LOVE GAME  2


 終わった後の余韻が好き。
 ぼーっとしてるのもいいし、髪触ってもらうのもきもちいい。先生の鎖骨触るのも好き。鎖骨、先生のパーツの中でもマイランキング上位かな。
 でも今日は、もー動くのも億劫。しばらくじっとそのまましてて。
 前に、抜くとき声出すとか、言われたんですけど、だって、出るもん。声をがまんしたら今度は体がその代わりみたいに反応するから、このときもがまんしない。声も出す。体も勝手に震えるから無理して止めない。
「う。にゃ」
 ぬるりって。なーんだかもう、ものすごくいやらしい感じだけど、お互いの体液があるナカから出すときって、そんな感じ。
 ああ、後始末、しなきゃ。でも眠い……
 えっちしたあとって、眠くなるのはいつものことなんだけど、今日はする前から眠かったから、ほんとに、ぼーっとしてて。
 最近。って言うより、実は去年の年末くらいから、ほとんど避妊はしてない。
 さすがにほんとにヤバイっぽい日だけで、その他はほとんどそのまま。生で。
 毎月毎月ちゃんとお客サマはいらっしゃるから、今のところ妊娠はしてないんだけど。ああ、今月はこれからだからわかんないか。
 うーん。
 急いでるわけじゃない。
 いらないわけでもない。
 実感があるわけじゃない。
 きっとできたり、生れたりしたらわたわたするに決まってるんだけど。
 子供は産みたいな。
 先生の。
 先生が言うみたいに、一ダースも二ダースも、さすがにいらないけど。
「ナニ考えてんだ?」
「んー……ないしょ」
 って言うか、頭回らなくなってきました。そんなこと考えてたら、後始末、してもらってしまいましたよ。ありゃ。アリガトウゴザイマス。じゃあ心置きなく寝ちゃいます。
 ごそごそふとんにもぐりこもうとしていたら先生の気配が、離れる。
「せんせー?」
 どこいっちゃったのー? 離れたら、やだ。ほとんど無意識の中の意識が、ふにゃふにゃの体を起こさせる。
「夏清……お前、いつまでその呼び方する気だ?」
「うーん」
 んー。
「笑ってごまかしてんじゃねぇよ」
 んー? あう。
 どこかに行って、すぐ帰ってきた先生が、多分ゆらゆら揺れてた私のおでこをつつく。当然不安定だったから、すぐ後ろに倒れちゃう。そのまま仰向けに転がるのも芸がない気がしてふとんも着てるし、まあいいかって先生に背中を向けたのが間違いだったって気づいたのはそのすぐ後。
「ん、やぁ……ん。あ」
 後から手が伸びてきて、下は腰の隙間から左手が、上からは右手が。払っても払っても手は諦めることなく絡まってくる。
「だーめ。もう、約束したでしょ。一回。約束どおりしたもん」
「そうだっけ?」
 しれっと。しれーっと。先生が無視する気なら、私も寝るもん。むーん。
 勝手に動き回る手を払うのをやめて、そのまま背中を向けて寝ちゃうもん………
「んー………っ!! ちょっ!! どこ触ってるの!?」
 気がついたら、左手が腰のあたりでがっちり、腕ごと私の動きをふさいで、右手がっ!! みーぎーてーがっ!!!
「どこって、尻」
 それは、わかってるってば。そうなんだけど。
 お尻なんだけどっ! そこはっ! 違うでしょ…… なんて言うか。うん。お肉のとこなら撫でられても……いいけどっ!! 今の先生の触り方は、そんなかわいいもんじゃない。
 逃れようと身を捩ってもびくともしないの。むしろ引き寄せられて体が密着する。背中に、先生の胸の感触。下は………今のところ先生の手が邪魔で難を逃れてる感じ。
「いっ!! やん」
 足を閉じてそれ以上の侵入を拒もうとしても、眠りかけてた体はあっさり、膝を使って後ろから押おすという原始的な攻撃で、中途半端な、ナナメな感じのうつぶせ体勢にされてしまう。
 そのまま、片足は動かないようになるわ、足は閉じられないわ。体半分でのしかかるようにされてるから、手をついても上半身が少し浮くだけで、体を起こせない。それをいいことに、先生の左手は拘束するのを止めて、かろうじてシーツから浮いている胸をこねるように揉んでいる。先生、この体勢好きなんだよねー……仰向けだったり起き上がってるときよりちょっとばかり引力の魔力が働いて、先生曰く『手に余る』くらいになるのが触ってていいらしい。私は、向き合ってるほうが好きなんだけど。
 もうほんと、忘れた頃に毎回、毎っ回!! 懲りもせずに……
 ……でも先生が、こんなほうでしたがるのって。
 もしかして。
 もしかすると、私、先生が初めてじゃなかったからかな、とか……最近思ってみたり。
 そんなこと考えてたら、あっという間にどんどん不利な体勢にされる私と逆に、先生はさっきより自由に動ける。親指に、入口って言うか……出口って言ったほうが正しいのか……なぞるだけだったのが、ほぐすような感じでやんわり押される。他の指が、いつもの場所を刺激する。
「ぅうんっ……いやぁん」
「いや?」
 流れ落ちる髪を鼻先でかき分けるようにして、耳元で先生が息をかけるようにささやく。
