空高く。恋晴日和2−2


 タイマーで点灯する防犯灯が煌々と照らす玄関。けれど家の中に入ってドアを閉めてしまったら、そこはほんのり薄暗い。
「ただいまーって。静かだねぇ」
「だな」
 両親の乗った飛行機が夕暮れの空に飛び発つのを見送って帰宅する。もともと大きな家なのだ。彼らがやってくる前に戻っただけなのに、なんだかひどく寂しい雰囲気が漂っている。
「ソラ一人だったときはもっと静かだったのですかねぇ なんだかもう思い出せないです。貴巳君がいないおうちなんて考えられま──……んっ」
 厚底ブーツを脱ごうと框に座りかけた時、腰にするりと貴巳の腕が巻きついた。もう片方の手が、あごを捉えてくいっと上げられる。そこからキスまで。きっと一秒にも満たない瞬間、胸の奥がきゅいと締め付けられる。心臓が止まったような錯覚。不意に息苦しささえ感じる。けれどこの人生の時間の中の砂粒のように小さなひと時が、永遠に心に刻み込むのは他のものでは絶対に与えられない幸福感。強引に自由を奪われているのになぜか安心できる。求められていると感じるからだろうか。
 コートのジッパーが引き下ろされる。腰に回っていた手は太ももをなであげて、短いスカートの中に侵入している。ジッパーを下ろした手も無駄な動きをせずに体にぴったり添った蓄熱素材の肌着の上を這っている。
「んんっ……ゃあだ、貴巳君……こんなとこでっ」
 唇が耳からうなじを這う。その感触にぷるぷると体を震わせて、ソラがか細く抗議する。
 太ももをゆっくり撫で回していた手がショーツに包まれたお尻のほうまで上がってきて、薄い布越しに軽く揉みしだかれる。
 こんなトコじゃダメだと言いたくても、やっと離れた唇から漏れるのは熱と湿度をたくさん含んだ甘い吐息。
「んあんっ! お風呂……シャワー浴びてからっ!」
 ショーツを食い込ませるように、貴巳の指がその隙間を下から上へと執拗になで上げる。もどかしい刺激に腰から下を振って身をよじりその腕から逃れる。
「そんな急がなくてもっ まだ時間あるしっ お風呂入んないでヤるのは反則ですっ」
「……反則って。いつ決まったんだ」
「い、いま」
「じゃ 一緒に──……」
「だだだだだめぇええぇー!! それも反則っ! お風呂は別々ッ!」
 顔が熱い。きっと真っ赤だ。頬に触れる貴巳の指が冷たくて気持ちいい。貴巳が身をかがめて耳元に唇を寄せる。ひそりとささやくような声。耳たぶに触れる唇。
「んじゃ、ソラが先に」
 何度も軽い音を立てて貴巳が頬にキスを落とす。背筋がぞわぞわするようなくすぐったさに肩をすくめて流されて行く自分を手繰り寄せる。これが結構精神力を使うということを貴巳は知らないからきっとこんなこと簡単にしてしまうのだ。
「ちゅーでゴマかさないっ ソラがあと!! 貴巳君が先ッ!! 覗き乱入禁止ですっ!!」
「だって今更」
「はっ 恥ずかしいからですっ! それとコレとは別なのですっ! ほらほらほらっ 先入っちゃって下さいっ」
 怒った振りをしながら先に貴巳を玄関から追い立てる。ちぇーっと言いながら、貴巳が浴室に向かうのを見届けて、息と一緒に体の力を抜いて、ソラは改めて框に座ってブーツを脱いだ。


 パジャマ姿で現れたソラに、ベッドでゴロゴロしていた貴巳が、明らかに不満そうな顔で起き上がる。
「貴巳君、そんなカッコしてたら風邪引くよ?」
 砂糖菓子のようなヒラヒラふわふわしたパジャマをきちんと上下着ているソラに対して、貴巳はスエットの下だけしか履いていない。部屋はすでにエアコンの暖房で温まってきていたけれど、冬場にその格好はどうだろう。
「どうせ脱ぐし? ってか、なんで着てんの。前みたいのでいいのに」
「まあ、そうだけど。なんていうか、パジャマ着たい気分だったのっ」
 ベッドの上で胡坐をかいている貴巳からほんの少しだけ離れたところにちょこんと座る。
「貴巳君の部屋って殺風景だよねぇ」
 黒とグレーのモノトーン。唯一色がついているのがベッドカバー。それにしても濃い青なので、自己主張は最低限だ。しかし、背の高い貴巳に合わせて縦は通常のものより二十センチ長いロング、幅がセミダブルで部屋の三分の一を占めるかのようなでかさだ。
「ソラの部屋がケバすぎるの」
「ケバくないですよ。ちゃんと色は統一してます」
