5 家


 夕食も外で済ませた。家に帰った時には、車を運転していた井名里はもちろん、夏清もかなり疲れていた。
「風呂に入らないと潮風に当たったからべたべたするだろ?」
「うん……」
 車から家まで、井名里の腕に寄りかかって眠そうにしていた夏清にそう言って井名里が風呂を沸かしに行こうとする。
「夏清?」
 べったり、と後から腰に巻きついた夏清に井名里が怪訝そうに聞き返した。
「うん。なんかね、すごい、先生にくっついていたい気分」
「ハイハイ。じゃあ気が済むまでくっついてろよ」
 夏清をつけたまま、井名里が風呂を沸かしにいく。
 最初こそ面白がって夏清をくっつけて色々移動していた井名里だが、十分もしたころには飽きたのと重いのと鬱陶しいので、井名里もいささかうんざりしてくる。いつも離れてくれと言っていた夏清の気持ちが、少しわかった気がした。
「夏清……」
「なに?」
「悪いけど、ちょっと離れて」
「やだ」
「………………これから風呂に入りたいんだけど?」
「いいよ」
 どうやっても離れないつもりらしい夏清の様子に、井名里が苦笑した。しがみつかれていると腰が重いので抱き上げようとすると、それは嫌らしく、するする逆のほうに逃げてしまう。夏清としては、抱きしめられるより抱きしめていたいのだ。
「いっしょにはいるのか?」
 いつもならそのまま『嫌!』と叫んで逃げてしまうのに、夏清が何の躊躇もなく頷く。そのままくっつけて、脱衣所まで連れていく。
 たまにはこういうのも、悪くないかと思いながら。
 
 
 部屋が狭いのに、風呂や脱衣所が広いはずはない。
 加えて脱衣所には洗濯機と洗面台もある。
 その狭い脱衣所で、服を脱がせても井名里のするままで、抵抗らしい抵抗をしない夏清に調子が狂う。
 井名里が脱がそうとしてもいつも自分でやるからいいと、服を脱いで逃げるように先に風呂のほうに行ってしまうのが、おとなしく服を脱がされて、触られてもくすぐったそうにするだけだ。いつもと段取りが違うので、どうしようかと考えてから井名里がシャツを脱ごうとすると、待っていたようにベルトをガチャガチャはずされて、井名里のほうが驚いた。
 バストイレがセパレートになっているだけマシ、と言った感じで、湯船も洗い場も座れば人一人でいっぱいだ。否が応でもくっついていないと居られない。狭い狭い空間で、立ったまま抱き合えば、湯気の湿度と海風でついた塩のせいか、肌と肌がぺったりと吸い付くようになじみ合う。
 べったりくっついたまま本当に何もしないで、ただそうしている夏清を見下ろす。こぼれた長い髪が、井名里のわき腹のあたりでふわふわと動いていてくすぐる。
 いつもならとにかく一分一秒でも早く済ませようと、落ち着きなく狭い風呂の中を動き回る夏清が何もしてくれないのならば、井名里が動くしかない。不自由な体勢から何とかシャワーをひねり出す。
「ほら、顔上げて」
 井名里の胸に頬をくっつけていた夏清が素直に顔を上げる。顔にかからないようにしながら頭から湯をかける。
「先生、ぬるい」
「がー! 文句言うなら自分でやれ」
 しれっと文句を言う夏清に、井名里が吠える。ぬるめの湯が好きな井名里と体温が低くて熱い湯のほうが好きな夏清では、おのずと風呂の適温が変わってくる。それでもわしわしと空いたほうの手で夏清の頭についている塩気を落とす。
「いや。これがいい」
「ハイハイ。頭洗ってやるから一回だけ離れて、ほら」
 顔に雫が落ちてくるのも平気な様子で抱きつきなおした夏清に、井名里が言う。お互いの、いつもと全く逆のセリフに、同時に笑い出す。
 笑って、夏清が体を離した。やっと自由になれた井名里が、肩こりをほぐすような動作をする。
 その様子を見ながらクスクス笑いつづけている夏清の顎を引き上げて、口付けをする。
 何度か軽くあわせた後、舌を絡ませて、音をたてて深いキスを繰り返す。狭い浴室に、出しっぱなし水音とは違う粘着質な音がこだまする。
「ふ……ぁ……んっは……あんっ」
 頬、顎、首。鎖骨を甘噛みして、その下の肌に痕をつける。まだよく流されていない肌に、微妙な塩気が残っていて、いつもと違う味に井名里がどんどんエスカレートする。
