人たちの Sweet Night    −ナルサスVer.−








 1. Turn サスケ



翌日。
すべての任務を終えて大名の屋敷を早目に発ち、オレは予定通り夕方には木ノ葉に着くことができた。
すぐ火影に報告するために、中忍と共にアカデミーへと向かう。
帰ってくる道すがらでも、オレは悶々と火影のことを頭の中で考え続けていたのだが、どうやら一緒にいた中忍を怯えさせていたようだった。身体の中で不穏に渦巻く気を完璧に抑えきれていなかったらしい。
火影室の前まで来ると、よりいっそうおっかない気が出ていたようだが、もう抑えることもしなかった。
そんな状態のままオレは火影室の扉をノックし、応えを聞き届けて扉を開ける。

「火影様、戻りました」

「サスケ!!」

中忍と一緒に中に入ると、机の向こうから立ち上がって、火影が声を上げる。
黄金色に輝く金髪と蒼い眼に、一瞬でオレの瞳は捉えられる。
そして嬉しくてたまらない表情を隠そうともしない火影の笑顔が、目に飛び込んでくる。
オレの心臓がとくん、と打つ。
それは木ノ葉を発つ時の、不必要に明るい笑顔ではなかった。
オレが帰ってくるのを心待ちにしていた、まるで子供のような笑顔だったのだ。

オレは、ハッと我に返る。
これくらいでほだされていてどうする!!
『火影を締め上げ真実を吐かせる任務』をキチンと完遂しろ!しっかりしろ、オレ!!


「サスケ、本当にご苦労だったな」
火影室にはシカマルとイルカ先生もいて、オレ達を見て同じように無事に戻ったことを労ってくれた。
シカマルが、すかさず
「首尾は?」
と訊ねてくるので、オレは報告のために火影の前に一歩進む。
笑顔を崩さない火影にオレは大名からの親書を渡し、任務の報告を淡々と始める。
聞いているのかいないのか、オレが報告をしている最中も、ニコニコしながら火影は椅子に座ったままソワソワして落ち着きがない。
すると、まだ最後まで報告していないのに、我慢できないかのように火影がいきなり立ち上がった。
「サスケの任務報告が終わったら、今日の仕事はおしまいな」
火影の言葉にシカマルが諦めたように手を上げた。
「…ったく。お前は我慢ができねぇヤツなのはよく知ってるからな…。もう帰りやがれ、めんどくせぇ」
おい、まだ報告全部終わってねぇぞ!何勝手に二人で終わらせてる!?
それにだ!オレは火影に問い詰めなきゃならねぇことがあるんだ!
そう思った瞬間、目の前の火影の姿が消え、オレの背後に立っていた。
「おい…」
とオレは文句を言おうとして振り返る。
火影の顔を見た瞬間、ものすごく嫌な予感がした。

つか、何でいきなりコーフンしてやがる!!

「サスケ、ごめんな、もう限界!」
「うわ…っ!」
一瞬でオレは火影の肩に担ぎ上げられ、火影室から拉致されていた。




結局また自宅まで拉致され、オレは家に着くまでの間、散々暴れて降ろせ離せと悪態を吐きまくっていた。
シカマルやイルカ先生ならまだしも、火影室には中忍もいたのだ。
このオレが簡単に拉致されるなんて、一体何てことをしてくれるんだ、ウスラトンカチ火影がぁ!
オレが悪態を吐きながら屈辱に耐えていると、玄関の前でようやく身体を降ろされた。
「ナルト、てめぇ…!」
火影の肩を掴み、文句を言おうとすると、反対に火影に手を掴まれた。
「サスケが帰って来るの、ず〜っと待ってたんだってばよ」
まるで語尾にハートでもつきそうな言い方で、殊更嬉しそうに火影が笑う。
「待ってたんだってばよ、じゃねぇ!!おい、こら!引っ張るな!…ちょ‥、待ちやがれ!!」
オレの言葉などお構いなしに火影がいそいそと扉を開け、オレの手を引っ張り部屋の中に入っていく。





…何だ!?これは…!!





そこには、オレが木ノ葉を発つ前の部屋とはまったく様相が異なる光景が広がっていたのだ。


部屋の中は淡いオレンジの間接照明が灯されていた。
部屋に入ってすぐ、どん!と目立つところには180センチ以上はありそうなバカでかいクリスマスツリーがあった。ツリーには綺麗に飾りつけがされ、色とりどりの光が優しく輝いていた。
ツリーの傍には白いソファが置かれていて、足元には何だか毛皮みたいな敷物まであった。
もっと驚いたのは、なんと暖炉までつけられていたのだ。
「サスケー、お帰りー!」
少し離れたところに、ダイニングにあったテーブルが移動していて、分身のナルトがテーブルの上に料理を並べているところだった。


これは…クリスマス??
任務ですっかり忘れていたが、そうか今日は24日。
そう、部屋が完全にクリスマス仕様になっていたのだ。


ありえないことになっている部屋に、オレはしばらく言葉もなかった。
あちこちを見ながら確認していると、火影に白いソファに座らされた。
この暖炉、なんだヒーターなんだ、とじっと見ていると、火影が顔を近づけてキスをしてきた。キスをしながら、足元の毛皮みたいなものにも目をやり、足で確認するとフェイクのものだとわかった。
仕事柄、状況分析はどうしても癖でやってしまう。ムードもへったくれもない。

…と、言うかだな。忘れてるぞ、オレ!!