「ドピンクで? 今時ラブホもそんなんじゃねぇよ」
「行ったことないくせにー」
 いつの間にか近づいてきた貴巳の長い腕が上半身を絡め取る。しゃべっている間に体がすっぽりと後ろから包み込まれている。
 ヒラヒラの上衣の裾と合わせ目からするすると入ってきた手が湯上りのしっとりした肌を撫でるように愛撫する。
 胸の下線をなぞる人差し指。双丘の裾野をゆっくり撫でた後、一旦外に手が出てきて、花の形をした小さなボタンをぷちぷちと下からはずされて行く。
 肩からパジャマをひき下ろされ、袖を抜くときは脱がされたというより、自分から腕を抜くように脱いだ。
 上半身だけ何も隔てるものがなくなって、ソラの背中が貴巳の胸とくっつく。  首を目一杯めぐらせて、ちょっと苦しい体勢。キスしよって言わなくても、ちゃんと貴巳には分かるようで、ふいっと笑顔になって、唇が重なる。
 後ろから回された手に胸を揉みしだかれる。全体を揉んでいたかと思えば、頂をいじられる。その刺激に体が勝手にヒクついて、重ねた唇がずれる。元に戻ろうとする顔を唇の動きだけで封じられる。
 胸をいじる手が腹を撫でてパジャマの下衣、ズボンのウエストに指がかかる。引き下ろそうとされる布ずれに軽く腰を浮かせてその動きを助けてしまう。
「あの……」
「ん?」
 足首に絡まった下衣の残骸を蹴るように脱ぎながら唇がほんの少し離れた瞬間を逃さず、ソラがナナメに体を預けて貴巳を見上げる。
「や、なんと言うか。その、えっとですね」
「なに?」
「な、んでも、ナイ。デス」
「ふーん。コレ、解いていい?」
 視線を落とすと、貴巳が腰骨の少し下でリボン結びになっているヒモをつまんでぴんぴんひっぱっている。
「ん、イイです」
「こんなん持ってたんだ?」
「や、その。なんと言うか。最近、買いました」
 両脇が細い紐。ロウウエストデザインの真っ白な布はとても小さくて、体を守る為に身に着ける衣類という観点からは、かなり実用性に乏しいデザインのそれ。
「……あー……コレ穿きたいからわざわざパジャマ?」
「え、や。そうなのですけどっ」
 バスタオルの下に下着をつけるのはどうかと思ったのだ。
「あの、なんて言ったらいいかわかんないんだけど。貴巳君とするときこういう下着はいてるとか……さっきみたいに脱がされてて、協力って言うか、時々自分から脱いじゃったりしちゃうのとか、我ながらえっちしたいですって言ってるようなものっぽいというか……恥ずかしいのにやっぱりしたいんだけど、その、そう言うの、貴巳君はどうなのかなとか」
 恥ずかしくて顔が上げられない。目も開けられない。ただ、肌の感触で、心もとないヒモが引かれて、そこをショーツが覆う感触がぴったりからふんわりに変わった。
「大歓迎だけど、なにか?」
 すでに両脇、ヒモが引かれてゆるゆるだ。俗に言うお姉さん座り。両腿をくっつけるように座っていたソラの膝裏に貴巳の手が差し込まれる。
「えっ!? やぁっ!!」
 ぐいっと足を開かされて、ソラが小さく悲鳴を上げる。白い布がかろうじて引っかかるように覆っているがこんな体勢恥ずかしすぎる。
 あっという間に貴巳の足がソラの足に絡みついて簡単に閉じられなくされてしまう。膝裏から腿へ。手のひらがすべる。
「っ!!」
 足の付け根とお尻の境界線はドコなのだろう。けれど貴巳の指が止まったのは、ちょうどその辺り。あと少しでその場所という、絶妙にギリギリ。
「こんなカッコ、恥ずかしいからっ」
「ソラってホント、わっかんねーんだよなぁ 結構大胆かと思ったら、すんごい恥ずかしがるし」
 すぐ後ろで貴巳がくすくす笑っている。
 腿の後ろをなでながら、貴巳が肩に軽く噛み付く。
「っひんっ!」
「何て言うか、そう言うのがまたイイんだけど」
 体が勝手に前にのめる。ベッドに両手をついて無意識に体を支えて、はっと気づく。これはもしかして、先ほどより恥ずかしい体勢のような。
「……っあ!! だめぇ……」
 かろうじてひと結びされたヒモのおかげで何とかそこを隠していた最後の一枚は、あっけなく指一本で取り払われる。熱い息がかかって、体の奥から漣のような震えが起こる。
 一番見られたくない部分に、視線を感じる。まだ閉じているソコを、貴巳の指が左右に開く。
「いっ……やぁ!!」
 自分さえ見たことがない、自分の体の奥まで覗かれたような気分だ。