「やぁんっせんせっ……がっこ始まったら、身体測定、あるからっ」
 そう言われて井名里の動きが一瞬止まる。が、止まったのは本当に一瞬で、今度は痕をつけない代わりに舌が這う。
「ひぁっ!! んっあ……」
 胸の先端を絡めとられて、夏清が悲鳴をあげて井名里の頭を抱く。吸われて、転がされてつぶされる。力加減もタイミングもばらばらで、夏清が声をあげながら息をする。
 もう片方の乳房を揉んでいた手がわき腹からお尻へむけて移動していく。そっとなでると、お尻の筋肉がひくひく動いているのが伝わる。
「あっ……やんっ……へ、変なとこ、触らないでっ……いやぁん」
 井名里の手から逃げるように夏清が腰を浮かせる。心もち突き出すようにされた秘裂に内腿をなでていた手が進入してくる。
「やっ! やめっ!! っは。くっ……ふぅん」
 前と後ろから同時に幾本もの指が夏清のそこを蹂躙する。その上無防備な乳房まで吸われて、夏清が小さく震えながら、軽く達してしまう。
「ん、ふぁ……いっ! やっ!!」
 とろん…と、気持ちいい余韻に浸ろうとしていた夏清の意識が慣れない所に入れられた井名里の指が動いたことで一気に覚醒する。
「やめっ! やだぁそんなとこ……後ろのほう、指、入れないで……出してよぅ」
 胸に抱いていた井名里の頭を引き剥がして、夏清が涙目で懇願する。
「なんで? こっち入れた瞬間、前、すごく締まったけど?」
 そう言って、少し指を動かす。前の方には人差し指と中指、二本入っているが、後ろはまだ小指の第一関節がやっと入っただけだ。
「んっ! やだってばぁ……だって、なんか、変だよ。トイレ行きたいカンジ」
 猛烈な異物感にとうとう夏清が涙を浮かべている。最近やっと嘘泣きと本泣きの違いがわかってきた。今日の涙は二対八で嘘泣きである確率が低そうな様子だが、見なかったことにして前だけ指を抜く。抜いた指に絡み付いて溢れてくる蜜の量が、いつもより多い。
 それをすくい取ろうとする井名里の指の動きに、夏清が腰を引こうとして、なれない刺激にまたかわいらしく悲鳴をあげる。それを許さずに引き寄せて、股間からへそを伝って、胸の間までべったりと塗りつけて、さらに舐める。
「や、だ。そんなことしないでってばぁ」
 ぞくぞくと、夏清の背中を奇妙な快感が走る。悟られまいとしても、上ずった声をあげてしまえば無理だ。
 一方の井名里は、びっくりするくらいおとなしくしている夏清に、チャンスとばかりにやってはみたものの、胸や腹にキスをして愛撫をしても、全く緩むことのないそこに、さすがにいきなりは無理かと、今日のところは諦めることにする。時間はこれから、まだまだあるのだ。
 未練はあるが、これ以上いじめるわけにもいかない。指が抜かれて夏清が体から力を抜いて、ほっとしたような顔をする。
「それに、そんなとこでしたがる人いないもん」
「いるって」
「嘘。どこに?」
「目の前」
 狭い洗い場に膝をついていた井名里が、出しっぱなしのシャワーをとり、手を洗って夏清の体も流す。
「そんな変態、先生だけに決まってるもん。絶対だまされないもん」
「でも気持ちよかっただろ?」
 冷たくなった夏清の髪にもう一度シャワーをかけて、夏清の使っている甘そうなシャンプーをとり、聞きながらあわ立てて頭につける。
「………」
 おとなしく洗ってもらいながら、夏清が黙り込む。自分の思う『気持ちいい』のとはちょっと違うのだが、確かにいつもより早くあっさりとイってしまったのは、そのせいのような気もする。
「ほれ、目に入るぞ」
 うつむこうとした夏清の頭をかくんとあげさせ、額に落ちかけた泡を取る。
 指がかかる影に一度目を閉じた夏清が、おずおずと瞳を開く。答えられない夏清の様子を、井名里が楽しそうに笑って見下ろす。からかうようなその表情に、夏清が頬を膨らませる。
 むー、と言いながらぷりぷりに頬に空気を入れている夏清に、こらえきれずに井名里が軽くキスをする。
「でも普通、やらないんだよね?」
 長い指にマッサージされているようで髪を洗ってもらうのは実はものすごく気持ちいい。やっと落ち着いた夏清が、念を押すように井名里に聞く。
