒なのだから当然だ。
ちゃぷ、と身体にかけた湯が音を立てる。
ふと自分の身体を見れば、あの晩火影に付けられた痕がまだうっすらと残っていた。
火影はどうしているだろう。
前に任務に出て帰ってきた時の、憔悴しきった火影の顔を思い出す。
いやあの時は、出かける前もかなり不機嫌だった。火影は口には出さなかったが、オレを任務に出したくないオーラも撒き散らしていた。
しかし今回はといえば。
あの火影の満面の笑みが脳裏に浮かぶ。
絶対に何か企んでいるには違いないのだ。
でなければ、オレを外に出すのを嫌がっていたあの火影が、簡単に任務に出すはずがない。
火影になる何年も前からナルトとは付き合って来ているのだ。
だからこそわかる絶対的な勘、だ。
オレは風呂に浸かりながらさらに悶々と考える。
どうしてオレを任務に出したのか。
あんなに明るく送り出した理由は何だ?
……オレがいなくなって欲しかった?
オレがいては都合が悪いことがあったということか…?
ふとここまで考えて、頭の中を過ぎるものがあった。
――縁談。
そうだった。
相変わらず小煩い長老たちは、お節介も半端じゃない。
暇を見つけては火影になったナルトに山ほど縁談を持ちかけていたのだ。
火影は『こんなもん無意味だからいらねぇ』と届けられる写真を見ようともしなかったが…。
まさか。
縁談を進めるためなのか?
いや、それはあり得ない。
自慢でも何でもなく、火影はオレに惚れている。断言できる。
それはオレも当然同じだ。
その火影が縁談を受けるとも思えない。
以前、オレが縁談の写真だけでうっかりと嫉妬したのを見破られ、火影を散々喜ばせる結果になったこともあるのだ。
湯船から零れる温泉の湯が、さらさらと流れる音だけが風呂場に響いている。
まんじりと湯船に浸かったまま、腕組みをしてオレは考える。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
どれくらいそのままじっとしていたのか。
考えれば考えるほど、一度翳りの過ぎった頭には、マイナスな思考しか生まれなかった。
まさか浮気でもする気になった、とか…。
・・・・・・・・・・・!!
そう思った途端、オレの中で怒りのチャクラが一気に沸き上がった。
気づけば風呂の湯が、嵐のようにざぶんざぶんと波打っていた。
いやいやいや!
アイツが浮気だなんて、あり得ない!
腕組みをしながら、ブンブンと頭を振る。
事実、オレの身体を散々抱き尽くすのだ。嫌だと言ってもやめやしねぇ!
アイツがどれだけオレに執着しているのか!
任務前だってそうだった!!
それはこのオレの身体に残る痕が物語っている。
だが。
ナルトが浮気なんてするはずがないと思ってるのは、もしかしたらオレだけなのかもしれない。
ナルトだって、男だ。
男のオレと関係を続けるより、女の方がいいのかもしれない…。
だけど、でも…。
いいや!!
ザザザザ・・・ッ‥
ザ ッ パ ァ ー ー ー ー ン ! !
浮気なんてしてみろ!!
ただじゃおかねぇぇっ!!
怒りのチャクラで引き上げられた湯が、一気に落ち湯船から半分以上流れ出していた。
怒りが頂点に達したせいで、せっかくの寛ぎ入浴タイムも台無しとなってしまった。
自分がキレたせいで台無しになった風呂の惨状を見て、さらに怒りが熟成される始末だ。
追い討ちをかけるように、いい加減に湯に浸かりすぎてオレはのぼせてしまっていたのだ。
あのウスラトンカチのせいだ!オレとしたことが何たる失態!!
オレは、むかつきながらその後布団の上でひっくり返ったことは内緒だ。
このむかつきの全ての元凶は、火影だ!
それからというもの、火影を締め上げてでも真実を確かめてやる!とオレはすぐにでも木ノ葉に帰りたくて、残りの日を悶々と過ごすことになった。
3日後。
オレは腕利きの大工を大量に投入し、造作の変更を完了させて、大名が感動するほどの警備システムを作り上げていた。
後は警備のルートとポイント箇所を明確にし、オレが立てたプランに沿って指示をするだけだ。
明日全体的な確認をしたら、任務完了だ。これでようやく帰ることができる。
火影には『明日の夕方には戻る』と式を飛ばして報告した。
自分で言うのも何だが、まだ最終確認は残っているものの、任務は完璧にこなせた。
大名にはいたく感謝され、さすが火影の優秀な片腕、とお褒めの言葉をいただくことになった。
さらりと火影の名を出され、ぴきっとオレのこめかみに何やら走りそうになるが、表情は外交用スマイルを保つことを怠らない。
風呂場でキレて以来、オレの中では火影への疑念が怒りへとすり替わった状態のままだ。
任務もほぼ終えた今、オレの頭の中では『火影を締め上げ真実を吐かせる任務』を自分で作り、絶賛シュミレート中だ。
待ってろよ、ウスラトンカチィィィッ!!
木ノ葉に届くくらいの勢いでオレは不敵に心の中で叫び、こうして火の国の都での最後の夜が更けていった。
→ ナルサスVer.