「すげぇだろ?お前のために、ちょっと頑張ったんだってばよ」
火影のペースに巻き込まれないうちにと思うが、キスをといた火影がオレの瞳を見ながらうっとりと囁く。いきなり何を言われているのかまったくわからない。
「オレ、のため?」
何でコレがオレのためなんだ?
「ああ…。オレ達の愛の一夜のために、な?」
火影はさらにうっとりとして、オレをソファにそっと押し倒した。
オレはソファに仰向けにされ、そのまま火影の顔が再びキスをするためにゆっくりと降りてくるのを見つめていた。


――と、唇が触れる15センチ手前で、オレは手を伸ばした。

「ふがっ…!」

オレは手のひらで火影の顔を止めていた。
止めたのはオレは唐突にあることを思いつき、火影に訊ねるためだ。

「むは‥っ、サスケ、ちょ…」
「おい」
「ふぁい?」
オレに顔を押さえられているせいで、火影は間抜けな返事しかできない。
一体何を企んでいるんだと、オレを悩ませ嫉妬のおまけまでつけさせた理由が、まさか…!

「お前…。オレに内緒で部屋を改造するために…、オレをわざわざ任務に出したんじゃねぇだろうな?」

念のため訊ねてはいるが、火影の答えは確信している。その証拠に言葉の終わりの方は、沸々と沸いてきた怒りのチャクラが混じっていた。
当然、眼は写輪眼全開だ。
オレの怒りのチャクラに当然火影は気づいている。だからなのだろう、オレに顔を押さえられたまま、火影の身体は緊張していた。

「…………」

「…おい」

答えを促すように声を掛けて、押さえていた手を離してやる。

「そうです、ケド…」

睨みつけるオレの瞳を、火影が恐る恐る見てぼそりと呟く。
オレはその言葉を聞き届けると、火影の胸倉を掴み足を掛けて身体を投げ飛ばしていた。
叫び声を上げて、火影の身体が床にひっくり返る。
毛皮のところに落としてやっただけでも有難く思え!!
「サスケェ!何で怒ってるんだってばよー!」
オレは瞬時に移動し、火影の身体の上に乗り上げてやった。
「うるせぇぇっ!!てめぇ、何で黙ってやがった!?」
「何で、って、だってサスケを驚かせようと思って」
「だぁれが、そんなことを頼んだ!?あぁ!?オレのためとか言って、愛の一夜だぁ?てめぇはまた何か良からぬこと考えてんだろう!吐け!!」
散々シュミレートした『火影を締め上げ真実を吐かせる任務』など、すでに冷静に遂行するのは無理だった。だが火影の胸倉を掴んで締め上げてやっているのだから、結局は同じだ。

オレの、この悩みに悩んだ数日間は何だったんだ!
任務に出した理由がコレか!?
オレが大名屋敷で改造に励んでいた同じ頃に、コイツは部屋の改造をしやがっていたとは!
おまけに負のスパイラルに落ち込んで、浮気の心配までして嫉妬しまくったオレは…!
ひとりで考えすぎて早合点しちまった、この、このオレの気持ちをどうしてくれる!?
もう自分の失態を全て火影への怒りへとすり替えてやるしかない。

「く、クリスマスだから、あ、あの〜サスケとイチャイチャしたくて…」
「イチャイチャするのに、何でツリーとか暖炉が必要なんだ!?あぁ!?」
オレはさらに火影の胸倉を締め上げ、吼えまくった。
「クリスマス気分を、あ、味わうには、…つ、ツリーと暖炉ははずせなくて…」
「ホンモノの木だろーが、コレは!こんなもん部屋に持ち込んでクリスマスが終わった後はどうする!?それに暖房はちゃんとあんだぞ!こんなヒーターの暖炉なんて勿体ねえだろーがぁ!」
締め上げた火影の身体をオレはガクガクと揺さぶり続ける。
「く、くるし‥いっ、サスケ落ち着けって!」
「落ち着いてられるか!それにてめぇ、こんな改造してかかった金をどっから出しやがった!?」
こんな改造をしたら相当金がかかったはずだ。
二人で暮らし始めてから生活費は折半していたが、どんぶり勘定のナルトに任せられないこともあって、オレが金の管理をしていた。
そして、オレは後々のためにと思い、二人の収入から毎月ちゃんと蓄えをしていたのだ。こつこつと。
「…えっと、あの、ほらいっぱい貯まってたから、通帳に…」
やっぱりか!?あの貯金に手を付けやがったのか!?
気づいたら、オレは火影の頭をガツンと殴っていた。
「痛てぇぇっ!」
「せっかく一生懸命貯めてる金を、無駄遣いしやがってぇ!!」
オレはとにかく無駄に金を使うことが嫌いなのだ。しかもナルトひとりの金じゃないのだ。
オレのこの怒りをどうしてくれよう、さらに火影を締め上げようとしたその時。
火影はオレの肩をがしっと掴むと、必死の形相で叫びを上げた。

「無駄遣いなんかじゃねぇってばよ!!男のロマンのためなんだってばよ!!」

いきなり出てきた言葉と火影の勢いに、オレの上がりまくっていたテンションが一瞬止まった。








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