「さあ? わりとやってんじゃないのか? 今度ツレにでもリサーチしてみようか?」
 知りたいけど知られたくない。リサーチすることはイコールでこちらもリサーチされてしまう。自分まで変な趣味を持っていると思われるのは絶対にいやだ。
「………それは、ちょっとやだ……」
 色々考えをめぐらせているうちに、くるりと後ろを向かされて、シャワーで髪を流してもらいながら、夏清がつぶやく。井名里がざくざくときれいに流して、トリートメントを出して髪につけ、シャンプーなどが置いてあるスチールラックにひっかけてあるプラスチックの髪留めで、夏清の髪を器用にまとめて留める。
「よし」
 きれいにまとまったのか、井名里が満足そうにそう言って、今度はボディーソープをとる。
「や、ちょっと、スポンジ使ってってば。うひゃ!」
 ぬるりとした感触を残して、井名里の大きな手が肩から背中、わきの下を通って胸に回ってくる。
 夏清の体はどこもかしこもやわらかくて触りごこちがいい。せっかく洗うのに、そんなものを使っていてはもったいないことこの上ない。
「却下」
「却下って! 使ってよぅ 先生って、なんか洗い方やらしいからやだ」
「ほほう、やらしい洗い方ってこうか?」
「いやーっ!! ……ーっ! っん!!」
 腕の中で夏清が暴れる。
 何度やっても最初は拒否して抵抗する夏清に、そろそろ慣れて素直になってくれと思っていた井名里だが、従順になられると逆に歯止めが効かなくなってやり過ぎそうになってしまい、いつもどおりやりにくくて仕方ないことがわかり、やっとペースが戻ってきて嬉々として夏清の体をいじりまわす。抵抗しているうちは大丈夫だということをもう知っているから。
 石けんですべりがよくなった指の間でぴんと勃った乳首を転がされて夏清が息をのむ。
 嫌だ嫌だといいながら、それでもどんどん抵抗する力が抜けていく。最後には、嗚咽とも取れるくらいのインターバルの短い悲鳴しか聞こえなくなる。
「洗っても洗っても、すごいけど? ココ」
「……ちがっ!! っぁん!」
 井名里が、音を立ててそこに這わせた指を動かす。否定したくて夏清が頭を振った拍子に、留めていた髪が解けて広がる。髪留めが床に当たって軽い音を立てて転がった。
「違わないだろ? 乳首勃ててるのも、ココべたべたにしてるのも夏清だろ?」
「ちが、うもん……せん……せーが、やらしーコト、するからだ……もん」
 肩で息をしながら、夏清が訴える。
「あっくぅ……や……もっきゃあんっ!!!」
 刺激を受けすぎて触られるだけでびりびりした快感を送ってくる、一番敏感な肉芽と乳首を同時にひねられて、夏清が悲鳴をあげて、一拍後にがくがく体を震わせる。それでも許さずに、井名里はナカに指を進入させて円を描くようにかき回す。
「誰がって? 渡辺サン?」
「あっあンッ!! やっ! んはっ!!」
 意地悪く問い返されて、夏清の中にほんの少しだけ残った正気の部分が、呼び間違えたことを知らせても、もう悲鳴と吐息以外出てこない。
 押し寄せてきた快感の波が、その水位を戻すことなく攻めたてる。おぼれそうになって、夏清がのどをそらして声をあげた。
 ごめんなさいと許しを請うように夏清が顔を上げて井名里を見つめる。吐息をもらす唇は半分開いたままで、陶酔した瞳はそれでも必死に井名里を捉えている。長い髪が一房顔にかかった姿は、視神経を通して送られたその映像だけで眩暈がするほど刺激的だ。長く見ているとそれだけでダメになりそうだ。
「ンッふ、はンっく」
 井名里のキスに、噛み付くように夏清が応える。胸元に這う井名里の手をどけようとするためにあった腕が上げられて、不自然な体勢でキスをする井名里の頭にかかる。細い指が、髪の間を這う。
 シャンプーなどが置かれているラックの最下段にあるプラスチックのケースを開けて、井名里が手探りで中のものを取り出そうとして。
「最っ悪」
 唇を離して、がっくり夏清の肩に顔をうずめて井名里がつぶやいた。
 いきなり途切れたキスにびっくりしたような顔をした夏清が、井名里が手を伸ばした場所を見て納得する。