「もう濡れてる」
 ちゃぷり。
「あっ! ひゃ……っく、ぅんっ」
 膝裏を撫でていた手が、腿の表をがっちり掴んで放さない。四つんばいの格好。貴巳がどんな体勢なのかは見えないけれど、長く伸びた貴巳の前髪がお尻に触れる。
 後ろから、舐められている。わざと音を立てて。自分の口から漏れるのは、悲鳴なのか喘ぎなのか吐息なのか。それとも別の何かなのか。
 びくびくと反応がよかった場所を無抵抗になるまで執拗な責めが続く。
 気持ちいいところを、気持ちよく嬲られる。あまりの快感に体が逃げる。敏感な部分に這う舌の動きにあわせて体が戦慄いて、声が漏れる。
「あうっ! やあぁ……だめっ そんなしたら、もっ もうっ!!」
 視界が白くかすむ。それはまぶたの裏が白いのだろうか、それとも視覚を司る脳内の出来事なのか。
 このまぶしい何かはどこからやってくるのだろう。
 どこまで連れ去られるのだろう。
「いやっ! いいっ…… も……だめ……もっ、これいじょ……あっ あ、ああんっ」
 いつまで耐えたら開放されるのだろう。
 いつまでだって酔いしれていたいのに。
 どこまでだって上り詰めて。
「あああああああっ………」
 獣が吠えるようにその背が反って、その一瞬に体の力が全て開放された。
 自分の腕がまるで言うことを利かなくて、ただもうぐんにゃりとくず折れる。達した事のけだるさと恥ずかしさで、顔が上げられない。
「ソラ、すげえドロドロ」
 そこから分泌される液体は、熱いようで体温と同じ。だから自分自身ではどこまでそれが流れ出ているかなんてわからない。貴巳がそう言いながら内腿に垂れるそれをぬぐうように撫でる感触に、鼓動の余韻も収まりきらない体が二、三度跳ねる。
「…………っ!」
 声をかみ殺して顔を押し付けていたシーツからちらりと貴巳のほうを振り向く。
「そんな瞳で見てもダメ。まだまだだから」
 そんな瞳ってどんな瞳よ? と思いながら、なんだかもう最高に意地悪で楽しそうに笑う貴巳を見上げる。
「ほら、体起こしてちゃんと手ぇついて。この体勢もすんげぇやらしくてイイけど、んな風に沈んでたらせっかく下向きで揉み放題なのにさわれねぇじゃん、乳が」
 頭の片隅でなんて言い分ですかと思いながらも、そうしたらきっともっと絶対気持ちイイよと別の場所から声が聞こえる。胸の頂が布に擦れる刺激さえ気持ちいいのだから。それに言われるとおり、お尻だけ突き出すように高々と上げているようなこのポーズは、かなり恥ずかしい。例えば客観的に上から見下ろしたりしたら、死ねないかもしれないけれど、とりあえず気を失いたい。肩を後ろから支えられて体が起こされる。腕がぷるぷるしたけれど、腕が震えるから胸まで揶揄でなく震えていたけれど、何とか体を支えて──……
「ふぁんっ!!」
 じゅぐり。
 再びシーツに肘を付く。大きな手を広げれば、親指と中指が何の苦もないように届いて、片手で両胸の頂を弾かれる。もう片方の指が、内側に差し込まれてかき回すように動かされている。途切れることなくねっとりとした濁音が響く。コレもきっとわざとだ。絶対わざと音がたつように指を動かしている。
 ナカには多分二本。それが円を描くように動いている。その動きに連動して親指が敏感な花芯を指腹で揉みこむ。
「あんっ! やんっ!! あうっ……」
 かろうじて肘から肩への高さ分浮いた上体。胸をいじる手も、下向きで重力のかかり方が変わった胸をこねくり回している。
 その動きにあわせるように腰が動いて声が漏れる。甘く甘く、脳髄に届くような声が。
「気持ちよさそうだな」
「んっ あんっ そんなっ……の、聞いちゃ……やだぁっ あっ ああっ あ、またっ! また来ちゃうっ!! だめぇっ たかっ たかみくっ もう、ソラ行っちゃうよっ またっ!! あああんっ!!」
 敏感になっていたからか、あっという間にまた達してしまった。その余韻の中ただ息を繰り返す。
「気持ちよかった?」
 お尻の双丘を交互に舐められている。乾いた唇と濡れた舌。
 首を縦に振りかけて、ソラが慌てて横に振る。
「素直じゃないともっとやっちゃうよ? ソラが気持ちいいって叫ぶまで」
 そう囁かれても、気持ちよかったと思いながらも、首は横にしか振れなくなったのか、他の動きをしてくれない。
