ケース3−2 引き続き華菜の場合


 ウチと違う脱衣所。
 駿兄のうちのお風呂に入るのは五年ぶりくらい? 駿兄がウチのお風呂に入るのはしょっちゅうだけど、こっちのお風呂はあまり活用されている様子がない。みょーにさっぱりした脱衣所で、洗面台の鏡を見て、はたと気づいた。
 しまった。この服、一人で脱げないんだった。
 ついでに言うと、一人で着れないし。
 どうしよう?
 言う? 頼む?
 ダメだー いやー 頼めないー
 きっと昨日までなら頼めたのに。
 ううん、今朝までの私なら何にも気にせずに頼んでるだろう。
 どうしよう?
 同じなのに、全然違うの。
 ふざけてくっついたり、きっと今までみたいにできない。
 あああああ。良く考えなくても私、今まですごくお子様だったでしょう!? いや今も胸もないしお子様なんだけど、そうじゃなくて、心、気持ち。
 そうだよぅ、大人のキスとか。
 映画見て、かっこよくって、そうだ、恋人同士になるにはこれしかない! とか……なんでそんなこと思ったんだろう。
 恥ずかしい。
 恥ずかしすぎる。
 もう絶対言えない。
 だってそうじゃないって判ったんだもの。
 そんなことじゃないって判ったんだもの。
 でもどうしたらいいの?
 いつも読んでるマンガでは、恋して恋してハッピーエンド。そのあとどうするかなんて描いてなかったもの。
 スキって言って、好きだよってって言われて、にっこり笑って終わるんだもの。
 いや、学校で何度も授業で性教育とかでからだの変化とか、セックスが恥ずかしいエッチなことじゃないと教えられても、誰がそんなことで納得するってのよ?
 そんなものよりも、放課後回し読みしてた、同級生が持ってきてたマンガ。ほら、エッチが先なんだか恋愛が先なんだかっていうかんじのやつ。私たちくらいの子供でも手に取れるフツーの少女漫画みたいに見せかけた、レディースコミックより濃くないけど友達のお兄さん曰く『成年指定より性質悪い』マンガ。あっちの方がずっとリアルで身近。
 ああいうのは、ちょっと。でも駿兄はああいうのしたいんだろうか? したいよね? 私でいいんだろうか? そうなったらどうする? 逃げる? 泣くかも。それはちょっと卑怯な気もする。でも……怖い。
 とにかくっ! 現状をどうするかよ。
 現状!!!! お風呂。お湯止めないと溢れるじゃない。
 お湯はギリギリセーフ。
 で、服は濡れてるけど湿ってるくらいだから暖房入れて寝れば風邪はひかないとおもう。
 うん。帰ろう。このまま帰って部屋で寝よう。
 なんて言うの?
 正直になんて言えないわ。
 黙って行くしかないかしら。
 そーっと出たらわかんないよね?
 そーっと、脱衣所の戸をスライドさせる。
 大丈夫! 敵はいないわ。玄関に向かうにはリビングの横を通らないといけないけど、ドアは閉まってる。
 そのまま……
「はっへしゅ」
 脱衣所と廊下の温度差に、湿った服がさーっと冷たくなった。
 で、気づいたらすごいマヌケなくしゃみが出て、慌てて口を押さえても、そりゃ遅いってもので。
「華菜? どうかし……」
 リビングのドアを開けて、顔を出した駿兄の前をマッハダッシュで玄関へ向かって走り去る。
 ハズだったのにやすやすと、腕をつかまれて止められてしまう。
 どどどどどど、どうしよう?


ケース3−2´(ダッシュ) 駿壱の場合
------------この節と同じ時間経過ですが、飛ばして
ケース3−3 華菜の場合
--------を選択したらストーリが続く保証がないです

ケース3−1 華菜の場合


Copyright © 2001 SEP Sachi-Kamuro All rights reserved.
このページに含まれる文章および画像の無断転載・無断使用を固く禁じます
画面の幅600以上推奨