「いやなわりには、乳首はこんな勃ってるし、こっちはこっちでもう洪水でしょ」
 いーやーあーん。気付かないフリしてるのに言わないで。それもわざわざ、言いながら胸の先つまんだり、下のほうも人差し指と中指使って広げないで。卑猥な水音を立てて普段外気に晒されないところが開かれる感覚にぐらりと意識が歪んだ気がした。
 いや? って問いにはイエス。そのあとの発言にはノー。ぶんぶん頭を振ったけど、縦なんだか横なんだか、自分でももうよくわかんない。
「うっあ……っく……あっああんっ」
「もっと力、抜けって」
「……そ、んっな…………と、言われ……」
 ……ても、ね。そんな、簡単に……できないよ。
 ゆっくりゆっくり、指が、逆流してくる。もともとそんなコトする場所じゃないから、異物感は半端じゃない。そうしながら他の指が前の方を撫でるように往復する。けど、そのくらいじゃ気なんか逸らせそうにないです。
「うー………いっ……っは……あ」
「どう? 親指、全部入ったけど?」
 あああああっ!! よりによってなんでそんな指いれてんのようっ!!
「も………なに、すんの、よう」
 体に上手く、力が入らない。
「あぅっ!! あ。あ……ぅんっ」
 多分、ものすごくゆっくり、動いてるんだろうケド、もう、慣れないし慣れたくもないし金輪際お断りだけど、届く限り入った指が内側をほぐすつもりなのか、押すようにしながら出て行く感覚に、なんだかもう声はでちゃうし体が勝手にいちいち、反応を示してびくびくする。こんなんじゃ先生の思う壺じゃないの、私ーっ!!
「ふ、う。あ……」
「痛みは?」
 って聞かれて、頷いたらいいのに変な感覚ばっかりだけど痛くはないから思わず頭振ってるし。バカだ……
「気持ちイイ?」
 イくないっ!! イイわけないっ!!
「うー……っく」
 ぐー。言いたいことしゃべれない。絶対違うってさっきよりぶんぶん頭を振って伝えても、絶っ対、そんなの都合のいいように無視されるわ。
「ふーん」
 うあー…… やっぱり。首を目いっぱいひねって、ばらばらになった髪の隙間から先生の顔見上げたら、もーほんとに、なんでそんな顔できるんですかってくらいうれしそーうな、表情。
 うにゃうにゃ胸とかおなかとか触ってた左手が私の顔に近づいてきて、顔にかかった髪が払われた。
 髪がなくなって、少し明るくなった視界に覆いかぶさるように、先生の顔が近づく。
「その顔」
 少しあいたままの唇に、先生の唇が重なって、離れる。
「その目、すげぇイイ感じ」
 どーこーがーっ
 睨んでるの。なのになんで、楽しそうに笑ってるのよぅ!
「鏡あったら見せたいくらい」
「……うっうあんっ」
「キレイだ」
 セリフと刺激が重なる。
「どうしようか?」
「いっ」
 耳噛まれた。いや、歯じゃなくて唇で、だけど。同時に胸の頂を摘まれてぎゅって目を閉じても堪えようとしてもからだがまた勝手にはねる。
「このままずっと居たいんだけど」
 このまま!? このままって、このまま!? ナニ言い出すですか!?
 あせって見上げると、イタズラっぽい先生の目と、目が合う。
 それも一瞬で。
 胸にあった腕が腰に回って、ぐい、と引き上げられた。無意識に膝が進んで、うつ伏せのまま膝をついたような体勢。
 自分の格好、自覚したら、頭が下になってるって理由だけじゃなくて、もうほんとにめちゃめちゃいやらしい格好でしょ。体中の血が顔に集中したみたいになる。
「あっひゃあう」
 もう、わけわかんない。
 前。人差し指か中指、一本入っただけなのにナカがびくびくするのが自分でも分かる。
 後は相変わらず、もちろん親指はいったままで、前の指が抜かれる。いっしょに濡れた音がして、ソコからあふれたのが、内腿を伝う。
「あ、ああっあ……」
 前のほうに、いきなり挿れられてた。いきなりって言っても、さっきしてるし、めちゃめちゃ濡れてるし、痛かったりとかそう言うのはないんだけど。
 後に指が一本。入ってるだけで、いつもより全然、質量感が違って。
「うぅっ!! あー!!!」
 後の指が、ほんの少し動いた。前のほうに。押すように。
 体勢も動物みたいなんだけど、悲鳴もそんな感じ。
 動いてないのに、挿れただけなのに。
 目の前が白く霞む。
 それだけでイっちゃった。
 不覚ぅ。
「そんなそそる目でみるなよ」
 目が潤んでるのはイっちゃったからで、私は怒ってるのっ!! 大体約束じゃ一回だけって言ってたのに。
「……も……っ!! ……はぅんっ」
 イっちゃったお陰で、体の整理がついて頭の回転数少し戻ってきたから抗議しようとしたら、口をあけたのと同じタイミングで前から先生が出て行く。すぐあとゆっくり、後の指も抜かれた。
 思わず瞑った目を開けて、今度こそ抗議しようと先生の顔を見る。
 私の視線に、先生が気づいてちらりと見たあと。にや。って
 直感。
 なんのって、ヤられるって。うん。
 現にイったあとで力が入らなくなった私の腰、掴んで立たせてるんだもん。
 