「そんな強情張るなら、このまま後ろからヤっちゃうけどいい?」
「ふえ?」
 なんて言ったの? と後ろを向こうとした瞬間、熱くて大きくて。長い間シテなくても体が覚えているこの感覚。カギが同じ形の鍵穴にしか納まらないのと同じように、それはもうぴったりとソラのナカになじんだものが一気に奥まで侵入を決める。
「あっ! すごっ……!! っくぅんっ」
 体の奥から普段はカギをかけてしまっている──けれど最近簡単に出てきてしまう──ねっとりといやらしくて恥ずかしい部分が、もっともっとシテと求めながら、別のところで砕けて小さくなった理性たちが甲高い声を上げて不協和音のようにもうだめやめてと拒絶する。
 ぴったりと隙間なく埋め尽くされる。
「やば。全然、もたない……かも」
 ゆるゆると始まる抽送。柔らかい襞が伸びて縮む快感。貴巳の両手が腰を捉えて己の動きにあわせてソラの腰を揺さぶる。
 ソラのお尻と貴巳の腰がぶつかる音。それさえも汗と体液によって湿り気を帯びている。もっとリアルにこすれあう部分からは、自分の体が奏でているとは思えないくらいぐちゃぐちゃと粘着質な、音。
「あっ! お……っく……ふかっ!! やぁ……!! だ、めぇっ 奥、当っ……こすれっ……るぅっ! こっ……なぁ……」
 こんな最中にしゃべろうというのが無理なのだけれど、初めての体勢で貫かれて、コレまでのとはまた違う感覚に戸惑いながら酔いしれる。
 奥の奥まで突き入れられて、内と外が違うリズムで揺れている。内臓をえぐられるってこんなカンジかもしれない。
 緩急織り交ぜてがくがくと揺さぶられたかと思えば、腰を使うようにかき混ぜられる。前後の抽送よりも、スキマができた入り口から空気が混じる分、混ぜられるほうがいやらしい音が立つ。そんな動きを幾度も繰り返されて、無意識に同調して腰を振りながら、全然持たないなんてウソつきと心の中で叫ぶ。もはや口からは意味のある言葉なんて出ないのだ。自分の意思とは別のところからの指令に従って、ものすごくいやらしい……声というか、音。酸欠にならないように精一杯息を吸って吐く。口呼吸のせいで喉がからからだ。
「ごめ、もう」
 もう何も考えられないくらい、頭が真っ白で目の前がチカチカ瞬く光景を長く見ていたけれど、囁くように貴巳がつぶやいた言葉の後、与えられる抽送の幅が短くなって、動きが忙しなく早くなる。貴巳のブレスの間隔が短くなっていく。全体に入ってるのに、奥が重点的に攻められている感覚。肌と肌が当たって、貼って剥がせるシールを捲るときのような音がする。ああ、人の体って離れるときも音がするのかと白濁した意識の中で妙に納得してしまう。
「うぁっ! っああ───っ!」
「あっ ああ!! あうっ! あああ────!!」
 あいうえおって。
 叫ぶときって母音だ。自分もだけど、貴巳も。イくときの無防備な悲鳴みたいな貴巳の声が好きだ。大抵一緒に自分も叫んでいるんだけれど。
 そんな叫び声と一緒に一層奥まで侵入されて。
 腰を支えていた貴巳の手が外れる。もう足にも全然力が入らない。へにゃへにゃとつぶれたソラの上に、貴巳が覆いかぶさってくる。耳元にかかる荒くて熱い息。全力で戦ったあとの命を取り戻そうとする息吹。
「はー もうすげぇ 気持ちよかった」
 暫くソラの体を上から包むように圧し掛かっていた貴巳が、そうつぶやきながら体を上げる。外側が止まっても、内側にあるものは別行動で、ナカでどくんどくんと脈打っていた。それを引き抜いて、後始末をしている雰囲気。というか、いつつけてたの、そんなの。
「ほれ、素直に言ってみ?」
 顔を横に向けてつぶれたままのソラの横にごろんと転がって、貴巳が顔を覗く。
「……うしろから、ヤダ」
「うわ。素直じゃねぇ まだ足りんか。あんなになっといてそう言うか」
「ちっ 違うのです。その、あの、まあ、かなり、気持ちよかったのです。ハイ。認めるですよ。前したときとはまた違っててもうだめとか思いました。でも……」
 気だるく重い腕を伸ばす。イヤになるくらい動きは緩慢。何かヘンなクスリでもやったあとみたいに指が小刻みに震えている。
「貴巳君はソラのこと抱けるからいいですよ、後ろからでも変わらないでしょうよ。でもソラはなんだか一人ぼっちなのです。一緒にイクならソラは貴巳君にしがみつきたいです」