 修学旅行後『お話し合い』の結果、安全日であろうがなかろうが、避妊をする、と言う事で二人とも納得した。そのあとも数え切れないくらいしてきたが、井名里はちゃんと約束は守っていた。その結果、家中いたるところにそれが置かれている。
 で、風呂場に常備されたそれは、しっかり空になっている。
 そう言えば、休みの間使うだけ使って補充した記憶がない。
「……あの、別に、一回くらい、いい……けど?」
 残念そうにしている井名里がかわいそうになったの半分、自分が放りだされた不満半分で、夏清が提案するが、夏清の髪に顔をうずめたまま井名里が首を横に振る。
「自分の危険日くらい覚えとけよ……」
「………」
 どうしてそんなことしっかり把握してるんだろうかと、夏清が怪訝な顔をしていると、がばりと起き上がってシャワーに手をかけ、湯をだして夏清にかける。
「うきゃーん」
「すぐあがって続きするぞ続き!!」
 夏清の髪と体に残ったトリートメントやボディーソープを洗い流して、強引に風呂から上がろうとする井名里を夏清が止める。
「な! 先生全然洗ってないじゃない」
「いい! どうせあとから入る!!」
「やーん。今日はもうこれ終わったら寝ようと思ってたのに」
 夏清の抵抗などものともせずに、夏清ごと脱衣所に戻って、バスタオルで巻いてそのまま自室に連れて行く。
「やだやだやだやだ!! もう、せっかく今日の先生かっこよかったから、おとなしくしてようと思ったのに!! これじゃいつもと変わらないじゃなっ!! んっ」
 言葉がふさがれる。いきなり現れた井名里の顔が軽いキスのあと遠ざかっていく。
「んもー」
「もう一回言って。今日どうだったって?」
「もう言わない!! 絶対言わないもん。タイムマシンあったら、そんなこと思っちゃいけませんって過去の私に忠告する!」
 力の限り抗議したのに、逆に井名里を喜ばせていることに気づいた夏清が意地になって否定する。
 助けてドラえもん、とでも言いたげに夏清がじたばたしながらわめく。
「うわ。小憎たらしいこというなぁ」
 ベッドにおろした夏清にのしかかり、引き出しから取り出したコンドームの袋を咥えて破りながら井名里が笑う。
「もう全然かっこよくなんかないもん! えっち、すけべ。へんたい。いじわる! 自分のクラスの生徒にくらいいい成績つけてよバカ! 二学期は絶対中間も期末も小テストも満点とってやるんだから!! 今度九だったら教育委員会に訴える!!」
 今までおとなしくしていた分がプラスされてアクセルいっぱいエンジン全開で関係ないことまで持ち出して文句を言いつづける夏清に対して、余裕満面といった様子の井名里。
「寝る! おやすみ」
 何を言ってもびくともしないで笑って聞いている井名里をにらんでから、夏清がそう言ってバスタオルを蓑虫状態で巻きつけて体を丸めて横を向き、目を閉じる。
 なんだかもう、なにをやっても、いいように遊べる。眉間にしわが寄るくらいぎゅっと目を瞑って、体にも変に力が入っているのがわかる。大体、寝ると宣言しなくても眠くなれば勝手に寝るくせに何を言っているのだろうか。
 眉間のしわにひとさし指を当ててぐりぐりほぐす。その感覚に夏清の口元が緩んでくる。そのまま親指と中指で鼻をつまむ。しばらく唸りながら耐えようとしているが、すぐに限界が来て丸めていた体を動かして目を開ける。
「はー……もう殺す気? うっぎゃー!! 横暴! 返し、て……よ……」
 セリフ半ばで井名里があっさりとバスタオルを剥ぎ取って丸めてどこかに投げてしまう。
 取り返そうと伸ばした腕を掴まれた。こてっと簡単にあお向けに転がされる。
 怖いくらいすっきりと一つだけの感情しか表していない井名里の顔に、瞳に、言葉が奪われる。
「俺は、殺されるなら夏清がいい。どうせ死ぬならお前に殺されたいよ」
 夏清の腕を己の首に回させる。
 何も言えずにされるままになっている夏清にキスをして、微笑む。
「お前が誰か他のヤツのものになったら、殺すかもしれない」
 やわらかい頬をなでる。
「その時はそいつだけ残して、お前だけ奪うよ」