 ………どうやって逃げたのか、自分でもわからないんだけど。
 気づいたら、ベッドと壁の間の床に落ちてた。背中に壁、間の幅は五十センチくらいのものだから、左足はベッドにひっかかったまま。もう、ものすごく間の抜けた格好なんだけど、気にしてる暇はない。
「………っ!!! 初夜に後でやる新婚がっ!!! どこかほかにいるなら連れてきて!!」
 どこにいるのよって聞いたらココって言うに決まってるんだもん。しばらく不自然な体勢だったから、どうにも息がしづらくて酸欠だった分まで手伝って、肩が上下するくらい荒く息をつきながら力の限り怒鳴る。
 先生も、どうやって逃げられたのか一瞬分からなかったみたいで、珍しくしばらく固まってたあと、苦笑して、近づいたら噛み付いてやるって感じで怒鳴ってる私をベッドの上から見下ろす。
「もー別で寝るっ!! 先生となんか寝ないもんっ!!」
 じたばた手足動かして、どうにかこの隙間から出ようともがいたんだけど。あれ?
「どうした?」
 ぴたっと止まった私を見て先生が笑う。うー。
「もしかしなくても腰がぬけてるとか」
「ち、ちがうっ!! もー近づかないで、あっちいってってばっ!!」
「そんなところにいたら冷えるだろうが」
「誰のせいでこんなことになったと思ってるのよぅ」
「俺のせいならうれしいね」
 私はうれしくないっ!!
 ひょいと右足までベッドのヘリに上げさせてから、軽々、背中に腕が回って、ベッドの上。
 おでこがくっつくくらいの場所から先生が私の目をのぞきこむ。
 音を立てて軽いキスをしたあと、抱擁。
 お互いの顔がお互いの肩にあるくらい、ぴったり体がくっつくくらい、ぎゅーって。ううー。ごまかされてるよ私。
「悪かったって」
 先生の手が、髪をなでる。
「もうしない?」
「それはどうかな。って、暴れるなよ」
 暴れるわ。当たり前でしょうがっ!!
「今日はしません。ゴムひとつしかもってきてないから」
 それは、しません、じゃなくて、できないからやりませんでしょう……
「俺は別にそのままでもいいんだけど」
「やーめーてー。ビョーキになったらどうすんのよぅ 感染(うつ)したらリコンしてやる」
 何回も言うけど。そういうことする器官じゃないから。人間の器官の中で一番雑菌があったりする場所だから、病院行くのがちょっと恥ずかしい病気になる可能性があるらしい。先生はかまわなくても私はそんな病気でお医者様にかかるのは絶対いやだからね。
「ハイハイ。離婚されんのはヤだからしないってば」
 今日は。
 って、聞こえない声。肩に当たったあごが動いたから音じゃなくて振動で伝わった。
 できれば一生こんなほうでしたいなんて思わないで。体の中からめりって音、聞こえた気がしたんだからね。あの瞬間。
「なによぅ」
 体を離して、くすくす笑ってる先生に、ちょっと不機嫌な声を作って聞く。
「ああ、ちょっと思い出して」
 やらしー。思い出し笑い?
「初めてしたときも、夏清、腰ぬかしてたな、と」
 懐かしそうに、笑う先生。
「もう二年か」
 そう。もう少しで二年経つ。先生とこうするようになって、二年。二年間、時々思ってたことが、突然頭の中、いっぱいに広がる。心が痛くなる。
 あのときが全部。
 