 貴巳の頬を触りながらとにかく一息にそう言って、目を閉じて息を吸って、吐く。
「気持ちいいけど寂しいから、後ろからばっかりはヤダ」
 貴巳の手が、顔にかかった髪を払ってくれる。
「ソラは貴巳君のこと、いつだってぎゅーってしたいのです。ぎゅーってされるのもスキだけどソラだってしたいのですっ! なんかも、貴巳君ってば一人ガマンしたみたいに言って。なんだか全然信じてくれてなかったっぽいですけど、ソラがいろいろガマンしてなかったとでも? 貴巳君とこうしたくなかったとでも? ちゅーしたら離れるのがイヤになるのですよ。お父さんとママなんか早くいなくなっちゃえとか思うのですよ。ヘンなスイッチ入っちゃうんですよ。スイッチ入ってるのに体が離れるのは切ないのですよ?」
「わかった、わかったから」
「なのに貴巳君はスキあらばってカンジだし、ソラだってダメダメ言いたくないのに言わせてるのは貴巳君だし、なのに貴巳君は不機嫌になるし、もうどうしろというのですかっ!? 不機嫌になりたいのはソラのほうでしたっ!! ソラなんかもう、貴巳君がちょっと触っただけでめろっとなるのにっ ちゅーとか、するだけでおなかの奥がきゅってなって、やっぱりソラってえっちなのかしらとか悩めるしっ ホントもう、思い知るのは貴巳君のほうですっ! 貴巳君のばかーっ!! ソラがこんなに怒ってるのになに笑ってるのですかーっ」
 ソラの背中に大きな手を当てて、貴巳が体を震わせて笑っている。ぽかぽかと力の入らない手でその胸を叩いてもダメージを与えられないみたいだ。
「いや、思い知りました。ハイ。あー 俺って愛されてるー」
 ひいひい笑いながら背中の手がぽんぽんと優しく動いて、ぐいっとその胸元に引き寄せられる。
「あっ あっ ああああ!? 違って!! 貴巳君聞いてますか? ソラは──」
 抗議の声をキスでさえぎられる。顔がクロスして、目一杯口を開けた貴巳に唇ごと食べられてしまいそうな、キス。
「──ソラは?」
 唇を離して、顔を少し離して。にっこり満面の笑みの貴巳の顔を見て、口を開けかけて閉じる。
「……もういいのですっ! ソラは自分の部屋で寝ますっ」
 まだ体に力が入らないけれど、余韻はほとんど過ぎ去った。よっこいしょとソラが起き上がるのと同時に、貴巳も起きる。
「いろいろ思い知ったのに、コレだけで終わると思ってんの? どこにあんのソラのスイッチって。キスしただけで濡れちゃうからやめてとか言われたほうが萌えるけど?」
 終わりですと言う前に、伸びてきた貴巳の腕に捕まる。
「なっ! わっ!! おっ……おわっ」
 胡坐を崩したように座った貴巳の足の上にソラが正座したような状態。
「膝ささって痛いからこう。おっと」
 ひょいひょいっと足を上げられて、貴巳の両脇下に運ばれる。上げられた瞬間後ろに転がりそうになって、貴巳がソラの腰に手を回す。
「あの、これはさっきよりいろいろはずかしいんですけど?」
 小さい声でなんか当たってるしとつぶやいて、肩の上からの抱擁に任せて身を寄せる。自分の腕を貴巳の腰に回して。貴巳に乗っかっている分、立っているより貴巳の顔が近い。ああ、貴巳も足が長いんだなぁと今は関係ないことを思いながらその肩にもたれる。
「いいじゃん。抱きたい放題くっつきたい放題だろ? 正常位よりソラの自由度は高いと思うけど?」
「ほんっと、貴巳君はどうしてそういう恥ずかしいことサラっといいますかね!?」
「ソラしか聞いてねぇし。ってか、他にどう言う?」
「……い、言わなくていいのですっ! こう、雰囲気とか、間とかっ 言わなくても伝わるというか、言われなくても相手の気持ちを汲むとかっ 日本人ってそういうものなのですっ とにかくやめて下さい」
「やだね」
「郷に入れば従うのでは!?」
「日本でだって欧米スタイルのディスカッション重視な教育もされてんだろ。いいところは見習って変えてくもんなんだよ」
「なんか違うのですー」
「違わねぇ 俺はやりたいことはするし言いたいことは言う。ってなわけで」
 あごを掴まれて顔を引き上げられる。キスが来ると目を閉じて待っていても、何も起こらない。どうしてだろうと目をそっと開けると、なんだか満足そうに笑った貴巳の顔がある。
「もっかいしよ。この体勢で」