 『もしか』したら『いつか』現れる『かもしれない誰か』を、自分は許せないだろう。今日のことにしても。いや、今日の場合、手元に刃物でもあったら、きっと何の躊躇もなく、彼らを刺していた自信があるのに。
 濡れたままの髪を一房。乾いていると分からないけれど、濡らすとまだすこしパーマが残っていて、指に絡めるとくるくる巻き付いて、けれどサラサラとやわらかい髪は、あっさりほどける。
「そんなの、絶対無いよ。だって私が先生から離れるなんてないもの。でも、ずっとずっと何年も経って、私が年を取っても、先生が先生やってる限り、ずーっと若い子といっしょなんだよ?」
「安心しろよ。俺のほうが早くじじいになるから」
 言われて、それもそうかと思う。
「今ものすごく納得しただろう?」
「うん。あと先生性格悪いから大丈夫かな、とも思った」
「ほーう……」
 目を細めて笑う井名里に、夏清がしまったという顔をするがもう遅い。
「ひゃははははっ やめてやめてやめてっ! くすぐったい! はなして!! ごめんなさい、もう言わないからっ!!」
 全身くすぐられて夏清が身を捩って逃げても、浮いた腰に手が回り、抱きしめられて身動きが取れなくなる。
「や、んんっ」
 敏感に勃ちあがった乳首に、井名里が軽く噛み付く。弓なりに反った背骨ををなでて、体を徐々にずらしていく。胸元から腹、大たい骨。体中に痕をつけたいけれど、そう言えば身体測定がどうのといっていたのを思い出し、骨盤の上にだけ強く痕を残して、目的地にたどり着く。
「いっ! ぁあっん」
 会話をしている間全く触っていなかったにもかかわらず、夏清のそこはすでにどろどろに熱くなっている。軽く舐めただけで夏清が声をあげる。反応して足がびくりと突っ張った。
「あ……やだ」
 中途半端にされたことと、井名里の言葉にどきどきしていたら、知らないうちに濡れていた。見つかって、夏清が真っ赤になって井名里の頭をはがそうとする。
 普段なら無視する抵抗に、井名里が顔を上げる。
 降りてきた方とは逆の場所にまた痕をつけて体を戻して、潤んだそこを確認するように指で触る。
「ン、は……あっ!」
 それだけでも夏清が声をあげて肩をすくめる。左足を掴んで、今までの刺激で充分に準備が整ったそこに、一気に侵入する。
「っ!!」
 何度も何度も、同じことをしてきたのに、飽きないどころかどんどん深みにハマっている気がする。
「あっん…礼良っあきら、っん、ひゃっ」
 夢中で名前を呼びながらしがみついてくる夏清を腕の中に抱きこむ。
「夏清」
「ん、はっぁッ! きら……っ!! ぁあっや、も……そんな、したら……」
「……イきそう?」
「んっ」
 顔を覗きこむと、夏清が慌てて目を閉じる。それだけで夏清の全身に力が入って、がっちりと締め上げられて、夏清の声の直後に井名里が軽くうめいて止まる。
 息をついて額にキスをして。このままどうにでもなればいい。どうなったとしても、この腕の中のものを手放したくはない。絶対に。
 全てをむさぼり尽くすような、井名里の激しさに夏清が悲鳴を上げる。
「うっん、ッく! だめッやだ、もっと……あんっ礼良っイク、いいっんっイっちゃう!!」
 その声を聞きながら、井名里は夏清を抱きしめた。


 だくだくと波打つ感覚に酔いしれて、しばらくそのまま動かずにじっと抱かれていた夏清が、おずおずと問いかける。
「……せー……あきら? ……っきゃッ!」
 夏清を抱いたまま井名里が仰向けに転がる。
「やーんいきなり動かないでよ」
 達した余韻の残る体が予期せぬ場所が擦れて夏清がうめく。ずっと抱きしめられたまま下にいたせいで動けなかった夏清が体を離そうとするのを井名里が黙って制する。
「いろよ、このまま」
「……このままって……このまま?」
 繋がったまま? と夏清がいやんという顔をする。けれどなんだかすがるような井名里の目にいつものように拒絶できずにため息をついてどうせ重くなったらどかされるだろうと井名里の上にのしかかる。
「ここにいる。だって私が帰ってきたいのはここだけだもん」






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