 私の初めてだったらよかったのに。
 先生が、私のたった一人の人だったらよかったのに。
 そしたらこんなに、悲しくならなかったのに。
 

 触れるだけのキスをして、離れて。先生の指が乱れて絡んだ髪をそっと梳くようになでる。
「どうした?」
 俯いてたいら、あごに先生の手がかかって、くいっとあげられる。
「どうしたんだ?」
 泣きそうな顔、してるのが自分でも分かる。そんな顔を見た先生が、困ったのと優しいのが混ざった顔になる。
「先生が」
 涙がこぼれるのが、上を向いててもぼろぼろ出てくるのがわかる。
「初めてだったらよかったのに」
「そんなことは……」
「あのときが」
「初めてだろうが」
「だって」
「俺は初めてだった」
 ? だって。
「あんな気持ちいいセックス、したことなかった。こんなことは体が処理するだけで本能だからって思ってたのに」
 言葉を切って、涙を舐めて。
「それまで誰とやっても、どうやっても別に、ただするだけで、どうでもいいことだと思ってたのに」
 頬に触って。
「初めて、こんなに貪欲な自分に気づいて」
 止まらない涙の跡をなぞって。
「初めて、人をこんなに好きになって」
 笑って。
「夏清として、初めてそれまで埋まらなかったものが埋まって、またそれより広い場所ができた気がした」
 すごく柔らかく。
「心の底から、好きで好きで堪らない人とするのは」
 笑って。
「あれが初めてだった」
 唇が唇と重なる。かすめるように一瞬。そのあと頬やあご、まぶた。いろんなところにやさしいキスをされて。
 わたしも。
 そう伝えたくて、背中に両手を回してぎゅってする。
「俺は、夏清がこうしていてくれるなら、全然気にならない。だから気にするなとは言えないけど、それだけ分かっとけよ」
 私の背中が、大きな手と、腕に包まれる。
「だからもう泣くな。そういうのこだわって、違うほうでしたいとか言ってんじゃないから」
 うう。
 思ってたことばれた。ばれないわけないか……でもそうじゃないなら。
「もっと性質わるいよ、それ」
「そうか?」
「だって、諦めないってことでしょ?」
 少し離れて、座り込んだままちょっと口まげて見上げて言うと、先生がご名答、って笑ってる。
「……悪いんだけどな」
「なに?」
「もう一回していい? 普通にするから」
 先生の顔が、させてお願い、って言ってるみたいで。
 なんだかかわいくて笑えちゃったから。
「いいよ」
 言いながら、自分からキスしてた。

                                        2002.7.14=up.





どっちがえろい? ←    → やっとオチ


Copyright © 2002 JUL Sachi-Kamuro All rights reserved.
このページに含まれる文章および画像の無断転載・無断使用を固く禁じます
画面の幅600以上推奨