 拒絶する間もなく唇を奪われる。本気で拒絶するつもりはなくても、なんと言うか、形ばかりいやんって意思表示くらいさせてくれていいのに。そう思いながらも、幾度か短く離れ角度を変えてキスを繰り返していくうちに両腕はいつの間にかしがみつくように貴巳の頭を捕らえているし、貴巳の手は、胸とその下の、閉じるに閉じられない敏感な部分を刺激している。
「んぁんっ だめぇ」
「こっちこんなびっちょびちょにしといてダメって言ってもダメ。キスしただけで臨戦態勢じゃん」
 唇の端からこぼれて落ちた、飲み込みきれない唾液の筋を貴巳の唇が這う。徐々に下へと移動して、大きな背中を丸めて胸に顔をうずめる。
 指が侵入してかき混ぜられている下のほうも、唇が、下が這う胸でも、止むことなく水音が聞こえる。
「音、たてちゃ……やぁっ」
 口ではそう言っても、体は勝手に求めている。でなければ、両手で貴巳の肩につかまって、のけぞるように胸元を差し出したりしないし、いじりやすいようにほんの少しだけ腰を浮かせたりするわけがない。
「っ! ひあぁっ!!」
 にゅるり。花芯がこすられる。ナニに当たっているかなんて、見なくても分かるけれど、貴巳の両手が腰骨の辺りを支えていて、自分が動いているのか貴巳が動いているのか、ゆっくりと大きなスライドで上下に刺激される。
「コレ、イイの?」
 短いあえぎ声を上げながらぶんぶん首を振る。方向的にはナナメに振り回す。
「俺もなんか、結構イイんだけど、やっぱ入れたいからちょっと待って?」
 上半身を離してゴソゴソと手探りで避妊具を探して、あっという間に準備完了。
「だからなんでじーっとみてるかな。俺にしてみたらそっちのがよっぽど雰囲気とかぶちこわしじゃね?」
「なっ や、手際いいなーとかっ」
「ふーん。じゃ、今度ソラがやってみる?」
「えええええっ エンリョしますっ 謹んでっ!!」
「別に口でつけろとか言わないし。普通に手でいいけど」
「くっ 口っ!? そんなのどうやって!?」
「あー 知りたいならあとで見る? 無修正モノ。コピーのだけど」
「なっ なっ なっ!!」
「しゃーねぇじゃん。二週間近くできなかったし。俺はソラと違って共犯者がいないからソラのそう言う写真なんか持ってないし?」
「のあ────っ!!!」
「ソラだってしてたんじゃないの? なあ?」
「ひあんっ!」
 会話をするために……というか、付けるために少しだけ離れていた体……腰を手繰られて再びソレが密着する。再びゆるゆると濡れた摩擦を受けて、意地の悪い最後の質問に答えようにも言葉にならない。答えたくないのだけれど。
「んっ! あ、っくぅん、ぁふっ」
 途切れ途切れの息。それに伴う甘い音。ずっと貴巳の肩においていた手にほんの少しだけ力を込めて、自ら動いてゆるい刺激をむさぼる。指や舌に与えられるのとはまた違うもどかしさが、徐々に強まる高まりを濃縮させていく。
「あっ ああっ んく……あ、イィ……」
 最初こそ貴巳の手に動かされていたものの、徐々に自分自身で腰を揺らすソラに、貴巳があちこち口づける。羽根が触れるような軽い唇の感触。こちらももどかしいくらいにソフトタッチだ。胸は全体を揉むように手が這っている。時折頂を刺激するが、摘んだりするわけではなく、ただ指が擦れて行く。
「んっ! ふふぅんっ や、来るっ はぁっ!」
 先ほどしたときほどの高みほどではなく、ふんわりと漂うような快感が体を包み込む。けれどなんだか物足りない。
 しかし、敵はこのくらいじゃ許してくれるわけがなく。呼吸と意識を整えるのをさえぎるように、耳朶を軽く噛んで吸って、頬を寄せた貴巳が耳元で囁く。
「この動きって似てるよな、オナ……」
「のぎゃ───!!!!!」
 容赦ない声量で耳元で叫ばれて、貴巳がうっと体を離す。
「ぎゃーぎゃーぎゃーっ!!! もうそれ以上言っちゃだめっ! 絶対だめっ!!!」
「……そっち言ったらダメならえーっと、じち……」
「ぎゃー!!!」
「んじゃ、しゅい……」
「イヤー!!! なんでそんな言葉ばっかり覚えるのですかっ! 先に言っとくけど漢検に出てるわけないですそんなのっ!!」
 耳を押さえて首を横に力の限り振る。もう聞きたくない。知ってても口にしていい言葉じゃないと思う。知ってる自分はどうなんだといわれたらどうしようもないのだけれど。
「別にそんな言葉ばっかり覚えてるわけじゃねぇけどよ、そっちのが興味あるし面白いじゃん。してたんだろ? やれない間」
「んむむむっ」
「答えねぇってそれもう答えだし。ソラ気持ちよかった? 俺もなんか、さっきも言ったけどそれなりにイイな、これ。柔らかい襞がまとわりつくカンジが。ソラが言わないなら俺がずーっとエロいことしゃべってやる。白状しろよいい加減。言うまでこのままこうしてんのもイイかもな? してたんだろ? お──……」
「やああああっ もうヤダ言わないでっ しましたっ したからっ してたからっ うわーん。た、貴巳君がいじわるだー」
「ウソ泣き禁止。本気泣きも明日に響くからなお禁止。んで、どんなふうに?」
「……イヤです。黙秘です。もう許して? お願い? ソラ、ほんとに涙でちゃいそうですよ」
 いいながらくすんと鼻を鳴らす。泣きそうなのは本当なのだ。至近距離から貴巳を見上げて小首を傾げる。テレビに出るようになってから、どんな角度がかわいらしく見えるかは、客観できるようになったけれど、こんなに近いとあんまり効果がないかも知れない。
「んじゃ 言わなくていいからさ」
 一生懸命コビを売るソラを眺めて、肩を抱き寄せて貴巳が耳元で言う。この距離、この音量。聞こえなかったフリはできない。
「ソラが挿れて? んで動いて?」
「………」
「そしたらもう言わないようにするし、いじめないから」
 暫くの躊躇。おずおずと体を離して、貴巳を見上げてその目を見て、キョロキョロ視線を泳がせて、腰を浮かせる。つい今しがたまで花芯が触れていたモノに、ソコよりも少しだけ後方の入り口辺りを寄せていく。
「んにゃっ!」
 自分のソコは十二分に潤んでいるし、貴巳のソレはものすごく硬くなっているのに、ソレの先が掠めただけで、腰を落としても入ってこない。
「無理なのですよぅ 貴巳君。入りません」
「そりゃ 手ぇ添えるとかしてちゃんと入り口に先っぽ入れとかないとズレるって」
「……先っぽとか言っちゃダメですぅ」
「ソラも言ってるソラも。ほら、手」
 相変わらず貴巳の肩においていた右手を繋がりあおうとしている場所へ誘われる。指が触れた瞬間、ピクンと反応が返ってきて、思わず引っ込めそうになったが貴巳の手が逃げを許さない。薄い人工物に隔てられてはいても、見ても、ソレが何度も体の中に入っていたとしても、手で触れるのは初めてだ。
「う、動いたっ 今動いたですよっ」
「ソラも乳さわったらビクビクなるじゃん」
「だから乳って言っちゃだ……んっ」
 キスをして、胸の頂を弾かれる。弾かれて、体がビクンと揺れた。
「ほら、早く」
 ソレの……なるべく根元のほうを持って支えて、再び腰を進める。何度か前後して、濡れた場所の中心にあてがって、ほんの少し腰を落とすと、狭い入り口を押し広げられる感触。
「ん……そのまま……進んで……」
 挿れられているのではなく、自ら受け入れていく。太くてたくましいモノが、ぐいぐい入ってくる。いや、挿れているのは自分自身なのだけれど。
 ぐいぐいと侵入されていく。先ほど後ろからしたときよりももっともっと奥の奥までえぐられるような深さ。子宮が持ち上がるような、おかしな感覚。
「ほら、動いて」
「んっ……」
 どうしていいのかわからないので、とりあえずゆっくりと上下運動をしてみる。
「そ……イイカンジ。ぐいぐい締められてる」
 貴巳に攻められているときよりもずっとずっと単調でぎこちない律動。さっきとよく似た動きなのに、外にあるかナカにあるかで、与えられる刺激が全然違う。
「ふぃっ! あぅ……っひぃ……っく」
 上下の動きに、ほんの少し前後を足す。腰を落とす時、落ちきる直前にほんの少しだけ後ろに。上げるときに、ほんの少しだけ前に。その「ほんの少し」の動きを加えるだけで、ナカはもちろん、外の花芯が貴巳に触れるのさえ気持ちいい。控えめに動いているつもりなのに、蜜と空気が交じり合って時々大きく濁音がはじけて聞こえる。
「すっげぇ ぐちぐち鳴ってる。わざと?」
「ちがっ……!!」
 頭を振る。けれど横なのか縦なのか、それともナナメなのかわからない。くらくらと目が回る。唇を求めて顔を近づければ、殆ど高低差なくキスを交わせる。手が自由に動く。自分はもとより貴巳も。大きな手が耳をくすぐって胸を触って脇を撫でる。
 自分から舌を伸ばすのはダメかしらとかどこかにある羞恥心に邪魔されていたのがウソのようにその唇を求めてキスをする。思う存分重ねて絡めて、唇を離す。いつの間にか閉じていた瞳を開ける。薄い膜を通したように、とろんと視界がかすんで見えるのはなぜだろう。
 唇の間に橋のように渡った唾液の糸が、途中にあった気泡のところで重力に引かれて途切れて落ちる。
「たか、み……君も、気持ち、イイ?」
 みだらに腰を揺すって、キスの合間に尋ねると、帰ってきたのは甘くて深い口づけ。今度は貴巳の舌が攻めてくる。手の動きが胸を揉み、頂を摘んだり弾いたりと声を上げずにいられないような愛撫に変わる。
「すげぇ……めちゃくちゃ気持ちいい」
 頬に、耳に、鎖骨にキスをしながら答える貴巳の声が、なんだかとても色っぽい。
 その声に嬌声で答えて、首筋を唇でくすぐる貴巳の頭を両手で上げる。見下ろしているわけではないのに、なんとなく上目遣いに見上げるようにソラの顔を覗き込む貴巳に、無意識に笑顔になってしまう。ソラの顎をくいっと持ち上げる時の貴巳の気持ちが、ほんの少し分かったような気がする。こんな顔で見上げられたら、キスしないでいられない。
 体はどこもかしこも男の子で、きれいについた筋肉に覆われていて硬いのに、唇はとても柔らかい。
「も、ちょっとでソラ、ダメかも……」
 武者震いのようにふるるっと体が震える。緩慢なのに確実な刺激に、ゆっくりゆっくり知らず知らずのうちに、もう昇りきれないギリギリまで到達していたのだろうか?
「どーしよ? すご、気持ちイイの。すごいすごい、今、ソラ、いやらしいことしてるのに……」
「してるから、だろ?」
 初めて自分で動いて、遠慮が混じるソラの腰つき。達せそうで達せない甘い甘い地獄のような快感の連鎖。
「俺、動いていい?」
「ん……」
 高潮した顔で、ほぅっと息を付いてソラが頷く。ゆるく上がった腰を持って、今までの穏やかさを粉砕するように、がつっと腰と腰をあわせる。
「ひあっ!!」
 たった一撃で、ソラが喉を、胸をそらせてのけぞる。貴巳は腰を抑えて逃がさずに無防備に晒された胸に吸い付いて硬く勃った頂を自分の唇を緩衝材にして噛み付く。
「うぁうっ! あくっ! ひっ!!」
 がつがつがつっと腰を打ち付けるたびにソラが啼く。
 乱暴な動きにもう片方の胸が揺れる。貴巳の髪にソラの指が絡んで、腕が細かく震えながらもこれ以上離れたくないとでも言うように必死でしがみつこうとしている。わきの下から貴巳の腕が回って、細い肩を後ろから掴んで、より深く深く入り込めるようソラを抱き寄せながら一層体を密着させる。ナカでだくんだくんと脈打つリズムと、胸を合わせて伝わる駆け足のような心臓のリズム。
「やぁ!! 貴巳くっ! おっ!! 奥っ 深ッ……ぃのぉっ!! ひんっ! あんっ! も、だめぇっ! やあああっ!! いっ あっ イっちゃ……ああああああっ!!」
 くっつける部分は全てくっつくくらい、しがみついて。体は体だから、溶けて合わさるわけではないけれど、ナカでどくどくと動くモノが主張していなければ、本当に一体化したような、同質感。
 お互いの肩に顔を置いて、今まで息をすることさえ忘れていたかのようにぜいぜいと体に酸素を送り込む。暫くそうしてじっとして、どちらからともなく顔が見える距離まで体を離す。
 一度顔が近づいて、額に軽くキスされて。
「ソラ、めちゃめちゃエロい顔してた。眉間とか、皺入ってて、耐えてる顔」
 貴巳が笑いながらソラの眉間をほぐすように親指の腹で揉む。
「んもう、貴巳君だって同じだったですよ? 鏡みてしたらいいのです」
「鏡いっぱいあるトコでする? 映るよ? ソラの恥ずかしい体勢とか。全部見る?」
「……っ! え、遠慮しますっ!」
 そんなソラの答えなんかお見通しなのだろう。なんだか手持ち無沙汰なのか、ふよふよと胸をもまれているのも、余裕ありありで笑っているのが悔しい。
「なら今もっかいしていい?」
 近づく唇から甘い誘い。
「……だめって言ってもするくせに」
 その唇は「気持ちいい」のスイッチかもしれない。いいよという言葉の代わりに、また唇を重ねた。






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